「語彙力がない」と生じる3つの不利益
null【1】得られる情報が偏る
まずは1つ目の「得られる情報が偏る」について。そもそも言葉を知らないと本を読みこなせませんので、それによって情報源に偏りが生まれます。
この「偏り」には2つの意味があり、その1つが深い情報にたどりつけないことです。語彙が貧しいと硬質な専門書は読めませんから、何か知りたいことがあっても、表面的な情報しか取り入れることができません。
もう1つは情報の取り入れ方が受け身になりやすいことです。複雑な内容の本が読めなければ、情報源はテレビや動画に偏りますが、映像を見るという行為は受け身になりがちです。
本の場合は書店やネット書店でたくさんの中から読みたいものを選ぶため、自分で主体的に選びとることになります。読むという行為は能動的なので、映像メディアに比べれば批判的に検討する目も持ちやすくなっています。
【2】年齢相応の信頼感が生まれにくい
次に、2つ目の「年齢相応の信頼感が生まれにくい」ことについて。不祥事で企業のトップや著名人が会見を開くときのことを思い出してみてください。このような場合に年齢相応の言葉で語ることができないと、仕事の能力だけでなく人柄まで疑われて、信頼を失います。
これは一般人でも同じです。特に「謝罪」や「拒否」のような、いわゆる深刻で気まずい状況で起こります。「いや、本当、マジでよくなかったと思ってるんですよね」と謝られたら、どのように感じるでしょうか? 語彙力の低さは、このようなときに「誠意がない」「反省していない」という印象につながりやすいのです。
信頼感という観点では、業界用語がわからない、業界用語を誤って覚えているというのは、自分の評価に致命傷を与える場合があります。
自分のなすべき仕事に関連する用語を知らないということは、単純に「漢字の読み方間違えちゃった、てへ」で済まされることではなく、その仕事に対する熱意や専門性を疑われる材料になってしまうのです。
【3】悪気なく相手を怒らせてしまう
3つ目の「悪気なく相手を怒らせてしまう」ことについても考えてみましょう。
皆さんは、目上の人に面と向かって「〇〇さんって要領いいですよね」と言いますか? 「要領」を辞書で調べると「物事をうまく処理する方法」といった意味が出てきます。一見誉めているようですが、この言葉は実際にはそれだけではなく、「表面的にうまく乗り切っている」という印象も与えてしまうのです。
単語集のようなもので言葉とその意味を見るだけで、実際の用例に触れずに勉強していると、言葉の使い方を誤ってしまうことがあります。言葉を表面的にしか理解できていないため、誉めているつもりでマイナスのニュアンスが伴う言葉を使い、知らないうちに人を不快にさせてしまう事例は、実は割とよくあることなのです。
このように、場面に応じて適切な言葉が使えなければ、自分ではまったく悪気がなかったとしても、人を怒らせたり、信頼を失ったりしてしまうことがあるのです。
「語彙力がある」ことのメリット
null逆に、語彙力があるとどんなメリットが生じるのでしょうか?
【1】情報収集力が上がる
塾で教えていると、語彙力が情報を得る力に如実に影響していることを実感します。
塾では学力レベル別にクラス分けをしていることが多いのですが、上のクラスになるほど、生徒は黒板を見ません。耳で聞いてわかるので、黒板ではなく手元の教材のほうを見ながら、講師の言ったことをどんどん書いていくのです。
一方で、基礎的なクラスになると、耳で聞いただけではメモができないので、講師の板書が必要になります。単純に漢字そのものが書けないこともあれば、言葉を知らないために、耳で聞くだけでは意味がわからなかったりするのです。
語彙力を身に付けておけば、話を聞くだけでたくさんの情報を得られるようになるので、情報収集の速度や密度が上がります。情報を得る手段も多様化でき、情報収集の効率が高まるのです。
そのほかのメリットとして、
【2】思考や言葉の解像度が上がる
【3】チャンスをもらえて出会える人が変わる
ことが挙げられます。これらは『明日の自信になる教養4 池上 彰 責任編集 思いが伝わる語彙学』(KADOKAWA)のなかで詳しく説明しています。
信頼されて人間関係が円滑に!「思いが伝わる語彙学」
null『明日の自信になる教養4 池上 彰 責任編集 思いが伝わる語彙学』(KADOKAWA)は、池上 彰氏が初めて責任編集をする、明日の自信になる教養シリーズの4冊目。『kufura』でも「オトナ女子の言葉選び」などの語彙シリーズを連載中の人気国語講師・吉田裕子さんが、「語彙力があると何がいいの? 語彙は必要なものか」「何を、どのように学ぶべきなのか 語彙について知る」など、語彙の学び方を丁寧に解説しています。
SNSで情報収集し、AIを使いこなすにも自身の語彙力が重要になってきています。語彙力を高める学びをはじめてみませんか?
『明日の自信になる教養4 池上 彰 責任編集 思いが伝わる語彙学』(著者:吉田裕子 責任編集: 池上 彰 税込1,870円・KADOKAWA)
語彙力が足りない、きちんとした言葉づかいをしたい……。そんなあなたにやさしくレクチャーしてくれるのは、著者の吉田裕子氏。言葉や古典を教える、人気の国語講師です。
本書では、語彙について知り、語彙力がなぜ必要なのかを、言葉をめぐる状況を踏まえて詳しく解説しています。
語彙を学ぶと、話し方が変わります。それはあなたが信頼を得て、人間関係をも円滑にしてくれることを意味します。そしてネット時代だからこそ、SNSでの書く力、AIよりも自分自身が語彙力を持っていることが必要です。言葉を使い続け、磨き続けることを提言し、世界が広がることを後押ししてくれる一冊です。
国語講師。「大学受験Gnoble」やカルチャースクール、企業研修などで教えるほか、「三鷹古典サロン裕泉堂」を運営。10万部突破の著著『大人の語彙力が使える順できちんと身につく本』(かんき出版)など、言葉や敬語、文章術、古典に関する発信も多い。近著に『大人に必要な読解力が正しく身につく本』(だいわ文庫)、『見るだけ・聴くだけで語彙力アップ デキる大人の話し方』(主婦の友インフォス)。東京大学卒業。