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「とりあえず」を言い換えるなら?ビジネスシーンでも使える言い方は【オトナ女子の言葉選び#15】

“とりあえず”という言葉は、使う場面によっては不誠実な印象を与える可能性があります。別の表現に置き換えてみましょう。

今回は『思いが伝わる語彙学』(KADOKAWA)など、多数の著書を持つ国語講師の吉田裕子さんに“とりあえず”の言い換え表現について教えていただきました。

「とりあえず」の意味は?使い方の注意点は?

「とりあえず」の意味は?使い方の注意点は?

“とりあえず”(取り敢えず)には、2つの意味があります。

(1)他のことはさしおいて。本格的な対応は後にして。応急的に。

→例文:とりあえず顧客にトラブル発生の報告をしました。今は対応策を練っています。

(2)今のところは。さしあたって。

→例文:とりあえず、このまま様子を見てみよう。

このように、微妙にニュアンスの異なる2つの意味があります。

とりあえずの“あえず(敢えず)”は、“~できない”の意。手に取るものも取ることができないほど急いでいる様子を表したのが語源だと言われています。したがって、もともとは(1)のような切実な意味だったと思われますが、現代では、その場しのぎ的な(2)の用例も多く見られます。

「とりあえず」を言い換える場面は?言い換えの注意点は?

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“とりあえず”は、本格的な対応は後にして、今できることを最優先させること、後のことはともかく今のところは最低の要件を満たしていることを表します。

本来“いい加減”という意味は含んでいませんが、使い方によっては、“今”をおざなりにして、場当たり的な対応をしているようなイメージを伴います。

以下のような使い方は、場面と相手によっては、相手の心象を損なう可能性もありますので、言い換えが必要な場面もあります。

【要注意例文】

とりあえず、クレーム報告書を送りましたので、ご確認ください。

重要度の高い案件で“とりあえず”を使うと軽々しい印象を与える可能性がある。

とりあえず部長も今日の商談に来てください。

→ベストな選択ではないことを連想させるので、失礼にあたる場合がある。

このように、ネガティブな印象を与えることを避けるために、必要に応じて、別の言葉に置き換えましょう。

「他のことは差し置いて」の「とりあえず」をビジネスシーンで言い換えるなら?

「他のことは差し置いて」の「とりあえず」をビジネスシーンで言い換えるなら?

“他のことは差し置いて”“本格的な対応は後にして”の意の“とりあえず”の言い換え表現を紹介します。

【ひとまず】

“なにはともあれ”“とにかく”の意。一応の一区切りをつける際に使います。

◆例文:今日の作業はひとまず終了しましょう。

【いったん(一旦)】

“いちど”“ひとまず”の意。暫定的な対応をして、後で正式な対応をするときなどに使います。

◆例文:いったん、見積の案を送ります。後日、正式な見積書を送付いたします。

【まずは】

“ひとまず”の意。他のことよりもそれを行う姿勢を表します。

◆例文:まずは、口頭でのご報告で失礼致します。

【取り急ぎ】

“とりあえず急いで”の意。丁寧な連絡をする前に、一旦、急ぎの要件を送る際に用います。
ビジネスメールで頻出する表現です。

◆例文:取り急ぎ、ご報告いたします。詳細については追って連絡いたします。

「今のところは」の意味の「とりあえず」の言い換え表現は?

「今のところは」の意味の「とりあえず」の言い換え表現は?

“今のところは”の意味の“とりあえず”の言い換え表現をご紹介します。

【さしあたって】【さしあたり】

“今のところ”の意。後のことはともかく、ひとまず現時点での処置について表す際に用います。

◆例文:さしあたりの資金は手元にあるので、今月は乗り越えられる。

【ひととおり】

“ひととおり”(ひと通り)は、十分とはいえないものの、一応、間に合っている様子を表します。

◆例文:これでひととおりの備品はそろいました。

【当面】

“当面”(読み方:とうめん)は、“今のところ”の意。

◆例文:当面の課題は、欠員の補充だ。

つい口から出てしまう「ささいな一言」を大切にするべき理由

つい口から出てしまう「ささいな一言」を大切にするべき理由

話者が意図していないのに、相手を軽んじているような印象を与えてしまう一言があります。
例えば、以下のような言葉です。

やっぱりダメだったんだね。
だから前から言っていたよね。
・同行するのは、課長でもいいです。
・彼が不在だから、とりあえず、君が対応しておいてよ。

今回ご紹介した“とりあえず”も、使い方によっては人や事態を軽んじているような印象を与える可能性があります。

今回ご紹介したような言い換え表現に置き換えることもコミュニケーションのコツですが、それ以前に“取り急ぎの仕事”と、“正式な仕事”を区別して考えておくことも大切です。

コミュニケーションの齟齬を防ぐために、ちょっとした言葉遣いに気を配りたいですね。

 

取材・文/北川和子

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吉田裕子
吉田裕子

国語講師。「大学受験Gnoble」やカルチャースクール、企業研修などで教えるほか、「三鷹古典サロン裕泉堂」を運営。10万部突破の著著『大人の語彙力が使える順できちんと身につく本』(かんき出版)など、言葉や敬語、文章術、古典に関する発信も多い。近著に『大人に必要な読解力が正しく身につく本』(だいわ文庫)、『見るだけ・聴くだけで語彙力アップ デキる大人の話し方』(主婦の友インフォス)。東京大学卒業。

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