「手をこまねく」の意味とは?語源は?
「手をこまねく」の意味とは?語源は?「手をこまねく」の意味は、以下の2つ。
- 腕組みをする
- 手出しをせずに、傍観する。何もせずに見過ごす
「手をこまねいて見ている」と言ったときには、手を出さずに傍観している様子を表します。
“こまねく”の漢字表記は“拱く”。両手を胸の前で組み合わせて敬礼する動作を表します。本来は“こまぬく”と読みますが、現在は「手をこまねく」を読む場面が多くなっています。
「手をこまねく」の使い方の注意点は?よく見かける間違った使い方
「手をこまねく」の使い方の注意点は?よく見かける間違った使い方「手をこまねく」は、何もせずに傍観する、の意。しかし、文化庁が過去に行った『国語に関する世論調査』では、回答者の47.4%が「準備して待ち構える」という誤った意味を選択しています。
おそらく、“手”や“腕”を含む以下のような慣用句と混同しているケースが多いと推測されます。
【「手をこまねく」と混同しやすい言葉】
・「手ぐすねをひいて待つ」・・・しっかり準備して待ち構える
・「手を打つ」・・・事態を予測して必要な処置をとっておく
・「腕を鳴らす」・・・腕前を披露するチャンスを待ち構えている
実際、「手をこまねく」に「準備して待つ」という意味はありませんから、以下のような使い方は誤用です。
【NG例文】
・御社からいつ連絡がきてもいいように、手をこまねいて待っています!
→「手をこまねく」は“傍観する”の意なのでNG。連絡を待っているときには「手ぐすねをひいて待っています」など。
「手をこまねく」の例文は?
「手をこまねく」の例文は?「手をこまねく」を用いた例文をご紹介します。
・上司は打つ手をもたず、手をこまねいてばかりいる。
・そうはいっても、手をこまねいてばかりではいられない。
・手をこまねいていると取り返しのつかない事態になりかねない。
「手をこまねく」を言い換えると?類語は?
「手をこまねく」を言い換えると?類語は?「手をこまねく」と類似の意味を持つ表現をご紹介します。
(1)「傍観する」
“傍観”(読み方:ぼうかん)は、手を出すことなく、かたわらで見ていること。物事の成り行きを手をこまねいて見ている様子を表します。
【例文】
・彼は騒ぎの中で傍観するばかりだった。
(2)「拱手傍観」
“拱手傍観”(読み方:きょうしゅぼうかん)は、物事の成り行きを腕を組んで見ているだけで何もしないこと。おもに書き言葉の中で使われている四字熟語です。類義語に“袖手傍観”(読み方:しゅうしゅぼうかん)という四字熟語もあります。
【例文】
・部下のトラブルを拱手傍観する上司になってはいけない。
(3)「対岸の火事」
近くで何か大変なことが起こっていても、他人事だと思って傍観するような態度を表します。
【例文】
・他の部署は、今回のトラブルを対岸の火事だと思っているようだが、決して他人事ではないはずだ。
(4)「我関せず」
「我関せず(読み方:われ かんせず)」は「自分は知らない」「自分には関係ない」の意。
【例文】
・部長も本契約に関わっていたはずなのに、我関せずといった態度だ。
(5)「指をくわえる」
うらやましいと思いながら、むなしく傍観すること。ただ傍観するだけではなく、物欲しそうな様子を表します。
【例文】
・かつて同期だった彼女の活躍ぶりを指をくわえて眺めている。
【豆知識】「傍観」を肯定的にとらえる言葉もある?
【豆知識】「傍観」を肯定的にとらえる言葉もある?「手をこまねく」は、何もせずに傍観する様子をネガティブに表現するときに使われる慣用句ですが、傍観することをよしとすることわざもあります。文脈に応じて使い分けるといいでしょう。
(1)「触らぬ神にたたり(祟り)なし」
関わらなければ、災いを招くことはない。よけいな手出しをしないほうがいい、と伝える際に用います。
【例文】
・今は、放っておいたほうがいいよ。触らぬ神にたたりなしだ。
(2)「君子危うきに近寄らず」
“君子”(読み方:くんし)は、教養と徳を備えた人格者のこと。「君子危うきに近寄らず」は、良識があるのなら、危ういことに近づいたり関わったりしないほうがいい、の意。
【例文】
・君子危うきに近寄らずというから、今回の案件には深入りしないほうがいい。
以上、国語講師の吉田裕子さんに「手をこまねく」の意味や使い方を解説していただきました。
何もせずに傍観することを表す言葉ですので、正しい意味を覚えておきましょう。
取材・文/北川和子
国語講師。「大学受験Gnoble」やカルチャースクール、企業研修などで教えるほか、「三鷹古典サロン裕泉堂」を運営。10万部突破の著著『大人の語彙力が使える順できちんと身につく本』(かんき出版)など、言葉や敬語、文章術、古典に関する発信も多い。近著に『大人に必要な読解力が正しく身につく本』(だいわ文庫)、『見るだけ・聴くだけで語彙力アップ デキる大人の話し方』(主婦の友インフォス)。東京大学卒業。