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正解率は19.5%!「なし崩し」の本来の意味と使い方は?【間違いやすい日本語#22】

“なし崩し”という言葉の本来の意味を知っている人は少ないようです。あなたは答えられますか? 今回は、“なし崩し”について掘り下げていきます。

解説していただいたのは、『見るだけ・聴くだけで語彙力アップ デキる大人の話し方』(主婦の友インフォス)など多数の著書を持つ国語講師の吉田裕子さんです。

「なし崩し」の意味とは?例文は?

「なし崩し」の意味とは?例文は?

“なし崩し”には、以下のような意味があります。

(1) 借金を少しずつ返していくこと

【例文】

なし崩し払いで高級時計を購入した。

(2) 物事を少しずつ済ませていくこと

【例文】

膨大な情報の整理を、できるところからなし崩しに進めていく。

“なし崩し”を漢字で表記すると“済し崩し”。この場合の“済す”は”返済”の意味で、借金を少しずつ返していくこと。転じて、物ごとを少しずつ片付けていくという意味でも使われるようになりました。

現代では、借金の返済方法が多様化しており、“なし崩し払い”という言葉はほとんど使われなくなっています

上記の2つが本来の意味ですが、最新の国語辞典の中には、以下のような意味を追加している辞典もあります。

(3)小さな事実を積み重ねて、そのことが決定されたこととして成り立たせてしまうこと

【例文】

・市民の同意を得ないまま、その工事はなし崩しに決定された。

近年の“なし崩し”は、(1)(2)の意味よりも、うやむやにごまかした状態で既成事実を積み重ね、徐々に改悪していくような(3)の意味を持つ言葉として、広く認識されています。

「なし崩し」の注意点は?どう使われている? 例文は?

「なし崩し」の注意点は?どう使われている? 例文は?

“なし崩し”の注意点としては、本来の言葉の意味を認識している人が少ないという点です。

平成29年度の文化庁「国語に関する世論調査」では、「なかったことにすること」を選択した回答者が65.6%。本来の意味である「少しずつ返済すること」を選択したのはわずか19.5%でした。

「少しずつ物事を済ませていくこと」という意味ではなく、うやむやにごまかした状態でじわりじわりと改悪していくようなニュアンスで使われることが多くなっています

本来は“コツコツ”というポジティブなイメージを持った言葉ですが、現在は意思決定の然るべきプロセスを経ずに小さな運用変更などを通じて“うやむや”のままで押し進められていくイメージを伴っています。こうした使い方は既に広く認められており、最近の全国紙の見出しで“なし崩し”は以下のような場面で使われています。

  • 政府や自治体が説明をしないまま、物事を進めていくとき
  • 十分な議論をせずに新しいルールを適用しようとしているとき……etc.

具体的には、以下のような形で使われることが多くなっています。

【例文】

・世論調査では国民の半数超が反対していたその催しは、なし崩し的に実施された。

「なし崩し」と「うやむや」との違いは?

“うやむや”は、曖昧なこと。

対して、“なし崩し”は、本来の意味のほかに「事実を積み重ねてそのことがすでに決定されたこととする」という意味で使われており、多くの場合、批判的な視点が含まれています。

本来の「なし崩し」の類義語は?

本来の「なし崩し」と類似した言葉はある?

“なし崩し”の本来の意味である「少しずつ返済すること」「少しずつ物事を済ませること」を認識している人が少ないため、場面に応じて言い換えが必要になると思います。

ここでは、“なし崩し”の類似の表現をご紹介します。

(1)「徐々に」

“徐々に”(読み方:じょじょに)は、ゆるやかに進む様子をあらわすときに使う言葉です。

【例文】

徐々に売り上げ回復の兆しが見えてきました。

(2)「漸進的」

“漸進的”(読み方:ぜんしんてき)は、段階を追って少しずつ進むこと。

【例文】

・来期から漸進的に改革を進めていく所存です。

(3)「じわり」

ゆっくりと、着実に進む様子。少しずつ進行して、圧迫するような様子を表す際にも使われています。「じわりじわり」と音を重ねる言い方もあります。

【例文】

・制度変更の影響がじわりと表れ始めている。

 

今回は、国語講師の吉田裕子さんに“なし崩し”の意味と注意点について解説していただきました。

本来の意味とは異なる使い方をされている“なし崩し”。意味の過渡期を迎えている言葉の1つだと言えそうです。

 

取材・文/北川和子

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【参考】

平成29年度「国語に関する世論調査」の結果の概要

吉田裕子
吉田裕子

国語講師。「大学受験Gnoble」やカルチャースクール、企業研修などで教えるほか、「三鷹古典サロン裕泉堂」を運営。10万部突破の著著『大人の語彙力が使える順できちんと身につく本』(かんき出版)など、言葉や敬語、文章術、古典に関する発信も多い。近著に『大人に必要な読解力が正しく身につく本』(だいわ文庫)、『見るだけ・聴くだけで語彙力アップ デキる大人の話し方』(主婦の友インフォス)。東京大学卒業。

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