子育て世代の「暮らしのくふう」を支えるWEBメディア

「確信犯」はどんな意味?使い方の注意点を解説【間違いやすい日本語#6】

近年、“確信犯”という言葉が本来の意味とは異なる意味で使われるようになっています。今回は“確信犯”の意味や使い方について解説します。

”確信犯”という言葉について解説していただいたのは、『印象が飛躍的にアップする 大人の「言い方」練習帳』(総合法令出版)など、多数の著書を持つ国語講師の吉田裕子さんです。

「確信犯」の意味とは?

「確信犯」の意味とは?

皆さんは“確信犯”の意味は、どちらが正しいと思いますか?

  1. 政治的・宗教的等の信念に基づいて正しいと信じてなされる行為・犯罪。又はその行為を行う人
  2. 悪いことであるとわかっていながらなされる行為・犯罪、又はその行為を行う人

“確信犯”の本来の意味は、「1」。政治・宗教的な信念に基づいた行為・犯罪。その行為を行う人を指します。

しかし、近年、日常会話や文章の中は「2」の意味で使われるケースが増えています。

平成27年度「国語に関する世論調査」では、69.4%が「2」と回答しており、それ以前の調査結果と比べると、13年間でその割合は1.2倍に増加しています

ドラマ・映画などのセリフや情報誌の中でも“確信犯”を「それらが悪いことと知りつつあえて行う行為」の意味で使われる場面がありますよね。

こうした風潮を踏まえ、「1」と「2」の2つの意味を併記している国語辞典が増えています。

「確信犯」の使い方の注意点は?例文とともに解説!

「確信犯」の使い方の注意点は?例文とともに解説!

先述したように、“確信犯”の本来の意味は「政治的・宗教的に正しいと信じて自覚的に悪い行為を行うこと」。

宗教テロなどのニュースでは本来の意味で使われるケースも一部あるものの、現在は多くの場合「それらが悪いことと知りつつあえて行う行為という意味で使われています。

文脈からどちらの意味で使われているのか推察する必要が生じるケースもあるでしょう。

2つのパターンの例文を通じて、“確信犯”がどのような使われ方をしているのかチェックしてみましょう。

◆「確信犯」本来の意味(信条にもとづいた犯罪)の例文

本来の意味で“確信犯”を用いる場合は、以下のような文脈で使われています。

・状況から確信犯によって引き起こされた事件だと推察される。

・現地では、過激派組織による確信犯だと報道されている。

このように、政治的・宗教的な信条にもとづいた犯罪などを指して用います。

◆多くの人が解釈する意味(悪いことと知りながらする行為)の例文

一方で、現在は以下のような文脈で使われることが多くなっています。

・彼の遅刻は確信犯に違いない。

・A社の商品デザインがB社のものと酷似しているのは、確信犯ではないかと波紋を呼んでいる。

以上のように、犯罪だけでなく、“好ましくないこと”に対しても使われるようになっています。

「確信犯」を言い換えると?類語や対義語は?

「確信犯」を言い換えると?類語や対義語は?

繰り返しになりますが、確信犯には異なる2つの意味があります。それぞれの言い換え表現をご紹介します。

◆「信念に基づいた犯罪」の意味の類語

(1)「思想犯」

“思想犯”は、特定の思想やイデオロギーに基づいた犯罪や犯人のこと。

【例文】

・ジョージ・オーウェルの『1984』は、国家にとって不都合な思想を持つだけで思想犯とされるディストピア小説だ。

(2)「政治犯」

政治的な秩序を侵害する犯罪、それを行う人のこと。

【例文】

・今や国民的な英雄とである彼は、政治犯として投獄された過去がある。

◆「悪いこととわかって行うこと」の意味の類語

(1)「作為的」

“作為的”(読み方:さくい)は、たくらみの心をもって故意に行うこと。わざと行ったことが明らかなときに使います。

【例文】

作為的なデータの改ざんが行われたことが大きな問題になっている。

(2)「意図的」

“意図的”は、目的や思惑をもって行動するさま。目的があることを隠した不自然な様子を表す際にも用います。

【例文】

・今思えば、彼は意図的に顧客を怒らせたのかもしれない。

「確信犯」の対義語はある?

「確信犯」の対義語はある?

“確信犯”の正反対の関係にある対義語はありませんが、対の意味を含む言葉をご紹介します。

(1)「愉快犯」

“愉快犯”(ゆかいはん)は、深い信念がなく、世間を騒がせて楽しむ犯罪や犯人。本来の意味の“確信犯”と対の関係にあります。

【例文】

・あの惨劇は愉快犯によるものだと判明し、世間を震撼させた。

(2)「未必の故意」

“未必の故意”(読み方:みひつ の こい)は、法律用語。積極的に罪を犯す意図はないものの、自分の行動が悪い結果がもたらすことを認識してその行為を行うこと。

【例文】

・被告人は無罪を主張したが、未必の故意と認定され、有罪判決が出される見込みだ。

 

以上、国語講師の吉田裕子さんに“確信犯”について解説していただきました。

世間に広く認識されている意味と本来の意味が異なる言葉です。

文脈によっては、意味を推察する必要が生じる可能性がありますので、2つの意味を把握しておくと役立つことがあるのではないでしょうか。

 

取材・文/北川和子

※この人の記事をもっと読む

【参考】

確信犯の意味 – 文化庁

吉田裕子
吉田裕子

国語講師。「大学受験Gnoble」やカルチャースクール、企業研修などで教えるほか、「三鷹古典サロン裕泉堂」を運営。10万部突破の著著『大人の語彙力が使える順できちんと身につく本』(かんき出版)など、言葉や敬語、文章術、古典に関する発信も多い。近著に『大人に必要な読解力が正しく身につく本』(だいわ文庫)、『見るだけ・聴くだけで語彙力アップ デキる大人の話し方』(主婦の友インフォス)。東京大学卒業。

pin はてなブックマーク facebook Twitter LINE
大特集・連載
大特集・連載