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「引導を渡す」の本当の意味は?使い方と例文を解説【あらためて知りたい頻出ビジネス用語#72】

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「引導を渡す」の語源や正しい意味をご存じですか? 今回は「引導を渡す」という言葉の使い方を掘り下げていきます。

「引導を渡す」について解説していただいたのは、『たった一言で印象が変わる大人の日本語100』(ちくま新書)など、多数の著書を持つ国語講師の吉田裕子さんです。

「引導を渡す」の意味や語源は?

「引導を渡す」はもともと仏教用語です。

引導(いんどう)の原義は、死者が成仏できるように僧が経文などを唱えることなのです。

慣用句である「引導を渡す」は、「死者の魂を成仏するよう導く」という意味から転じ、「最後の宣告をしてあきらめさせる」という意味を持つようになりました。

現代の日本語では、活躍や出番をあきらめさせることを指して使われることが多くなっています。

「引導を渡す」はどんなシーンで使う?

「引導を渡す」は、しばしば業界内の情勢分析や、政治経済のニュースの中で登場する言葉です。

リーダーの交代、経営陣の入れ替え、世代交代、現役引退などについて論じるときなどに使われています。

「引導を渡す」という慣用句を使うことで「もう出番は終わりだとあきらめさせる」「現役を退かせる」という直接的な表現を使うことなく、文章に格調を持たせることもできます。

ちなみに、「引導を渡す」のはあきらめるように宣告する人で、「引導を渡される」のはあきらめるように告げられる人です。

「引導を渡す」の注意点やよくある間違いは?

「引導を渡す」を、「解雇する」「引退させる」などと同義だと勘違いしているケースが見受けられます。

「引導を渡す」は解雇をしたり契約を切ったりするような具体的な手続きの話ではありません。「あきらめるように告げる」「もはや厳しい状況なのだと思い知らせる」というニュアンスの言葉です。

また、「引導を渡す」という言葉を耳で聞いたことがある人の中には、「印籠(いんろう)を渡す」だと勘違いしているケースも見受けられます。これを機に語源や正しい漢字表記を覚えておきましょう。

「引導を渡す」の例文は?

「引導を渡す」の例文を通じて使い方をイメージしていきましょう。

・台頭してきた若手が、ベテランに引導を渡した

・業績が捗々しくないため、近い将来に引導を渡されることになるだろう。

・取締役会が会長に引導を渡すことになった。

・これ以上勉強をしても成績は向上しないだろうと引導を渡された

「引導を渡す」を言い換えると?類語は?

「引導を渡す」は仏教由来の言葉であり、同義語はありませんが、類似の場面で使われる言葉をご紹介します。

(1)「申し渡す」

立場が上の者が、命令や決定を言い渡すこと。「引導を渡す」のようにあきらめさせるという意味はなく、決定権を持つ人が一方的に伝える際に使う言葉です。

【例文】

・処分を申し渡す

・解雇を申し渡す

(2)「お払い箱にする」

雇用者が雇っていた人をやめさせること。やや俗語的で物を捨てるときにも使う言葉なので、ビジネスシーンでは頻繁に使われる言葉ではありません。

【例文】

・A社はこのままの業績であれば、半数の社員をお払い箱にせざるを得ないという噂があります。

(3)「観念させる」

「観念する」は本来、仏教用語であり“あきらめる””あきらめて状況を受け入れる”の意。「観念しろ」という形で”あきらめろ”、「観念させる」という形で、”あきらめさせる”“断念させる”という意味合いで使われることがあります。

【例文】

・いい加減に観念したほうがいい

・繰り返し説得し、やっとのことで観念させた

「引導を渡す」と反対の意味を持つ言葉は?

「引導を渡す」という慣用句と正反対の言葉はありませんが、対の意味を含む言葉や、関連して使われる言葉には以下のようなものがあります。

(1)「慰留する」

辞任などを思いとどまらせること。

【例文】

・彼は辞任の意思を示しているが、必死で慰留する予定だ。

(2)「往生際が悪い」

もとは仏教用語。“この世”から”あの世”になかなか行こうとしないことから、あきらめの悪い様子を意味するようになりました。

【例文】

・A社の社長は周囲から引導を渡されているが、往生際が悪く、なかなか辞任を決意できないそうだ。

(3)「白羽の矢が立つ」

多く人の中から抜擢されることを意味する慣用句。選ばれて名誉あるポジションに就く際に使われています。

【例文】

・長らくトップの座にいたA社長に引導が渡され、次期社長としてB氏に白羽の矢が立った

 

今回は、国語講師の吉田裕子さんに「引導を渡す」の意味や使い方を解説していただきました。

日常会話ではあまり使われることはありませんが、経済ニュースなどでしばしば登場する言葉ですので、意味を覚えておきましょう。


 

【取材協力・監修】

吉田裕子

国語講師。塾やカルチャースクールなどで教える。NHK Eテレ「ニューベンゼミ」に国語の専門家として出演するなど、日本語・言葉遣いに関わる仕事多数。著著『大人の語彙力が使える順できちんと身につく本』(かんき出版)は10万部を突破。他に『正しい日本語の使い方』『大人の文章術』(枻出版社)、『英語にできない日本の美しい言葉』(青春出版社)など。東京大学教養学部卒。

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