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大切なことは、マンモスが教えてくれる!いとうせいこうさんが語る「マンモス復活プロジェクト」

現在、日本科学未来館で開催中の「企画展 マンモス展 -その『生命』は蘇るのか-」(以下「マンモス展」)。世界初公開の冷凍標本や骨格標本などが展示されているということで、大きな注目が集まっています。

皆さんは、世界中の様々な研究機関が、マンモスを復活させるための研究に挑戦していることをご存じでしょうか? 「マンモス展」では、「マンモス復活プロジェクト」の紹介を通じて、先端生命科学の“今”も垣間見ることができます。

難しい内容は、漫画を用いて子どもにもわかりやすく紹介されています。でも、そもそも「マンモス復活プロジェクト」の目的は何なのでしょうか?

今回は、前回に引き続き、「マンモス展」の展示構成監修を担当した作家でクリエイターのいとうせいこうさん(写真左)、古生物学監修を担当した野尻湖ナウマンゾウ博物館館長の近藤洋一さん(写真右)に、「マンモス復活プロジェクト」から考える未来についてうかがいました。

「マンモス復活プロジェクト」が私たちに投げかける問いとは?

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―私の次男(小3)は、太古の世界が大好きで、絶滅した生物にあこがれを抱いています。今回のマンモス展のひとつのテーマでもある「マンモス復活プロジェクト」について話したら、「マンモスと人間は仲良く暮らしていけるのか」という漠然とした不安を子どもながらに抱いたようで。親としては、意外な反応でした。

近藤洋一さん(以下、近藤):素晴らしい! だからこそ、今回の展示があるんですよ。これからの科学というのは、倫理的な問題、哲学的な問題は避けては通れない。今回、いとうさんの役割としては、いくつもの問題を網羅的に見て、どのように考えていかなければならないかという問いかけをしています。

いとうせいこうさん(以下、いとう):マンモスの実物を見た子どもたちに対して、「自分たちが生きる世界をどういう風にしていったらいいのか」と考えられるようになっていて、その分、厚みのある内容になっていると思います。

近藤:その点では、今までの展覧会とはちょっと異なっていますよね。

―いとうさんは、マンモスが科学・倫理・宗教・哲学、全てを包括したテーマだとおっしゃっていましたよね。一方で、最先端の科学にスポットが当たる反面、歴史や哲学、文学など、文系の学問の存在感が薄くなっているような気がします。これは、“マンモス学”に限ったことではないと思いますが。

いとう:そうですね。でも、物と物との専門性をつなぐために人文系の学問が役にたつことがあります。そこには物語が必要だったり、想像力が必要だったりしますから。今回、そのあたりも伝えられたらいいなと思います。そもそも、専門が異なる学者同士が話す機会ってあまりないですよね。

近藤:そうなんですよ。だから、学問というのがどうしても突っ走ってしまう。ちょっとストップして、「これは人類にとってどうなのか?」というのを考える必要があります。そういった意味でも今回のマンモス展では、「このまま進んだらどうなるのか」というのを立ち止まって、親子で一緒に考えていくきっかけになると思います。

「ユカギルマンモス」の復元像

―もし、仮にマンモスがこの世によみがえったとしたら、どうやって暮らしていくのでしょうか。

近藤:マンモスを1頭だけ復活させても意味がありません。しかも、マンモスが暮らせるような環境を丸ごと復元しなければなりません。マンモスは非常に頭が良く、社会的な動物だから、ファミリーが必要ですし、そうなると、ある程度の広さも必要です。

―温暖化が進む地球で、マンモスが住む環境を作ることは、温暖化の抑止力になるという狙いもあるとか。

近藤:シベリアに氷河期パークを復元するという計画もあるようですね。「マンモス復活プロジェクト」を通じて、「何が原因でマンモスが絶滅してしまったのか」ということがわかってくるだろうし、地球環境がものすごく変化している今、ひょっとしたらマンモスを深く知ることで人類は未来につながる新しい手段を得られるかもしれません。プロジェクトを通じて人類の幸せにプラスになることを目指さなければならないと思います。

科学というのは裏と表があって、突っ走った場合には、必ず裏の要素が出てきます。

永久凍土は、4万年前の世界がそのまま出てくる“宝庫”のようなものなんですよ。土の中には、ひょっとしたら人類にとって未知のものが埋まっているかもしれない。そういうものに対して、みんなでルールを作っていく。そのルールに従って科学者は研究内容をオープンにしていくことが重要です。そうして、人類と一緒に暮らせるように、マンモスを復活させることの意味をみんながちゃんと理解していかなければならないと思います。

いとう:「注射針を使ったら、マンモスができちゃいました」なんていう単純な問題ではなくて、マンモスが復活するためには、共に暮らす動物や太古の環境も必要だろう、というのが、「マンモス復活プロジェクト」。一部が切り取られて伝わらないようにしたいですね。

想像するとおもしろい!マンモスと人間が共存した社会

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―ここからは太古に戻って人間とマンモスの関係を想像する話となりますが、マンモスは人類をどのような眼差しで見ていたと思いますか?

「ユカギルマンモス」(頭部冷凍標本)

いとう:マンモスにとって自分を狩ってくる人類は恐怖の対象だったでしょうね。一方で、人類にとってはマンモスが大きかったために、集団で狩る必要性というものがあって、そのことが人類の社会性というものに与えた影響は大きかったのではないでしょうか。

―狩りをする人間にしてみても、作戦を練る人、突撃する人など、役割分担があって、思いのほか多様性があったのでは……という話を聞いたことがあります。

近藤:狩猟というのはそういうものだったんですよ。狩りをするために社会の中でいろんな分担をつくって、集団意識が生まれ、ひとつの目的を共有して、少しずつ言語が発達して。

マンモスの絶滅の考えられる原因はいくつかあって、人類による“オーバーキル”という説もありますが、マンモスは人類の狩猟の対象ではありながら、崇高な存在だという感覚があったと私は思っています。狩り過ぎたら自分たちが困ってしまうというのはわかっていたのではないでしょうか。それがもし証明されていたらおもしろいのですが……。

いとう:確かに。自然が与えてくれたものに対して感謝をして狩りをしていたと思うんですよね。

近藤:自然に対する敬愛や畏怖というのはものすごくあったと思います。

いとう:今回は、人類がペットにしていたと思われる仔イヌの冷凍標本なんかも展示されています。狩り以外にもマンモスと人類の間できっといろんなことが起こっていたと思うんですよ。今回の展覧会はちょっとずつヒントを出して、そのあたりの想像を刺激するような構成になっています。子どもたちにはぜひ楽しんで見て欲しいと思います。

「仔イヌ」の冷凍標本

地球温暖化という気候変動によって現在に姿を表したマンモスや太古の生物たち。そして最先端の科学が未来に向けて取り組んでいる「マンモス復活プロジェクト」。過去・現在・未来の3つの展示ゾーンで構成された「マンモス展」では、展示物を見ながら壮大な時間旅行に出かけたような経験ができるはず。

最先端の生命科学に携わる人がいて、古生物を研究する人がいて、人類の歴史を追究する人がいて、ストーリーを紡ぐ人がいる……。別々だった全ての学問がマンモスを通じて地続きになっていると感じさせられる展示でもありました。

 

「なんのために勉強するの?」

子どもがそんな疑問を抱いたとき、マンモスは様々なヒントを投げかけてくれるのではないでしょうか。

【開催情報】

「企画展 マンモス展 -その『生命』は蘇るのか-」

会期:2019年11⽉4⽇(月・休)まで

時間:10:00〜17:00(⼊場は閉館の30分前まで)

休館日:火曜日(ただし、7/23・30、8/6・13・20・27、10/22は開館)

会場 :日本科学未来館(東京・お台場)

東京都江東区青海2-3-6

⼊場料:大人 1,800円/小学生~18歳 1,400円/4歳~小学生未満 900円

3歳以下は入場無料 常設展も入場可能

公式HP

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