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監修を務めた・いとうせいこうさんに聞く!異次元スケールの「マンモス展」が日本で実現できた意外な理由

永久凍土が溶けだしたことで姿・形を保ったまま出土し始めているマンモス。日本科学未来館で11月4日まで開催中の「企画展 マンモス展 -その『生命』は蘇るのか-」(以下「マンモス展」)では、マンモスやマンモスと共に暮らしていた動物の冷凍標本や骨格標本などを見ることができます。

今回は、「マンモス展」の展示構成監修を担当した作家でクリエイターのいとうせいこうさん、古生物学監修を担当した野尻湖ナウマンゾウ博物館館長の近藤洋一さんに、「マンモス展」の見どころについてお話をうかがいました。

「世界でひとつだけの鼻」から見えてくるマンモスの生態とは?

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―今回の「マンモス展」の展示構成監修はいとうせいこうさんが担当されています。まず始めにいとうさんとマンモスの接点を教えて頂けますか?

いとうせいこうさん(上写真、以下、いとう):「マンモス展」でマンモスを特集するにあたり、生命科学の未来、古生物学、現在起こっている温暖化を含めた環境問題など、今回の展示はものすごくたくさんの要素があるから、「それらをまとめる役をやりませんか?」という話を頂いたのがきっかけです。

話を聞いたら、本当に多くの要素が含まれていて。「むしろ、僕のような科学者ではない者がまとめ役にいた方がいいのかな」と思ってお受けしました。

その後、「まずは行ってみなくちゃ始まらない」ということで、近藤洋一先生と一緒に永久凍土のあるロシア連邦のサハ共和国に行って、現地の「マンモスミュージアム」へ行くことになりました。現地はめちゃくちゃ寒かったですよ。マイナス40度以下のこともありました。肺が凍るから深呼吸するなと脅されました。

―近藤先生は、そんな危険な温度にも関わらず、時間を忘れてマンモスの冷凍標本に見入っていたとお聞きしました。

近藤洋一さん(上写真、以下、近藤):標本を保管してある場所(冷凍保存庫)には、国宝級の標本があちこちに無造作に置いてあるわけですよ。低温の屋外で「ユカギルマンモス」の冷凍標本を観察していたのですが、既に1時間ほど時間が経ってから「1時間も屋外にいると人体に危険」だと言われました(笑)。

いとう:でも、その日、その場所でわかったことが、本当にいろいろありましたよね。

―骨格の化石ではわからなかったことが、冷凍標本を見て初めてわかることもあるのでしょうか。

近藤:化石と冷凍標本ではわかることが全く違います。例えば、今回の目玉展示であるケナガマンモスの鼻の冷凍標本。鼻の内側には毛がなくて、外側には毛が生えている。それが何を意味するのかというと……。

世界初公開のケナガマンモスの鼻(冷凍標本)

いとう:寒さから鼻を守るために、鼻を伸ばしていない、つまり鼻を巻いていたということになるんですよね。

近藤:これは、いくら骨格標本を見てもわからないことです。マンモスを見るときの一つのポイントとして、いかにして彼らが寒冷地に適応してきたという点を見るわけです。

―肉や毛が残った状態のマンモスを見て、初めてわかったというわけですね。

近藤:そもそもマンモスの鼻には、骨がないので、これまでほとんど見つかることがありませんでした。これまで大人のマンモスの鼻の先端がでてきたのは、たったの1例だけ。今回の展示は、世界で2例目のマンモスの鼻で、しかも、根元から先端まで完全な鼻が見つかった世界で初めての例です。

―えぇ!? そんなに貴重な標本が日本で見られるなんて!

近藤:断面からは血液も採取されています。

いとう:これからマンモスの研究は飛躍的に進むでしょう。しかし、こうしていろんなことがわかるのは、温暖化の“せいで”という皮肉でもあるんですよね。

世界屈指の日本の「冷凍展示技術」で実現した「マンモス展」

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ユカギルマンモス(頭部冷凍標本)の展示風景

―ところで、初歩的なことをお聞きしますが、展示室のガラスの中は冷凍状態なんですよね。常温との差があるはずなのに、霜や曇りがなく、透明なガラス越しに毛並やシワの1本1本まではっきりと見えます。

近藤:やはりそう思われましたか! 展示室のガラスの中は冷凍状態が保たれています。まるで普通の展示のように見えますよね。

いとう:冷凍状態なのに、ガラスがくもっていないというのもすごい。あまりにも技術がすごすぎて、普通に見えちゃう。冷たいということをわかってもらうために、何か工夫したほうがいいのでは。ということで、分かりやすく、冷凍展示室内の温度が分かるように温度計を設置しました。

近藤:「ユカギルマンモス」が初めて日本にやってきた2005年の『愛・地球博』の頃は、まだ今回のような展示技術がなかったから、“冷凍されている”というのが見る人にもわかったと思うのですが……。それが今回では、ものすごくきれいに展示されていて。驚きですよ!

―ある意味、冷凍保存技術の展示でもあるんですね。冷凍の状態を保ったまま、あのように展示するのは、日本の技術なのでしょうか?

いとう:そうです。「マンモス展」用に、あの大きさの冷凍展示室を作ったそうです。中のものを乾燥させずに保ちながら展示する技術は日本にしかないので。

近藤:じつは、今回のような展覧会をロシアで開くことができない理由がそこにあるのです。ただ冷凍しておくだけでは、どんどん乾燥して標本の色が変色していってしまいますから、特殊な技術が必要です。このすごさは、展示を見ている人になかなか伝わらないという……。

いとう:「なんでこのガラスがあるんだよ!」と思っている人もいるかもしれませんね。

 

“マンモスの故郷”と呼ばれるサハ共和国からやってきたマンモスや古代の動物たち。世界で初公開の貴重な標本も多数展示されています。日本の技術によってクリアなガラス越しに間近で見られることができるのは、子どもたちにとっても貴重な機会ではないでしょうか。

今回の展示では、冷凍標本だけでなく、「マンモス復活プロジェクト」の特集も大きな注目を集めています。さて、「マンモス復活プロジェクト」とは? そして、最新の研究内容は? 次回は「マンモスの“生命”は蘇るのか」というお話を中心にうかがっていきます。

【開催情報】

「企画展 マンモス展 -その『生命』は蘇るのか-」

会期:2019年11⽉4⽇(月・休)まで

時間:10:00〜17:00(⼊場は閉館の30分前まで)

休館日:火曜日(ただし、7/23・30、8/6・13・20・27、10/22は開館)

会場 :日本科学未来館(東京・お台場)

東京都江東区青海2-3-6

⼊場料:大人 1,800円/小学生~18歳 1,400円/4歳~小学生未満 900円

3歳以下は入場無料 常設展も入場可能

公式HP

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