反抗的になりがちな10歳前後。メンタルも不安定に
null今回は、こんなお悩みを取り上げます。
「小学3~4年生になった途端、反抗期が到来?家の中がギスギスする!」
ちょっとした頼み事をしただけなのに、反抗的な態度が返ってくる。とうとう「クソババア」なんて言うようになった。1年生の頃はあんなに素直で可愛かったのに……と、戸惑っているパパ・ママも多いのではないでしょうか。
この時期の子どもの変化は、よく「10歳の壁」と呼ばれるものです。学校の勉強が少しずつ難しくなってきて、学習面でつまずきが生まれたり、他人に比べて自分のできない面、劣っている面を自覚したりすることで、変化が表れるのだそう。精神的にも不安定になりがちです。
「10歳前後は、幼少期から思春期に移行する間の時期です。家庭という小さなコミュニティの中にいた子どもが、家庭の“外”の世界を認識したり、自分と他人を比較したりしながら、個人の世界を構築し始めます。その過渡期の中で子ども自身も、うまく心身のバランスがとれず、もどかしい思いをしているはず」と戸田先生。
繊細な時期ではありますが、毎日反抗的な態度が続くと、親が我慢の限界を迎えてしまうことも。子どものイライラとどのように向き合えば、この「10歳の壁」を乗り越えることができるでしょうか?
「売り言葉に買い言葉」負のループを脱するために
null戸田先生は「反抗するようになったら“来た来た!必ずやってくる時期ね!”と受け止めてほしい」と話します。
「“どんな子どもにも成長の過程で必ず訪れるものだから、どうしようもない”と割り切る気持ちが大切です。これから10歳を迎えるお子さんがいる場合は、反抗する時期が当然来るものだと、あらかじめ想定しておくのもいいですね。
実際にその時期を迎えたときに“これが例の、10歳の壁だな”と、余裕を持って受け止めることができるかもしれません」(以下「」内 戸田先生)
ただ、子どもの成長過程による不安やイライラだとわかっていても、自分に対して攻撃的な言葉をぶつけられると、良い気分はしないものです。相手のイライラに乗じて、ついこちらも「いい加減にしてよ!」と感情的になってしまうことも……。
「子どもの攻撃的な言葉に反応し、カッとなって同じような暴言で返してしまう。そんな『売り言葉に買い言葉』状態が続くと、お互いに疲弊してしまいます。違う方法で、自分の思いを子どもに伝えられるといいですよね」
子どもとの「アサーティブ」な関係作りにトライしてみよう
nullそんな時に取り入れたい方法として、戸田先生は「アサーティブ・コミュニケーション」の考え方を教えてくれました。
「アサーティブ(assertive)には、『自己主張する』という意味があります。自己主張といっても我を通すことではありません。お互いの主張や立場を大切にしながら、自分の思いを、率直に正直に、その場にあわせて表現し合う対話の方法が、アサーティブ・コミュニケーションです」
アサーティブ・コミュニケーションにおいて大切なのは「何をゴールに設定するか」ということだそう。
「本当に伝えたいことは何か? 相手にどうしてほしいのか? まずは、ゴールを明確にしましょう。たとえば子どもに対して“部屋の片付けを手伝ってほしい”と思うなら、その思いを相手に分かってもらうことがゴールになります。その伝えたいことを、子どもに対して率直な言葉で伝えるのが重要です」
子どもの反抗的な態度にばかり目が向きがちですが、ゴールを考えることで少し冷静になって「本当に伝えたいこと」を整理することができそうです。
「相手の態度やものの言い方に対していちいち反応しても、伝えたいことは伝わりません。話しかけても親のほうを見ようとしない、乱暴な相槌を返されるといった反抗的な態度に対して、“なんでこっちを見ないの?”“何、その言い方?”と言い返しそうになったら、本当に伝えたいことは? ゴールは何だっけ?と思い返してみるといいでしょう」
それでは実際に、子どもに何か頼み事をする時にはどのように伝えたらいいでしょう?
「何かを手伝ってほしい場合は“〇〇を手伝ってもらえる?”と率直な言葉でお願いをするといいでしょう。“あなたが片付けないから~”などと相手を責めたり、逆に“できないママが悪いんだけど~”などと自分を責めたりすることなく、心の中で対等に向き合うことを心がけるといいですね」
反抗的な態度を取られるかもしれませんが、相手の反応の仕方やものの言い方に噛みついてしまうと、自分が望む結果にはならなそうです。「今はムリ」と言われたら「わかった。いつならお願いできる?」と聞いてみるなど、子どもの考えも聞きながら折り合いをつけていくほうが、望むゴールに近づくかもしれません。
「クソババア、などのひどい言葉を使うときもあるでしょう。そんな言葉に毎回、真面目に受け答えしていては、疲れてしまいます。
私自身、自分の子どもが反抗期を迎えたときは、できるだけユーモアを取り入れるようにしていました。“クソババア”と呼ばれたら、“私がクソババアってことは、あなたはクソババアの息子だね~! 次からクソババアの息子って呼ぼうかな”なんて笑って返したことも(笑)。少し肩の力を抜いて、笑えるくらいの言い方で返してもいいかもしれませんね」
我慢できないほどひどい言い方をされたときは「そんなふうに言われたら傷つくから、やめてほしい」とはっきり気持ちを伝えるのも良いとのこと。「わが子に冷たい態度を取られるようになって、悲しい」というのも親の本音ですが……。
「反抗期も成長の証。もう、素直に何でも親の言うことを聞く時期ではないということです。親の立場としても、いつまでも子どものままでいられても困るもの。長期的な目で考え、受け止めてみましょう」
「10歳の壁」は、多くの子どもに訪れるもの。同時に、いつか終わることでもあるはず。子どものイライラにその都度反応するのではなく、「自分がどうしたいか」を考えながら、付き合っていけると良さそうです。
次回は、多くの親が悩む「宿題をやろうとしない、手をつけるのが遅い」問題について取り上げます。
取材・文/塚田智恵美 イラスト/ayakono
アンガーマネジメントコンサルタント、アドット・コミュニケーション(株)代表取締役。日本アンガーマネジメント協会理事。「伝わるコミュニケーション」をテーマに研修や講演を行う。
豊富な事例やアンガーマネジメント、アサーティブコミュニケーション、アドラー心理学をベースにしたコミュニケーションの指導には定評があり、幅広い年齢層が受講している。「アサーティブ・コミュニケーション」(日経文庫)、「怒りの扱い方大全」(日本経済新聞出版)、「『つい怒ってしまう』がなくなる 子育てのアンガーマネジメント」(青春出版社)など著書多数。