「全員参加」でおもしろがってほしい
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初回・横浜会場では来場者数4万人を超えたという大ヒット展覧会『大ピンチ展!』。“体験型展覧会”だという、その内容を見て、体験して、感じたことは、これはいわゆる展“覧”会ではないかも……!?ということです。
展覧会に合わせ、インタビュー本『大ピンチを楽しむ』(ブルーシープ)を刊行した「PLAY!」プロデューサー・草刈大介さんによると、そこには鈴木のりたけさんの大切にしている考えがベースにあるそう。
1:おもしろがると世界は広がる

『大ピンチずかん』(小学館)は、現在3まで発売中です。一人で読んでも、友だちや家族と読んでも、世代を超えて笑い、共感しできる内容。以前のインタビューで、鈴木さんは「大人と子どもが対等な目線で話し合えるような、コミュニケーションの助けになれば」とおっしゃっていました。
ベースにしている考えの一つが「おもしろがると世界は広がる」。
「絵本はどちらかといえば、一人で没入できるパーソナルな楽しみだと思うんです。でも、一期一会の人が集う展覧会は、待ち時間に前の人の様子を見たり、偶然隣同士になった人たちと繋がったりできる可能性を秘めています。新たな人間関係を築くことが僕は好きなんですが、この展覧会が、そういう場になればと思いました。
だからこの展覧会のモットーは、僕が大切にしている『おもしろがると世界は広がる』。何事も、自分の足で踏み出して、自分の手で触れば、楽しみは生まれるはずです」(以下「」内、鈴木のりたけさん)
2:「全員で参加する」

子どもたちはもちろん、大人も思わず没頭してしまう参加型の展示が多数用意されています。
二つ目が「全員で参加する」。
この展覧会は、一緒に行った人はもちろん、偶然居合わせた人同士も、自分より前に来場した人も後に来場する人も。みんなでおもしろがれるよう、一つひとつが考えられています。
「展覧会を開きませんか?と声をかけていただいたときに、夏休みの会場で、原画をずらっと飾って、来場者の皆さんが神妙に眺める……みたいなものはちがうと思いました。『大ピンチずかん』の読者である子どもたちが、ワーワー楽しめるようなもの。そして、エンターテインメントをもう一つジャンプして、押し広げる形にしたかったんです」
4つの「ピンチ・エンターテインメント」
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絵本『大ピンチずかん』にもありますが、「大ピンチ=悲惨、ではない。大ピンチも捉え方によっては笑い飛ばせる」と、鈴木さん。
「来場者の皆さんが会場で楽しむことで、大ピンチへの耐性ができたり、大ピンチを理解できたりする、4つの“ピンチ・エンターテインメント”を用意しています」
「ピンチ・エンターテインメント」とは、一体……?
不安な気持ちをもっと楽しもう!「みるピンチ」



こぼれた牛乳や倒れそうなケーキ、犬のフンなど。大ピンチを巨大化した展示物を“みる”ことで、ピンチがますます拡大。そんな特大ピンチを「ふむふむ、ほうほう」と見ることで、不安な気持ちをもっと楽しもうという「みるピンチ」。

登場人物になりきれるヘルメット、実はミュージアムショップでも購入できます(税込5万5,000円)。「フォトスポットとしても楽しんでください」(鈴木さん)。
絵本でもおなじみのシーンに、一緒に体験した子どもたちは大興奮。展示のそばには、登場人物になりきれるヘルメットも用意されています。
「いわゆる“見る”。展覧会といえば定番の“見るたのしみ”です。巨大化すると、おかしみが生まれますよね」
遊びで乗り越えよう!「なるピンチ」


まさかの、ピンチに遭遇する展示「なるピンチ」も! ここには「自分が何をするかではなく、どうしたら見てくれる人たちが楽しいか?」を大切にしている鈴木さんらしさが溢れています。



その一つが、絵本にはない「あまもりの大ピンチ」です。
「雨漏りって、今どきのお子さんは知らないよね」と笑う鈴木さん。雨漏りに見立てた大きさのちがう2種類の玉を、一人がレールに流し、もう一人がバケツで受け止めるというもの。単純なようでこれがむずかしく、玉を流す人も、バケツで受け止める人も、そして見ている人も、思わず笑顔になってしまいます。
これでいざ雨漏りの大ピンチに遭遇しても、この記憶を思い出して、楽しめちゃうかも?
参加して考え、来場者が一緒に楽しめる「かんがえるピンチ」


鈴木さんが、「想像にドライブがかかるようなものを作りたかった」という展示が、参加して一緒に楽しめる「かんがえるピンチ」です。
「かんがえるピンチ」の一つが『大ピンチバー』。これは「だれが・どこで・なにを・どうした」という4つの言葉を組み合わせて生まれる偶然のピンチを笑い飛ばすというもの。横浜の会場では人気のあまり、バーが足りなくなるというハプニングも!(バーは後日、追加されました)

バーをはめ込む鈴木さん。「次に見た人が主語を変えたっていい。それで、作った本人が戻ってきて、また元に戻したりね。大ピンチバトルです(笑)」。
「言葉は僕が考えましたが、作品をつくるのは来場者の皆さんです。出来上がった作品を見て、これって大ピンチ? 僕はOKかも。私はいや!とか、みんなで大ピンチを考えるきっかけを作ります。
次に来た人が、その作品を見て、主語を変えてもいい。そういうアレンジも楽しみの一つです。『PLAY!MUSEUM』は会場がラウンド型になっているので、戻ってきて、自分の作品が入れ替わっているのを見るのもおもしろいと思います」



もう一つの「かんがえるピンチ」は『大ピンチブロック』です。これは、最初からほぼ完成形の試作品を、鈴木さん自身が作って打ち合わせに臨んだというもの。
「6つの、6面にいろんなピンチが描かれたブロックを動かすことで、男の子の全身を襲うピンチの組み合わせができます。自分でも、これってどんなシチュエーションで、どんなピンチ?と考えたり、次に見た人も同じように考えて、おもしろがれる。手を動かしながら、考えて、来場者が一緒に楽しめるものです」
ピンチの真っ只中を体験できる「とびこむピンチ」

鈴木さん曰く「文字通り、飛び込む大ピンチです」というのは、『ぎゅうにゅうがこぼれた』がモチーフになった「とびこむピンチ」です。これは、ピンチに遭ったらその懐に飛び込んでしまおうというもの。
「同じ空間で盛り上がった子どもたちが、このプールに飛び込んで、みんな仲良くなったらいいなとつくりました」という鈴木さんの想いどおり、同時刻に来場していた子どもたちは、「ぎゅうにゅうのプールだ〜〜〜!」と大喜び。夢中になって体を動かしていましたよ。
「PLAY!MUSEUM」だけの展示や平日限定プレゼントも
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ガラスケースの中には、『大ピンチずかん』にまつわるスケッチ。
「『PLAY! MUSEUM』は、個人的にも何度か足を運んだことがある好きな場所。そこで今回のような展覧会ができて、夢って叶うんだなと思っています。わが家の子どもたちも連れて来たいですね」
そんなふうに話してくださった鈴木さん。今回、ここだけの展示も用意されています。
たとえば、『大ピンチずかん』にまつわるスケッチ。横には黄色の紙に鈴木さんの直筆で、説明や、当時の出来事や想いなどもつづられています。このほか、40点ほどの原画や鈴木さんの写真、質問コーナーなど。楽しみどころがたっぷりで、時間がいくらあっても足りません。




「好きなところにあてて楽しんでください」(鈴木さん)。
また、平日限定で「おかあさんがへんなふくをかってきた」をモチーフにしたカードもプレゼント。こちらはミュージアムショップでも購入でき(1枚330円・税込)好きなところにカードをかざせば、世界に一つの“へんなふく”が楽しめるというものです。
鈴木さんは、お子さんたちとスマホで写真を送り合って「こんな“へんなふく”、どう?」と楽しんでいるそうですよ。
大人もようこそ!大ピンチの世界へ
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大ピンチレベル33「ケチャップがとんだ」を体験できる!?オムライスがカフェで食べられます( 大ピンチ!オムライス 1,680円・税込)。別添えのケチャップを飛ばさずに、お母さんへの感謝のメッセージが書けるかな?
最後に鈴木さんから、『kufura』読者へメッセージをいただきました。
「横浜、大阪と巡回してきて、実は何度か内容を見直したり修理したりしているんです。というのも、子どもたちは予想もつかない遊び方をするので、破損したり思った以上に並んじゃったりして(笑)。でもそれって、盛り上がってくれている証拠。回を重ねるごとに、より楽しんでもらえるようにできたらと思っています。
あとは、なるべく幅広い層に楽しんでいただきたい。とくに『大ピンチバー』は、大人の方がじっくり眺めている姿もよく見られるんです。だから『kufura』読者の皆さんにも、ぜひ大ピンチの世界へ来てほしいですね」

JR立川駅から徒歩10分ほど。「PLAY!」はお子さん連れでも来場しやすい施設です。
いくつになっても大ピンチは訪れるもの。全員参加型の『大ピンチ展!』で、ピンチを笑い飛ばしませんか? 東京・立川「PLAY! MUSEUM」では、2025年12月7日(日)までの開催です。
大ピンチ展!プラス
会期:2025年10月8日(水)〜12月7日(日)無休
開館時間:10:00〜17:00(土日祝は18:00まで/入場は閉館の30分前まで)
入場料:一般1,500円/大学生1,000円/高校生800円/中学生600円/小学生600円(以上すべて税込)
土日祝:オンライン販売(日時指定制)、平日:受付販売(当日券)
https://play2020.jp/article/pinch/
『大ピンチを楽しむ』鈴木のりたけ著(ブルーシープ)
1,980円・税込
「大ピンチ」はどこまで行く?
子どもが直面するさまざまなピンチをユーモラスに描き、ミリオンセラーとなった絵本「大ピンチずかん」シリーズ。『大ピンチを楽しむ』は、2025年7月からはじまった体験型の展覧会「大ピンチ展!」の公式図録です。
作者・鈴木のりたけさんへのインタビューを通して、ミリオンセラーとなったシリーズ誕生の背景から、創作の舞台裏、思考の変遷までをラフ画やスケッチとともに丁寧に記録。ヒットの理由を探る鈴木さん自身の言葉から、作品のさらなる魅力と創作の深層に迫ります。
後半では、「大ピンチ展!」のメイキングや、絵本作家の原点でもある子ども時代のエピソード、人気絵本作家となるまでの経緯、そして15年の創作を通して追求してきた絵本づくりの哲学までを余すところなく紹介しています。
『大ピンチずかん』シリーズのファンはもちろん、ものづくりに携わるすべての人に向けた、創作のヒントとエールがつまった“ピンチ・エンターテインメントブック”です。

朝ランが日課の編集者・ライター、女児の母。料理・暮らし・アウトドアなどの企画を編集・執筆しています。インスタグラム→@yuknote