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クジラとカバが親戚ってホント!? 国立科学博物館 特別展「大哺乳類展3」が楽しめるポイント4つ

ネズミ、リス、サル、イルカ、クジラ、アザラシ、コウモリ、ウシ、カバ、クマ……。これら海、陸、空中に住む哺乳類を500点以上展示する特別展「大哺乳類展3」が、現在東京・上野の国立科学博物館で開催中です。哺乳類の生存戦略を提示した2019年の「大哺乳類展2」に続き、3回目となる「大哺乳類展」の今回のテーマは「わけてつなげて大行進」。
これは生物研究の大きな2つの柱である「分類学(=わける)」と「系統学(=つなげる)」をわかりやすく展示で紹介したものです。学生時代、生物の教科書で「モモンガとムササビは親戚で……」というように“動物の家系図”のような表を見た人もいると思います。あの表がまさに「系統」。生き物をグループわけして、親戚同士をつなげた結果です。それでは特別展「大哺乳類展3」がよりよく楽しめる4つのポイントを紹介しましょう。

1:入口から順番に見ない。まずは200点の剥製標本が集う「哺乳類大行進」のゾーンへ

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会場を入ると見えてくるのは、「哺乳類とは」というゾーン。私たち生きものは、どうして哺乳類の仲間になり得ているのか。その身体の特徴について紹介しているのですが、順番に見ていくとちょっとだけ“お勉強感”が強いので、いったんこのエリアは後で見るとして、メインの「哺乳類大行進」の展示まで一気に進んでしまいましょう。

海と陸の哺乳類の剥製や骨格標本を約200点も展示

天井からは海の大きな生き物が……! そして会場の大部分を占める台の上には、体長5cm以下の生物から30mを超えるものまで、関係性の近いグループごとに貴重な標本が一斉に展示されています。まるで行進をするように、違う生き物が一斉に同じ方向を向いていますね。

二本足で屹立したヒグマとホッキョクグマ

二本足で立ち上がったヒグマとホッキョクグマは見たところ、高さが4〜5メートルはあるでしょうか。小さな子どもの目から見ると、クマの高さは、ちょっとした建物が立っているかのようです。今にも襲いかかってきそうで、迫力がありますね。

そして天井には、ツチクジラなどの海の哺乳類のほか、さまざまなサイズのコウモリも羽ばたいています。

天井から吊るされたシャチとユメゴンドウ
コウモリの標本

国立科学博物館が所蔵している標本は約8万6,000点です。その中から選りすぐりの剥製がズラリ鎮座しています。

8万点以上も所蔵していたら、あらゆる生物の標本があるように感じるかもしれません。しかし地球上のあらゆる哺乳類の数から考えたら、8万点は氷山の一角。

左が国立科学博物館 動物研究部 脊椎動物研究グループ 研究主幹 川田伸一郎先生、右が同館 動物研究部 脊椎動物研究グループ 研究主幹 田島木綿子先生

今回、展示の監修を務めた国立科学博物館 動物研究部 脊椎動物研究グループ 研究主幹で、海の哺乳類を担当する田島木綿子先生は、「海の仲間の剥製は、皆さんもご存じの新江ノ島水族館などからもお借りしました」と話します。

同じく監修をされた同館で田島先生と同じ研究グループの川田伸一郎先生は、モグラがご専門。「今、欲しい標本はキンモグラ。今回の展示を作るために、どれだけキンモグラが欲しかったか!」と、話す声にも熱が入ります。

田島先生に「この剥製標本はすべて実物大なのですか?」と質問すると、先生は間髪入れずに「もちろんです!」との答え。実は、私たち人間は普段テレビやスマホの画面を通して哺乳類の動物を見ているので、「想像していたよりも大きい、意外にも小さい」と感じる生き物がかなり多くいたのです。

お子さんと一緒に「シマウマ、大きいね。キョンって意外と小さいね」と話し合いながら、個々の生き物の大きさを体感しながら「哺乳類大行進」を眺めると、より楽しめますよ。

2:気になる生き物の名札をチェックし、その生物のゾーンを観るのがオススメの見方

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「哺乳類大行進」で生き物のライブ感に圧倒されたら、ぜひ生物の名札にあたる紹介欄を見てみてください。

標本展示の側にはその生物の「名札」のような紹介欄がある
ロバは「ローラシアテリア」という類で、「奇蹄目(きていもく)」という目で、「ウマ科」という科にわけられている

バク、サイ、シマウマ、ロバ……は見た目がかなり違いますが、「哺乳類大行進」で近いところに並ぶということは関係性の近い生き物ということ。実は同じ奇蹄目(きていもく)の仲間たちなのです。そして紹介欄の左上には青い地の上に「ローラシアテリア」と書かれています。

この「ローラシアテリア」という類は、海の生き物と陸の生物が混在しています。中身はハリネズミやモグラ、コウモリ、シカ、キリン、イルカ、クジラ……。見た目は似ても似つかない生き物が、意外にも近しい仲間というのは面白いですね。

見た目に騙されずにこの種とこの種は、本当は仲間なのではないか。固定概念にとらわれず、近年細胞の核にある遺伝情報を細かく見るDNAの研究が進んだところ、川田先生専門のモグラにも、田島先生専門のクジラやイルカにも大発見があったのだそう。その研究の最前線にいる先生たちの心からの驚きがコラムとなって、あますところなく展示に反映されています。

研究のこぼれ話のようなちょっとしたコラムも至るところに展示されている

「大哺乳類展3」を楽しく観るコツは、「哺乳類大行進」で気になった生物のゾーンからまずは観ること。「ローラシアテリア」の生物が気になったら、ぜひ青い「ローラシアテリア」ゾーンに行ってみましょう。

他にもアリクイ、コアラ、カンガルーが属する黄色の「有袋類」、ツチブタ、ゾウ、ジュゴン、マナティがいる赤の「アフリカ獣類」、ハリモグラ、カモノハシがいるオレンジ色の「原獣類」などのコーナーがあります。

会場全体を通して、同じ類で色わけされている。「アフリカ獣類」は赤、「有袋類」は黄色、「原獣類」はオレンジ

また記事冒頭で紹介した哺乳類の家系図とも言える「哺乳類系統樹」も、同じ類ごとに色わけがしてあります。哺乳類全体の中で、今、どの系統の生き物を集中して見ているのか。参考になりますね。

類ごとにわかれた「哺乳類系統樹」

3:監修・川田先生のオススメポイント

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「大哺乳類展3」監修の川田伸一郎先生

哺乳類をまず何種類かにわけ(=分類)、何と何が親戚関係なのか(=系統)を調べる学問の中で、大きな発見が続いたのはここ10年。DNAの遺伝情報を解析するうちに、新しくて面白い知見が出てきて、分類自体が変わってくるようになりました。

川田先生は言います。「DNAの情報が明らかになっていくとともに、今まで同じグループと思っていたものが、全然違うグループの生き物だってことが、どんどんわかってきたんですね。

でも、これって不思議ですよね。例えばセンザンコウはアルマジロにそっくりなんだけど、全然違うグループなんです。

そういう現象を“収斂(しゅうれん)進化”と言います。こういう風にわけて、つないだうえでわかった収斂進化の不思議さ、面白さみたいなものを、大人の方だけでなく、チビっ子たちも会場内をぐるぐると周りながら、驚いて声を出しながら見てもらえたらと思います」(川田先生)

異なる分類群でも、同じような姿かたちを持つのが「収斂進化」。固定観念に惑わされずに相手を知ることは、人間の世界でも同じことですね。

また、生物の情報は既に調べ尽くされていて、新たにわかるのはDNA情報というわけではないのだそう。それだけにどれだけ多くの標本にあたるかが研究のカギで、「例えば生物の臓器に注目して、新しい親戚関係に着目した人もいる」と川田先生は話します。

川田先生が説明したのは、バンドウイルカの肺。人間の肺とほとんど似ているのですが、ちょっと違うところがありそうです。

バンドウイルカの肺

「大哺乳類展3」監修の川田伸一郎先生

「クジラの仲間、鯨類のイルカは、気管から右肺と左肺へ気管支が二股にわかれる前に、もう1個の太い枝がわかれています。これ、“気管の気管支”って呼ばれているんですね。

この“気管の気管支”を持っているのは、クジラだけじゃなくて、ウシも同じです。だからウシに代表とされる偶蹄類とクジラは、同じ特徴も共有しているということがわかりました」(川田先生)

「偶蹄類というのはウシだけじゃありません。ラクダやウマ、イヌ、ネコ、カバといろんな偶蹄類の生き物をごちゃ混ぜにして分析してみた結果、偶蹄類とクジラが近い関係にあることがわかった。それがわかったのは、1997年。つい30年前です。クジラは、カバに近いんです。

クジラとカバの祖先が、他の偶蹄類と近い関係にあるということは、イルカなどのクジラの仲間が今まで違うとされていたのに、全部偶蹄類の中にスッポリ入るということ。そうなると、もはやクジラとカバをわける方法はないんですね。

他にも、まだまだこれからの研究で、生き物の分類が変わっていくと思います」(川田先生)

4:監修・田島先生の推しポイント

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「大哺乳類展3」をこれから観に来る子どもたちのために、笑顔で撮影に応じてくださった田島木綿子先生

田島先生のイチオシは胃のコーナー。先生は生き物の消化器が大好きで、なかでもウシの胃が好きなのだそう。ちなみに展示してある胃は、すべて本物。先生方が標本をイチから作りました。

「我々人間は1つの胃、単純な単胃を持っています。しかも人間は食べる前に調理してしまう。だけど他の哺乳類は、とにかく生のまま食べるじゃないですか。消化吸収がものすごく大変なんですよ。だから臓器にいろんな工夫があるんです」(田島先生)

グレビーシマウマは1つの胃を持つ単胃

「ウマは盲腸がとにかく大きい。食べた原虫とか微生物を、腸で発酵させて消化するんですね。だから胃が単純なつくり。でもこっちのグループは、胃で頑張るタイプなんですよ」(田島先生)

「こっちのグループ」とは、複数の胃を持つ複胃のグループのこと。この胃の数がすごいです。

複数の胃を持つ複胃のグループ

「実はクジラの胃も複数の部屋にわかれているんです。さらにクジラは面倒なことに、種によって胃の部屋の数が違う。でも、なぜかはわからないんですよね。さらに面倒くさいことに、カバも複胃。カバとクジラは姉妹関係にあるんですね」(田島先生)

コブハクジラの胃、5つの部屋にわかれている(国立科学博物館所蔵)
カバの胃(国立科学博物館所蔵)

「でもカバは鯨類でもないし、ウシやシカのように反芻類でもない。なのに複胃なんです。“カバのあなたは、一体これからどこに行きたいの?”って問題提起もしたいし、私たちも考えていきたい。熱く語りましたが、これは胃だけの話ですよ(笑)? だから胃で考えてみても、生物ってわかっているようで案外わかっていないので、一緒に見比べてみると面白いんですよね。

特に『大哺乳類展3』に来てくれるちっちゃい子には、今回展示しているものが全て正解だと思って欲しくないんです。逆に、展示を見ている子どもたちから“え〜、カバって本当はこっちの仲間じゃない?”って、いい意味でうがった気持ちで見て欲しい。“本当にこれって説明してある通りなのかな?”って。

そういう疑問から、生物を知ることが始まります。ちっちゃい子にはそうやって疑う目も養って欲しいなと思います」(田島先生)

展覧会グッズも見逃せない

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『プリントマシュマロ』(6個入り/594円・税込) 『ばくばくラーメン』(378円・税込)
『ヒグチユウコ サクマドロップス』(赤・青/486円・税込)

展覧会が開催されるごとに人気を博している「大哺乳類展」オリジナルグッズも紹介しましょう。

開催してまもなく売り切れ、4月中旬頃の再入荷を予定しているのは赤と青の2色展開された『ヒグチユウコ サクマドロップス』(486円・税込)。画家のヒグチユウコさんがパッケージを手掛けたもので、ドロップスの他にTシャツ、クリアファイル、ポスター、ポストカードも並びます(各商品の在庫には限りがあるため売り切れの場合あり)。

その他、パンダやオランウータンなどの姿がかわいい『プリントマシュマロ』(6個入り/594円・税込)や、ユーモラスな“ばく”の姿のパッケージが愛らしい『ばくばくラーメン』(378円・税込)なども。

ユニークなオリジナルグッズの数々、ぜひ手に取ってみてください。

 

最後に田島先生はこう話します。

「古代ギリシャの哲学者であるアリストテレスがいた2,400年以上も前から、そして皆さんご存知のダーウィンも、いつの時代も哺乳類の分類と系統は続いてきて、今でもどんどん内容が改変されているんです。

いろんなバトンをつないできた学問の歴史を経て、今がある。生物を研究するにあたって、“分類学”と“系統学”は基礎中の基礎の学問です。廃れてしまった、終わった学問だなんて言われることもあるんですけど、今回の展示を観ると、皆さん哺乳類のいろんなことがわかって、ビックリするはずです。

当然我々人間も哺乳類なので、皆さんも動物の一員として、参加している気持ちで見てもらえれば。相手を知って、自分を知る。“ちょっと難しいけど、こうやって生き物のことをわかっていけたらいいんだな”と、何か生きるヒントになったらいいなと思います」(田島先生)

 

文/横山由希路


 

【展覧会情報】

展覧会名:特別展「大哺乳類展3 −わけてつなげて大行進」

会期:開催中~2024年6月16日(日)

休館日:月曜日、5月7日(火)

※ただし4月29日(月・祝)、5月6日(月・休)、6月10日(月)は開館

開館時間:午前9時~午後5時(入場は午後4時30分まで)

会場:国立科学博物館(東京・上野公園)

入場料:一般・大学生2,100円、小・中・高校生600円、未就学児は無料

※ 最新情報は公式HPでご確認ください

https://mammals3.exhibit.jp/

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