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映画「バービー」は、笑えて、ハッとして、ジーンとくる大名作!親子で楽しめる見どころ3つ

公開前に、意図せぬところで話題になった映画『バービー』が、8月11日にいよいよ公開! ファッション・ドール「バービー」の世界を初めて実写映画化した作品です。バービー人形が題材ということは、子ども向け……?と思ってしまいがちですが、子どもはもちろん、大人も十二分に楽しめる仕上がりに!

小中学生の2人のお子さんがいる映画ライター・浅見祥子さんに、映画『バービー』のよさを3つのポイントに分けて教えてもらいました。

1:すべてがピンク色で、ファッショナブル!―誰もが知るバービー人形の世界が実写化!

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バービーランドはいろんなピンクでいっぱい。

バービー人形の世界が映画化される、しかもバービー役はあのマーゴット・ロビー、ってそれハマり過ぎでは!? 映画『バービー』の企画を聞いてそう思いました。

映画ではまず、ピンク色の夢みたいな“バービーランド”の世界が描かれます。カラフルでオープンなドールハウスが建ち並ぶ街、バービーはいい気分で目覚め、シャワールームに入ればちょうどいい感じのお湯が出て、ステキなお洋服がずらっと並んだクローゼットに入ると、一瞬で思い通りのファッションに早替わり。

重力なんてないから心も体もいつでも軽くてウキウキで、お友達に会えば手を振りながら笑顔で挨拶を交わし、毎晩お友達とパーティー三昧。

すべてが完璧で、そんな完璧な今日が明日も続く……。それがバービーランドです。冒頭の数分、猛スピードで展開するポップなその描写だけで、目にも心も、楽し~!みたいな気分でいっぱいになりました。

なんにだってなれるし、心配事も挫折も貧乏も税金もないというこの振り切った浮世離れ感。子どもがそこで想像力を駆使して夢中で遊ぶお人形の世界ですから、戦争とかパンデミックとか相次ぐ値上げとか、暗~いニュース一色の現実と遠く隔たりがあるのは当たり前です。そこが、ミソ。うわ~楽しい! 子どもも大人も、誰もが一瞬で映画の世界へ没入するはずです。

2:監督も、脚本家も、出演者も―ハリウッドのナイスなセンスと才能がぎゅっと凝縮!

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人間の世界にやってきたバービー。幼い頃はバービー人形で遊んだティーンのリアクションは?

バービー役で、本作の製作も手がけたマーゴット・ロビーのビジュアルは、まさにバービー人形そのもの。華やかなブルーの瞳とゴージャスなブロンドの完璧な美人でスタイルも抜群。彼女なら、親しみやすい笑顔と底抜けの陽気さを備えた“バービー”をそのままナチュラルに演じられるに違いない、そう思わせます。

でも、ある種の俳優にとって、“お人形のように美しい”というのは決して誉め言葉ではありません。知的で、演技力を認められたい!という野心を持つ俳優の場合は。

マーゴット・ロビーは、もちろんこれは勝手な印象ですが、まさにそんな女優さんに思えます。まずは見た目の完成度があまりに高く、“セクシーなブロンド美人”という典型的キャラクターを振りたくなります。でも彼女が選び取ってきた一部の役柄を観れば、それだけでは飽き足らない!

製作も手がけた『アイ, トーニャ 史上最大のスキャンダル』ではややガラの悪いフィギュアスケーター役を演じ、『スーサイド・スクワッド』『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 Birds of Prey』ほかではクレイジーなヴィラン(悪役)、ハーレイ・クインになって大暴れ。まるで、「本当の私を観て、私はなんにだってなれるのだから!」と叫ぶかのよう。

そんなマーゴット・ロビーが新たに製作も兼ねたのがこの映画なのです。

「バービー人形」は、発売当時、赤ちゃんの姿が大半だったお人形の世界に“セクシーでファッショナブルなブロンド美人”という革命を起こしました。お洋服を替えるだけで、医者にも弁護士にも宇宙飛行士にも、なんにだってなれる! それがバービー。「そんな夢の女の子を、見た目まんまバービーな私が演じたら、面白くない!?」みたいな。

自分を客観視し、どうすれば最大限に活かせるか? 考え抜く知性と、的確な題材を選ぶお茶目なセンスを感じます。

パーティーシーンのノリのよさも抜群。

監督にグレタ・ガーウィグを指名するのもナイス!なセンスです。デビュー作『レディ・バード』も、「若草物語」を映画化した『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』も、やたらにクオリティが高い映画でした。

カリフォルニア州にあるカトリック系の高校に通う女の子とか、そもそも原作が150年も昔の小説とか、今現在の日本で生きる私たちには遠い世界であるはずなのに、彼女が描く物語にはいつでも異様に高い共感力があります。

それぞれのキャラクターには一生分の人生がちゃんとあって、セリフには実感のこもったドラマが込められていて、まるで自分のための物語のよう……。そんなことを思わせるのです。

そして、見ものなのがバービーのボーイフレンド、ケンを演じるライアン・ゴズリング。『きみに読む物語』『ラ・ラ・ランド』と、いつでもハイレベルな演技で作品をけん引するスターなわけですが、とにかくこの人、笑いのセンスが抜群です。

この映画でも、「え、ア〇なの!?」みたいな間の抜けた顔やツッコミたくなるキメ顔まで自由自在。金髪にするとまさにケンそっくり(そしてはだけたシャツからは腹筋のシックスパックが!)、そもそもこの役は彼が演じるのを想定して書かれたそう。

脚本に名を連ねるのは、第92回アカデミー賞にノミネートされた『マリッジ・ストーリー』の監督・脚本を手掛けたノア・バームバック。今回、信じられないくらいのレベルに洗練された、そして確実にツボをつく脚本をものにします。

他にも、アカデミー賞を受賞した『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』に続いて衣装を手掛けるジャクリーン・デュランなど、まさにハリウッドの今“旬”なつくり手のセンスと才能がぎゅっと凝縮されているのです。

3:誰もが感情移入出来る!―笑えてハッとしてジーンとくるストーリー

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バービーをめぐって、ケンとケンが衝突。

このバービーランドで、女の子はみ~んなバービーです。大統領も医者も消防士もそう。つまりバービーが社会を回しています。

それで男の子はみ~んなケン。金髪でハンサムで腹筋はばっきばき、でも彼らには自分というアイデンティティがありません。見た目がよくてバービーという完璧な女の子をただ見つめるだけのボーイフレンド、それが男の子に与えられた固定の役回りです。それって現実と真逆では!? それが、この映画の笑いを生む出発点です。

ある日、いつものようにパーティーでノリノリに踊っていたマーゴット・ロビー演じるバービー。ふと「死ってどういうことなの?」なんて不似合いな言葉が口をついて出ます。しかも太ももの裏には醜いセルライトが! いったい何が起こっているの!? 真実を知るために、バービーは人間の世界へと飛び出すのです。

なんかよくわからないけどバービーが行くから!という感じで、ケンも一緒についていきます。そこで目にしたのは、まるでバービーランドの裏表。男性が主導権を握るめちゃめちゃジェンダー不平等な人間の世界です。あれ、こっちでは男が主役!? 何者でもなかったケンの心が動きます。

ではバービーは、人間の世界に触れて何を知るのでしょう?

 

大人はとにかく、そのクオリティの高さで映画に没頭するはず。あのバービー人形が動くの⁉ そう思って観始めた子どもはきっと、まずはピンクの世界に目を輝かせ、バービーの目を通して大切な何かに気づくに違いありません。

『バービー』

8月11日公開予定

配給:ワーナー・ブラザース映画
監督・脚本:グレタ・ガーウィグ(『レディ・バード』『ストーリー・オブ・マイ・ライフ/わたしの若草物語』)
脚本:ノア・バームバック(『マリッジ・ストーリー』)
プロデューサー:デヴィッド・ヘイマン(『ハリー・ポッター』シリーズ、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』)
出演:マーゴット・ロビー(『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』)、ライアン・ゴズリング(『ラ・ラ・ランド』)、シム・リウ(『シャン・チー/テン・リングスの伝説』)、デュア・リパ、ヘレン・ミレン(『クイーン』)

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浅見祥子
浅見祥子

映画ライター。映画配給会社勤務を経て、フリーランスに。二児の母。
『ビーパル』(小学館)、『田舎暮らしの本』(宝島社)などの雑誌、『@DIME』、『シネマトゥデイ』などのWEB媒体で映画レビュー、俳優&監督インタビューを執筆。
西田敏行の語り下ろしエッセイ本『バカ卒業 ~映画「釣りバカ日誌」のハマちゃん役を語ろう~』(小学館)、お笑い芸人ニューヨークのエッセイ本『今更のはじめまして』(ワニブックス)を担当。

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