1:【ネタバレなし】宮崎駿監督による最新作『君たちはどう生きるか』を、あなたはどう観るか?
null宮崎駿監督が『風立ちぬ』の完成後に発表した引退宣言を撤回、10年ぶりに完成させた新作『君たちはどう生きるか』、その中身は!? 前のめりになる観客を前に、「映画の内容を事前に一切明かさない」という宣伝方針が貫かれます。公式サイトも予告編もなし、声優もあらすじも謎。知らされたのは吉野源三郎による小説から借りたという異様な力強さを備えたタイトルと、けれど映画の内容は宮崎監督によるオリジナルであること、1羽の鳥の目の下、くちばしの陰からこちらをじっと見据えるもう1つの目に射貫かれるポスターだけ。宮崎駿が7年の歳月をかけてつくり上げた映画とは、いったいどんな中身なのでしょう? 公開初日、朝いちばんの初回に映画館に駆けつけました。
ストーリーの詳細は、ここでは省きます。この先、どうなる? そんな、前情報なしに目の前の映画に身をゆだねるという映画の根源的な楽しさを味わうことは、やはり新鮮な喜びだと思うからです。エンドロールが流れて初めて声優が誰だったかを知って頭の中がびっくりマークでいっぱいになり、すぐにそれとわかるあの独特な声を聴いて「主題歌はこの人だったのか!」とまたびっくり。映画の余韻に浸りながら、「これは劇場で観るべき映画だ」と改めて思いました。
これまではすべてのカットに監督自らが手を入れてきた「宮崎アニメ」ですが、今回は映画の設計図となる絵コンテの制作に専念。それを具体化する役回りである作画監督は、『崖の上のポニョ』『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズにも携わった本田雄が担いました。それでもやはりその“実感のこもった描写”、監督自身が抱く感覚を想像と創造の力でキャラクターやストーリーへ転換し、多くの人と通じ合うためにエンターテイメントとして成立させる洗練された技を、この映画でも改めて堪能することに。
実際に映画は、一部の隙もないように思えました。といっても、「これは暗喩でこういう意味」などと、いちどですべてを頭で理解したわけではないのです。暗闇に身を沈めて大きなスクリーンに映る映像と対峙すると、そこには隅々まで、監督の描きたいものがつまっているという体感がありました。そういう意味で上映時間の2時間ほどに、ゆるむという瞬間がない。特別な何かに触れているという手応えが、映画を貫くようでした。
映画のなかに、これまでの宮崎アニメを思わせる瞬間がたびたびありました。でも、決して焼き直しのようではなく、監督が純粋に描きたいもの、描いておかなくては終われないもの、今描かなくてはいけないものを、思う存分描いたものに感じました。まるで遺言、というと縁起でもないですが、これからを生きていく人たちにストレートに思いをぶつけたようでもあって、その切実さが心に突き刺さり、そんなつもりはないのに気づいたら涙が流れていました。
何を心の軸にして、どう生きればいいのか? 子育て真っ最中のママはもちろん、多くの大人だって確信が持てない今、映画館で観ることをおすすめする映画であるのは確かです。まして模索の只中にいる子どもたちはきっと、大切ななにかを感じ取るに違いありません。
※以降の映画紹介については、各作品のネタバレを含みますのでご注意ください。
2:これは自分の可能性を見つける物語…ディズニー&ピクサー『マイ・エレメント』
nullもし火・水・土・風が暮らす世界があったら?
ディズニー&ピクサー最新作『マイ・エレメント』、こんどの舞台はカラフルで美しい「エレメント(=元素)・シティ」! この街では、「違うエレメントとは関わらない」、それがルールです。主人公はシティのはずれにあるファイアタウンに暮らす“火”の女の子、エンバー。父が経営する雑貨店を継ぐことが夢だった彼女がある日、“水”の男の子、ウェイドと出会います。「知らない世界を見たい!」……エンバーの心が動きます。
映画はまずエンバーを取り巻く世界、ファイアタウンの日常を高速スピードで描写していきます。下町みたいな庶民的な街で、大好きなお父さんと店を切り盛りするエンバー。すぐカッとなっちゃうけど、いつでも一生懸命な良い子です。そんな元気いっぱいな女の子に、川口春奈の弾む声がぴったり。
彼女が出会うウェイドは、涙もろいのは親譲り、育ちがよくて真面目で、自由な心の持ち主。Kis-My-Ft2の玉森裕太が、そんなウェイドを優しい声で演じます。
2人は性質も性格もまさに正反対。文字通りに住む世界が異なるだけでなく、“火”と“水”は互いに互いを消してしまう(=水は火を消し、火は水を蒸発させる)ので、惹かれ合っても、触れることすら出来ない……。2人の可愛らしい恋のロマンティックが、切なく加速していきます。
アミューズメントパークのようなエレメント・シティのワクワクに満ちた描写。「運命は自分で決めるものだよ」、そんなことを言ってくれる男の子とのステキな恋の物語。そして親子の絆を描く普遍的な人間……じゃないけど生きもののドラマ。
監督は『アーロと少年』のピーター・ソーン。韓国からニューヨークへ移住して食料品店を開いた両親の経験が投影された物語であるそう。「人種差別って?」「移民問題とは」、実は重量級の社会問題を扱いつつ、カラフルなエンタメ作に仕上げる手際のよさに、きっと心を持っていかれるはず。親子で観て心から楽しみ、あれこれと語りたくなるかもしれません。短編アニメーション映画『カールじいさんのデート』が同時上映。
3:これぞ“しん(新)次元”!?『しん次元!クレヨンしんちゃん THE MOVIE 超能力大決戦 ~とべとべ手巻き寿司~』
null『モテキ』『バクマン。』の大根仁監督が“子ども向けアニメ”の枠を超えた『クレヨンしんちゃん』劇場版を撮る! いったい、どんな映画に!? 『しん次元!クレヨンしんちゃん THE MOVIE 超能力大決戦 ~とべとべ手巻き寿司~』は、観る前からさまざまな妄想を掻き立てました。映画のキャッチコピーは「すべてが、しん次元」。これはまさに、そんな映画なのです。
まず、3DCGアニメーション作品なのはシリーズ初。長年シリーズを手掛けてきた『シンエイ動画』と『STAND BY ME ドラえもん』シリーズの『白組』がタッグを結成しました。しんちゃんのあのぷっくりしたほっぺ、ぷりっとしたお尻って、そもそも3DCG向きなのでは?と思わせるほどに違和感がありません。そして臼井儀人による『クレヨンしんちゃん』のエピソード「エスパー兄妹」を元に、大根監督が自ら脚色しました。
ノストラダムスの隣町に住むヌスットラダマスの予言……「20と23が並ぶ年に、天から2つの光が降るだろう」。その予言通りに2023年、宇宙から白と黒の2つの光が。白い光は、夕飯の手巻き寿司を前に大はしゃぎなしんのすけに命中、不思議なパワーを宿すことに。もう1人、黒い光を浴びたのが、非理谷充。仕事は上手くいかず、友達はなく、唯一の心のなぐさめである推しアイドルは結婚。暴行犯に間違われ、警察から追われるはめに。そんなときに手に入れた不思議な力とともに、彼はこの世界への復讐を誓います。
しんちゃんが、エスパー!? なんとなく、その特殊能力を無駄遣いする姿が目に浮かぶことでしょう。そうして映画はしんちゃんと母みさえとのスケールの小さないつものチェイスに始まり、地球存亡の危機を救おうとするマジなスペクタクルへと突入します。
見ものは非理谷を巡る人間ドラマ。そこはさすが、ドラマ『エルピス ―希望、あるいは災い―』も手掛けた大根監督。今の社会で起きていること、そのただ中で生きるわれわれの気分をすくい取り、しんちゃん映画にうま~く織り込んでいく展開は、まさにハイレベル!
非理谷の存在がもたらす絶望感、救いがたい悪意を抱くに至る経緯に観る者を感情移入させます。
それでも、これはもちろんしんちゃん映画。「ぶりぶり~」とかいってお尻を振ったり、キレイなお姉さんが大好きで、隙あらばおっぱいに顔をうずめようとするしんちゃんのキャラにブレはありません。そのなかで、ちょっと東映ヤクザ映画風(?)の描写があったり、音楽の使い方にさすがのセンスを発揮したり! 大根監督ファンも大満足。子どもに求められていったら大人がだだハマり! なんてこともあるでしょう。きっと今夜のご飯は、手巻き寿司かも?
4:体を張ったアクションで暑気払い『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』
null昨年『トップガン マーヴェリック』で改めて、彼が特別なハリウッドスターであることを世界に示したトム・クルーズ。「トムの新作がやってきた!」というニュースは、「祭りだワッショイ!」みたいな気分にかなり近い気がします。または、「スカッとしたいから、アミューズメントパークに行っちゃう!?」というワクワク感かも。
そんなトムの次なる新作が、シリーズ7作目となる『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』。やはりトム自身が製作を兼ね、監督は前作『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』に続いてクリストファー・マッカリーが担当。どうにも、期待値は上がります。
そうして世界の存続を脅かす重大な危機が近づき、トム演じるイーサン・ハントにIMF(←国際通貨基金じゃないほう)から新たに“インポッシブルな”ミッションが下るのです……が、そこのところの詳細はざっくり省きます。
まずは映画が始まってすぐに映し出される、複雑な曲線を描くアブダビの砂漠、迷路のような夜のヴェネツィアと、世界を股にかけたカラフルなロケ地に目を奪われます。「ストーリーの構成とロケーションがすべて、それが私のやり方です」とトムがいうように、このシリーズは、それが大いにものをいうのです。
もちろんトムも大暴れ。空港を舞台にした、見た目にもトリッキーなチェイスがあったり、古い街並みが残るイタリア・ローマのくねくねとした細い石畳の道を、片手でハンドルを握って(助手席の美女と手錠で繋がれているから!)、猛烈なカーチェイスを展開したり。観る者の意識を強烈に映画へと釘付けにします。
そして予告編にも使われているこのシーン。バイクに乗ったイーサンが断崖絶壁から……! 劇場で、「え。」と小さく声を上げました。映画鑑賞後は是非、メイキング動画を併せて観ることをおススメします。トムって、あのジャンプを「映像の完璧を期するために」とか言って7回跳んだの!?と腰を抜かすかもしれません。
そうして2時間43分は本当にあっという間。しかもこれは2部作の1本目。ミッションの行方は次作に持ち越しです。アクションシーンだけでも重量級の見応えで、これだけの長尺を最後まで見せ切ってしまうところに、今のトムの映画スターとしてのパワーを見た思いでした。
ここでは紹介しきれないものの、今年はさらに『トランスフォーマー』シリーズ最新作『トランスフォーマー/ビースト覚醒』(8月4日公開)や『バービー』(8月11日公開)など、名作映画がそろいぶみ! 『トランスフォーマー』は、例のトランスフォーム(=変形)シーンの進化、ゴリラやハヤブサら知能を持ったトランスフォーマー“ビースト”のやたらに格好いいデザインと、ロボットや動物に目がない子にはたまらないはず。
ファッション・ドール「バービー」の世界をキュートにポップに実写化した映画『バービー』もサイコーなので、こちらはまた後日、別の記事で詳しくレポートします!
親子で映画を観て、感想を語り合う。そんなひとときを、ぜひ楽しんでください。
映画ライター。映画配給会社勤務を経て、フリーランスに。二児の母。
『ビーパル』(小学館)、『田舎暮らしの本』(宝島社)などの雑誌、「シネマトゥデイ」などのWEB媒体で映画レビュー、俳優&監督インタビューを執筆。
『バカ卒業 ~映画「釣りバカ日誌」のハマちゃん役を語ろう~』(小学館)、『芸能マネージャーが自分の半生をつぶやいてみたら』(ワニブックス)を担当。