Q. そもそもデジタル遺品とは?
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A.デジタル空間に存在する資産やデータ
「デジタル遺品とは、故人が所有していたパソコンやスマホに保存されたデータ、SNSアカウント、電子メール、クラウドストレージ、オンラインバンキングやサブスクリプションサービスの情報など、デジタル空間に存在するさまざまな資産を指します」(以下「」内、田村勇樹さん)
こうしたデータも、死後に遺族が引き継ぐことになるのですが、デジタル遺品に関する相談件数は年々増加傾向にあり、社会課題のひとつになっているとか。
「私たちは年間約42万件以上のデジタル機器のトラブル解決を行っていますが、特に『デジタル遺品サポートサービス』は2016年7月のサポート開始から2025年6月末までの間で、相談件数が約3倍に増えています」
パソコンやスマホが生活の必需品として定着したいま、デジタル遺品は増加しています。今後は、デジタルデータの生前整理、つまり“デジタル終活”の必要性が高まっていくといえます。
Q. 残された家族が主に困ることは?
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A.パソコンのパスワード解除ができない
「デジタル遺品で最も多い相談は『パソコンのパスワードが解除できない』件で、相談内容の約9割を占めるほどです」
具体的には、
「パソコンに思い出の家族写真がたくさん入っているけれど、パスワードがわからず開けないので、整理やデータ移行ができない」
「故人のパソコンを破棄したいのでデータを消したいが、パスワードがわからず、中身が見られないのでむやみに捨てられない」
「家族で使っているパソコンに故人のアカウントがあるが、パスワードがわからず開けない。管理者も故人だがその変更もできない」
「暗号資産のデータがパソコンに入っているはずだが、開けないので確認できない」
……といった相談が寄せられるそうです。
「仕事で使っていたパソコンの中に重要書類が入っていたものの、パソコンが開けなかったため、その存在がわからなかったこともありました。最近は書類の電子化が進んでいますから、紙の書類で保存されないことも。仕事で使っていたパソコンは特に、中身を確認せずに破棄するのは危険です」
パスワード問題のほかにも、『データが多くて何をどうしていいかわからない』『SNSアカウントをどうしたらいいのかわからない』『定額課金制有料サービス(以下サブスク)が解約できない』『ネット銀行にアクセスできない』といったことで困っているかたが多いようです。サブスクが解約できないとサービスが継続され不要な出費が発生したり、ネット銀行にアクセスできないと、資産が凍結されたりするケースがあります。
パソコンのパスワードをメモし、家族がわかるところに残しておくだけでも、遺族の負担はかなり軽くなるはずです。
Q. パソコンのパスワードがわからない場合はどうしたらいい?
nullA.専門業者に解除の依頼を
「パソコン本体(ローカルアカウント)のパスワードは、弊社のツールを使えば10~15分程度で解除できますが、マイクロソフトアカウントは、故人のメールアドレスや電話(スマホ)番号などが作業の際に必要となります。パソコンの中身を見られるようにしたいだけなら、パスワードを解除しなくても、アカウントを別に作って中のデータを移すことも可能ですが(暗号化されている場合は対応不可)、いずれにせよ、『何から始めればいいのかわからない』『手間がかかる』『やり方がわからない』という人は、専門業者に相談するのが確実です」
日本PCサービスの場合、パソコンのパスワード解除は専用のパックメニューがあり、2万2,000円(出張費含む)で、その他追加作業ごとに別途費用がかかるそうです(※2025年10月末時点)。
「ただし、私たちができるのはパソコンのパスワードの解除とアドバイスです。各サービスの解約などは、法律的に私たちではできないため、遺族がやるしかありません。故人がどんなサービスに加入していたかは、パソコンのデスクトップにあるショートカットを確認するか、クレジットカードの決済を見て、何と契約していたか調べる必要があります」
Q. 解決しにくいトラブルは?
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A.スマホやタブレットのパスワード問題
パソコンのパスワードは専門業者に依頼すれば解除できますが、スマホやタブレットのパスワードは、専門業者もdocomoのような携帯電話サービスプロバイダー(キャリア)でも基本的に解除は困難だということです。これは、iPhone、Androidに関係なく、すべてのスマホやタブレットに共通するといいます。
「アメリカでiPhoneが犯罪に使われ、FBIがアップル社にスマホのパスワードの解除を依頼したのですが、プライバシー保護の観点から断られたといいます。スマホのパスワードは、必ず家族と共有しておいた方がいいでしょう。
スマホやタブレットのパスワードがわからず、開けないときは、中身のデータをあきらめて破棄するか初期化するかしかありません。あるいは、アカウント情報があれば、別のパソコンからクラウドサービス(データをネット上に保存しておくサービス)にアクセスし、データを取り出すこともできます。しかしこの場合、アカウント情報とIDを残しておく必要があります」
スマホやタブレットの通信契約自体は各キャリア(docomoなど)で手続きすれば解約できます。ただし、中のデータを確認するとなると、絶対にパスワードが必要です。
それと注意すべきことがもうひとつあります。故人がサブスクに加入していた場合、解約するのにスマホの電話番号とメールアドレスが必要な場合があります。先にスマホやタブレットの通信契約を停止すると、サブスクが解約できなくなり、お金を支払い続けることになります。ですから、スマホの中身をしっかり確認し、解約すべきものをすべて解約してから、通信契約を停止するのがおすすめです。
Q. とりあえず最初にひとつだけやるとしたら?
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A.スマホやタブレット、パソコンのパスワードを残す
デジタル遺品を放置すると、遺族に大変な手間がかかることはわかりましたが、実際何から始めればいいのでしょうか。
「最重要なのは、スマホやタブレットのパスワードを残すことです。次に、パソコンのパスワードも残した方がいいでしょう」
パソコンのパスワードは専門業者が解除できるとはいえ、遺族が知っていれば手間と費用がかかりません。
さらにもう少ししっかり生前整理したい人は、まず、自分のデジタル環境を以下のリストを使って可視化し、何をすべきか把握しましょう。
デジタル整理は自分の「デジタル環境」をしることから!
【セルフチェックシート】
※いくつ当てはまるか数えて覚えておきましょう
利用中のサービスの把握・共有
✔️ 使っているオンラインサービスをすべて把握している
✔️ サブスクなどを家族と共有している
✔️ SNSやアプリのアカウントを整理している
✔️ ネット銀行や証券などの資産情報を家族と共有している
写真・データの整理
✔️ 不要な写真やデータはこまめに整理している
✔️ 大事な写真・書類は、すぐわかるようにしている
契約・パスワード・ログイン情報の管理
✔️ スマホやネット回線の契約書類を保管している
✔️ アカウントIDやパスワードはアプリやメモで管理している
✔️ パスワードはときどき変えて、アプリやメモを更新している
デジタルデータに関する意思表示
✔️ SNS・ブログなどのデジタルデータをどうしたかわかるようにしている
Q. デジタル終活の進め方とは?
nullA.日頃から整理していない人は基礎編から
さて、いよいよ具体的なデジタル終活の進め方ですが、前述の「セルフチェックシート」でのチェック数の数によって、やることは違うと、田村さんは言います。
「チェックの数が0~3個の人は以下の『準備編』を、4~6個の人は『基礎編』を、7~10個の人は『応用編』を参考にして整理をするとわかりやすいと思います」
準備編(チェック数0~3個)
- サービス(サブスク)や契約状況をまとめる
- アカウントIDやパスワードリストの作成・更新
- 不要な写真やデータを捨て、大事なデータはわかりやすく整理
- 所有(使用)端末がどこにあるかわかるよう、まとめておいておく
基礎編(チェック数4~6個)
- 年に1回、メモやアプリの内容を見直し更新
- SNSやブログの情報を整理し、アカウントをどうするか伝えておく
- フォルダを整理する。特にお金のことはわかりやすくしておく
- クラウドストレージを引き継ぐ
応用編(チェック数7~10個)
- アカウントIDやパスワードをメモやアプリにまとめているなら、それをリスト化し、どこにあるか伝えておく
- 定期的にデータを見直し、更新する
◆デジタル資産をリスト化するのにおすすめ! 「デジタル整理ガイド2025」はこちら
https://www.4900.co.jp/service/memento.php
デジタル機器は全年代が活用しています。高齢者だけでなく、どの世代も“もしも”に備え、日頃からデータを整理し、家族と共有しておくことが大切です。まとめてやると大変そうなので、気づいたときにコツコツすすめておくといいかもしれませんね。
年末年始などで家族が集まる機会があるときは、ぜひ話し合い、共有してください。
【取材協力】
エディター/ライター。大学卒業後、出版社に勤務し、その後、フリーの記者として主に週刊誌の編集・執筆に携わる。歴史や美術をはじめ、マネー・車・健康・ペット・スピリチュアル・夫婦関係・シニアライフスタイルといった多岐にわたる女性向け実用情報を手掛ける。1児を持つシングルマザーで、趣味は漫画・アニメ鑑賞、神社巡り。













