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帰省時に両親と話したい「実家じまい」のこと。実家を「空き家」にしないために、今からできる3つの準備

深刻な「空き家問題」。空き家アドバイザーの和田貴充さんによると、将来実家が空き家になる可能性がある人は、親が元気なうちに、いずれ来る日に備えた準備を始めておくのが良いとのこと。特に長期休みなどで実家に帰省するタイミングは、実家について親と会話するチャンスです。では一体どんな準備をしておけば良いのか、また、空き家をめぐる大きな“可能性”について、前編に引き続き和田さんにお話を聞きました。

親の意向を聞き出すにも「コツ」がある

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「遺言書を書いて」「家どうするか決めて」など、直球のお願いをすることで両親が頑なになってしまうことも。

実家を空き家にしないために、まずしておきたいのが家族で話し合い、親の意向を聞くことです。しかし、これが意外と難しいのだと和田さん。

「空き家は放置すればするほど、かかる費用が増え、のちに売るときに得られる収益が減っていきます。誰の目から見ても『早いうちに、どのように対処するか決めておくほうが得』なのに、なかなかそれができないのは“親が生きているうちから、亡くなった後のことを話しづらい”などの心の問題があるから」(以下「」内、和田さん)

たしかに、まだ元気な親に向かって「遺言書を書いてほしい」など直球のお願いをしては、“縁起が悪い”と親の機嫌を損ねてしまう可能性があります。こうしたナイーブな会話は「できるだけ楽しくするのがコツ。“実家を将来どうするつもり?”と親に迫っては、話は一向に進まない」と語る和田さん。

「たとえば実家に自分の部屋がまだある人は、帰省のついでに、昔使っていたものや思い出の品を整理してみるといいです。まずは自分のものを片づけ始めること。思い出の品を囲みながら、その延長線上で“そういえば、この家について何か考えていることはあるの?”と親の意向を聞いてみてはどうでしょう。

また、家の処分について話をするのは、できるだけ兄弟も含めて家族みんなが揃っているときにしましょう。親の意向を聞いたみんなが“あのときお父さんが、売っていいと言っていたよね”とゴールを共有できる状態にしておくのです。売るのか、貸すのか、誰かが受け継ぐのかと具体的な話が聞ければベストですが、『子どもたちの好きにしていい』という一言を聞き出しておくだけでも大きな意味があります」

さらに生前のうちに親の意向を聞いておくのは、親の人生を豊かにすることにもつながると和田さん。

「最近は年を重ねても元気な人が多いです。旅行や習い事など、親には思い切り老後を楽しんでほしい。そう考えたら、生きている間に実家を売ってお金をつくる、という選択肢も考えられます。“お父さん・お母さんはこの先、どこでどう暮らしたい?”と改めて聞いてみたり、実際には手放さないとしても今売ったらいくらになるのかと調べてみたりすると、親にとっても未来の可能性がポジティブに広がる機会になるはずです」

アルバムに遺品…。「実家の片づけ」は何より難しい

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帰省のタイミングが実家の片づけに着手するチャンス!

次に進めておきたいのが「今のうちからできる限り、ものを減らしておくこと」と和田さん。

「特に、今住んでいる自分の家ですら、ものが溢れかえっている、片づけがなかなか進まないという人は要注意です。というのも、実家の片付けは、自分の家を片付けるよりもずっと難易度が高いからです。

アルバムや親が着ていた着物、価値がありそうなものや代々受け継がれてきたものなど、実家にあるもの一つひとつ手にとって見ていたら、日が暮れてしまいます。また遺品や思い出の品は、手放すにしても心の整理がなかなかつかないもの」

帰省のタイミングを狙って片づけを進め、長く使っていないものは思い切って処分してしまうのが良さそうです。しかし「こんなもの、取っておいても使わないでしょ!」などとネガティブな言い方をすると親とけんかになりそう……。

そこで片づけも「ポジティブに進めていく」のが大事だと言います。

「ただ捨てるだけではなく、売れそうなものがあればフリマアプリなどで売ってみるのも良い方法です。少額でもお金になったら嬉しいし、親には“売れたら、そのお金で一緒にランチに行こう”などと誘ってみると、片づけが楽しくなってきます」

ナイーブな問題だからこそ、実家じまいについての会話や片づけは、できるだけ楽しく、ポジティブに始めるのがポイントのようです。

売る以外の選択肢も。空き家は今、可能性に満ちている!

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空き家の活用法は、いまや多彩! 様々な選択肢があることを知っておくだけでも、いざというときに役立ちそう。

地方に実家がある場合や、築古の物件などで「どうせ売れない」と決めつけている人も多いかもしれません。しかし、実は今、空き家には大きな可能性があるそうです。「空き家を取り巻く状況や、売る以外の活用方法をあらかじめ知っておくと、いざという時にもっとも良い方法を選択できる」と和田さん。

特に今、追い風になっているのがコロナ禍を経た働き方・暮らし方の変化と、円安による海外旅行客の増加だそう。

「『都市部に住んで働く』以外の選択肢が広がり、地方に移住したり多拠点生活を送ったりしている人が増えています。地方に移り住む人が増えているので、どうせ売れないと諦める前に市場に出してみると、意外な金額になることもあります。

売る一択だけでなく、誰かに貸す、自分たちが別荘のようなセカンドハウスとして使用するなど、さまざまな活用方法が考えられます。移住促進をしている自治体など、行政が率先して空き家を有効活用するための取り組みを行っている場合も。

またアフターコロナと円安で海外からの旅行客が増え、日本は今、全国で宿泊施設不足です。特に民泊として空き家を活用することには、大きな需要があります。また実家丸ごと貸すのではなく一部だけ貸す、宿泊用ではなくレンタルスペースとして貸すなどの選択肢もあります」

今すぐどうするかを決めなくても、このような選択肢があると頭に入れておくだけで、いざという時に調べたり行動したりしやすくなりそうです。早めに行動することで、良い条件で売ったり貸したりできる可能性を高めます。まずは帰省のついでに話をすることから始めてみましょう。

【まとめ 実家を空き家にしないために、今から準備しておく3つのこと】

1:家族で会話し、親の意向を聞いておくこと

2:できる限りの片づけをしておくこと

3:空き家の可能性や、売る以外の活用方法も知っておくこと

 

取材・文/塚田智恵美


 

【取材協力】

和田貴充

空き家活用株式会社 代表取締役CEO。

1976年生まれ。24歳で不動産業界へ飛び込み、2015年には空き家活用株式会社を設立。自社で空き家調査を行い16万件のデータを収集。そのノウハウを活かし、自治体サポートサービスを開始。自治体が自ら空き家を調査し閲覧・管理ができるアプリケーション「アキカツ調査クラウド」を提供。YouTube「ええやん!空き家やんちゃんねる」では空き家情報を発信し利活用希望者とマッチングを実現している。空き家の相談専門カウンター「アキカツカウンター」も運営。

【参考】

『今すぐ、実家を売りなさいー空き家2000万問題の衝撃』

著/和田貴充

(光文社)

塚田 智恵美
塚田 智恵美

ライター/編集者。ベネッセコーポレーション『進研ゼミ』の編集を経て独立。学習雑誌、児童書、教育コンテンツ、保護者向け記事などを中心に、取材・執筆・編集を行う。料理とお酒が好き。

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