どんな人もごみ屋敷化する可能性がある
null家の中にごみがあふれたまま生活するなんてあり得ない!と思ってしまいますが、ごみ屋敷化してしまう人はどんな傾向があるのでしょうか。
「ごみ屋敷にもいろいろなパターンがあり事情は千差万別ですが、『生ごみ屋敷』の場合は高齢者で認知症のケースが多く、自炊せずに弁当やデリバリーで食事を済ませたごみが溜まる『弁当がら屋敷』の場合は一人暮らしの男性が多いですね。
弁当がら屋敷の場合、離婚で独り身になり自炊する気力がない、夜勤の仕事でごみ収集の時間に出せない、仕事で疲弊していてごみを出す気力がないなど、さまざまな理由があります。
僕自身、深夜のコンビニバイトをしていた時、ごみの収集時間が合わずごみ屋敷になりかけた経験があります。片づけなくなるとごみはごみを呼び、気づいたときにはごみ屋敷になっているんです。
自分の経験からも、ごみ屋敷はその人の心が実体化した“今の自分”であると思います。どんな人でもごみ屋敷になる可能性があるんです」(以下「」内、柴田さん)
独身、高齢者の一人暮らしの家がごみ屋敷化する傾向があるようですが、逆に子育て世代のファミリー層はごみ屋敷化することはないのでしょうか。
「母親と娘、娘の子どもの3人家族で、娘親子が家を出ることになり、片づけを依頼されたことがありました。
娘と子どもが同じ部屋で生活していたそうですが、そこは完全に『物屋敷』化していました。物屋敷とは、とにかく多くの物であふれている状態のことです。
ベビーバウンサー、哺乳瓶など子どもの物が何個も落ちている中で、母である娘も若かったからでしょうか、化粧品やカラコンの空箱、アイプチのシールといった美容関連の物、推し活グッズ、洋服などがバーッと部屋の中に盛り上がっている状態でした。
その部屋でずっと子どもと一緒に過ごしていたようで、おそらくひとりで小さな子どもを育てていたんでしょう。女性としての部分と子育てしなくてはいけないという母親の部分が半々ぐらいでせめぎ合っているような状態でしたね」
また、柴田さんのバイト先の社員が体験したのが、ごみ屋敷の中で暮らす親子でした。
「そこは腰高ぐらいまでの完全なごみ屋敷で、ごみの上を子どもたちが歩き回っていたそうです。シングルマザーだったようですが、子どもたちにとってごみ屋敷が日常で、この暮らしが“普通”なんですね。僕は社員から話を聞いて、この子たちがどうやって育っていくのかすごく気になって仕方がありませんでした。
きれいに掃除、整頓されている家庭で育つ子どもたちでも反動で汚してしまうこともあるようですが、ごみ屋敷で育つとそれが普通だという感覚になってしまわないか心配です。
うちの嫁の実家もとても物が多い家で、物が増えると捨てるのではなく収納を増やすんです。嫁は実家に帰ると『そんなに大きな食器棚はいらないから捨てたら?』って言っていましたが、気づいたら嫁も同じことをやっていたんですよ。
服が増えて困っているという嫁に『処分しようか』と僕が言っても、『まだ使うかもしれない』と、捨てずに収納を増やすんです。自分が暮らしてきた実家の感覚が嫁にとって普通になっていて、無意識の中にこれが心地いいと感じるのかもしれません。
自分の家で物が増えるたびに嫁の実家みたいになっていると感じています。育つ環境が、子どもにも大きな影響を与えるのかもしれないですね」
今までの経験の中で一番きついと感じたごみ屋敷は?
null『ごみ屋敷ワンダーランド』では壮絶なごみ屋敷との闘いが描かれています。強烈な臭い、這いまわるゴキブリ、尿をペットボトルに入れて保管している「尿ぺ」屋敷など、想像するだけでゾッとするようなごみ屋敷も。柴田さんにとって今まできつかったごみ屋敷はなにかを聞きました。
「一番きついのは、『生ごみ屋敷』に多いゴキブリ。本にも書きましたが、ゴキブリだけはどうしても克服できないので、ゴキブリが出ると10分で梱包できるところが、50分かかってしまうなど、作業時間にも影響が出ちゃうんです。
ギャーッと驚くたびに毎回腹筋や腰も痛めそうになるし(笑)、負担が一番大きいのはゴキブリだなって気づきました。
ゴキブリが出てきた時の対応はケースバイケース。一軒家で周りに何もない、すでに人が住んでいない戸建住宅だったら殺虫剤を使いますが、集合住宅だと逃げ出してしまうので、殺虫はせずに、ゴキブリが這いまわる中で片づけをしています」
「怒りで許せないと思ったのは『猫屋敷』です。僕自身が猫を飼っていることもありますが、飼育放棄でごみ屋敷化した猫屋敷の現場は、本当にいろいろなことを考えさせられました。
臭いがきついのは『生ごみ屋敷』。最近勉強しているのですが、認知症の方の中には嗅覚と認知の接続が難しくなる場合もあるらしく、すごく臭くても、何の臭いだろう?とか、生ごみが腐っていることに直結しないようなんですね。
認知症の方のごみ屋敷では使用済みのおむつも出てきますが、おむつの臭いが排泄物だと思わない、臭いが発生していても気づかない状態になってしまっているらしいんですよ。
『弁当がら屋敷』は、中身は食べているし、汁まできちんと飲み干している人もいたので、そこまで強烈な臭いがなく、僕らにとっては比較的楽ですね。
中には、ペットボトル、弁当がらときちんと分別して、めちゃめちゃ整頓されているキレイなごみ屋敷もありました。ランクづけすると完全にS級ごみ屋敷でほめたいくらい! 僕の感覚が麻痺しているというか、単純にごみ屋敷愛好家みたいになっちゃっているからかもしれませんが(笑)」
一番やっかいな「捨てないごみ屋敷」
null柴田さんが「一番やっかいなケース」として挙げたのが、ごみを「ごみじゃない」と言い張るごみ屋敷。敷地内にごみを山積みし、近隣住民が迷惑をしているという様子はメディアでも度々取り上げられています。
国も問題視していることから、「ごみ屋敷条例」を制定し、行政代執行で自治体が強制的に片づけできる仕組みづくりがされるようになりました。
「行政が一番苦労しているのはごみをごみだと認識しない、ごみは1個もないと主張するタイプですね。そういう人を説得するのはかなり時間がかかります。
このタイプの人はどうやっても捨てないですね。僕が担当したのはごみごと引っ越すというケースでした。『ごみではない』の一点張りで、キャップ1個さえ持っていく感じの人だったので、とりあえず全部持っていきましょうとなりました。
移転先にゴキブリが入ったごみの山を搬入しているうちに、ごみ屋敷の片づけをしているのに別の場所にごみ屋敷を生み出してしまっていると罪悪感を覚えました。ごみ屋敷の問題は闇が深いと感じましたね」
思い出がつまった「物屋敷」は時間がかかる
nullごみの撤去を目的としたごみ屋敷の片づけと異なり、時間がかかるのが「物屋敷」の仕分け。
ごみではない物も多いため、依頼者によっては「要る」「要らない」をひとつずつ確認していくのだそう。
「取れたガンプラの腕もきちんと確認しますよ。こっちが要らないものだと思っても、依頼者にとっては探していた物ということもあります。
高齢の方はやはり時間がかかります。思い出をひとつひとつ振り返りながら、物やアルバムを確認していくのですが、写真は特に時間がかかるので、後で全部見ましょうと先に作業を進めることもあります。
旅行好きな人はお土産で旅を思い出すんですよね。左にしか首が行かなくなった赤べこを手にして、捨てるかどうか悩む人もいました。リユースを勧める場合もありますが、そのときは『これ持ってきましょう』って声を掛けました。
僕の悪い癖なんですけど、一言、何か面白いことを言いたくなるんですよ。その時も『その赤べこ、(ビート)たけしさんみたいになっていますね~!』と言いましたが、完全に無視されました(笑)」
ごみ屋敷清掃の経験を笑い話にして話す柴田さんですが、かなり体力、気力が削られるきつい現場が多いようです。次回は、ごみ屋敷を抜け出すきっかけや、ごみ屋敷にしないためにはどうしたらいいのかをお聞きします。
取材・文/阿部純子
撮影/横田紋子(小学館)
【取材協力】
柴田賢佑(しばた・けんすけ)
1985年北海道生まれ。7歳からアイスホッケーを始め大学時代まで選手として活躍。20歳で芸人を目指し上京し、2007年に柳沢太郎とお笑いコンビ「六六三六(ろくろくさんじゅうろく)」を結成。2016年より、芸人活動のかたわら、生前整理、遺品整理、ごみ屋敷の片づけなどを行う会社に勤務。2024年に新会社「お片付けブラザーズ」https://okatazukebros.wixsite.com/my-site を設立し、関東を中心に、片づけの手伝いやリユースサポート、発信などを行っている。
『ごみ屋敷ワンダーランド ~清掃員が出会ったワケあり住人たち~』(柴田賢佑・著/白夜書房刊/1,540円・税込)
ごみ屋敷清掃員としても働くお笑い芸人柴田賢佑が語る、ごみ屋敷の内部とは……? 生ごみがもはや土に還るキッチン、おしっこが入れられたペットボトル、猫への飼育放棄で崩壊した糞まみれの部屋など、あり得ない光景の数々に清掃員が格闘します。また、それぞれに事情を抱えて暮らす住人たちとの交流も。ごみ屋敷のリアルをお伝えします。
\ごみ屋敷芸人3人が語る本当にあった〇〇な話/
8月30日(金)18時30分から芳林堂書店 高田馬場店
『ごみ屋敷ワンダーランド』発売記念トーク&サイン本お渡し会
登壇者/柴田賢佑さん、ぐりんぴーす落合さん、手塚ジャスティスさん、
★スペシャルゲスト★ 赤プルさん、薄幸(納言)さん
お申込みはこちらから! https://www.horindo.co.jp/t20240815/