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もしもの時、通帳なしで預貯金は引き出せる?「被災直後のお金」にまつわるQ&A

地震、水害、火災……日常を奪う“もしも”は突然やってきます。そんな時、なによりも大切なのは命!ですが、暮らしを取り戻していくのに必要となるのが「お金」です。もしもに備え、どのような準備ができるのでしょうか?

そこで、『どんな災害でもお金とくらしを守る』(著/清水香・小学館クリエイティブ)から、2回にわたって“お金の防災知識”をお届けします。今回は、「被災直後」のシーンに注目。心落ち着かない非常時だからこそ、知っておくと役立つQ&Aを見ていきましょう。

※書籍は2019年時点の情報のため、法改正の有無を確認した上で本記事をお届けしています。

Q お金が燃えたり破れたらどうする?

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A 一定の面積が残っていれば大丈夫!

家の中に保管していたお金が、災害で燃えたり、水害で破れたりしても、紙幣については一定の面積が残っていれば換金できます。燃えて灰になってしまった場合でも、インクや紙からお札であることが確認できれば残っている面積に含めることができます。硬貨が溶けるなどして損害を受けた場合も、本物であることが確認できれば換金ができます。損害を受けたお金の引き換えは市中の銀行でできますが、判断の難しいものは日本銀行の本店または支店で行います。事前に連絡をして、お金を持ち込み換金します。郵送ではできません。

株券などの有価証券が損害を受けた場合は、発行会社に「株券喪失登録」を申請、一定の手続きを経て、 年後に株券再発行の請求をすることになります。

Q 通帳もカードもなくなってしまった

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A 本人確認ができれば引き出しは可能

災害で預貯金通帳や印鑑、キャッシュカードを焼失、流失してしまっても心配いりません。一定書類で本人であることが確認できれば、預貯金の払い戻しが受けられます。

災害救助法が適用された被災地の金融機関には、財務局や日本銀行からさまざまな「金融上の措置」をとるよう、要請がなされます。たとえば、キャッシュカード等を失っても、本人確認ができれば預貯金の引き出しに応じること、印鑑をなくした場合でも、拇印で応じること、当面は住宅ローン返済を猶予することなど、被災者の状況に応じ、きめ細かく弾力的・迅速な対応に努めるよう求められます。

本人を確認するための書類は、運転免許証や健康保険証、パスポートなどです。引き出せる金額は、ゆうちょ銀行は20万円が限度額。そのほかの金融機関では、東日本大震災では10万円程度としていたところが多かったようです。

災害で失った預貯金通帳は再発行ができます。銀行等の店舗に赴き、災害で失ったことを届け出て、手続きをしましょう。

Q 避難所にお金を持っていったほうがいい?

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A 必要な分だけ持っていく

避難したときに、住宅に残してきた現金や通帳、キャッシュカードやクレジットカード。盗まれてしまったら、火災が起きて燃えてしまったら……と思うと心配でしょう。

被災後の非常事態では、留守宅でこうしたトラブルも起き得ます。ただ残念ながら、これには打つ手がありません。被災後の留守宅で起きた盗難や火災によるお金の被害は、火災保険などではカバーができないのです。では避難所に持っていけばいいかといえば、プライバシーのない環境で、大金や貴重品を常に持ち歩くのは安全面から避けたほうがいいでしょう。本人確認ができれば銀行でお金は引き出せるので、持ち歩くお金は当面の必要額にしておくのが現実的です。紛失したり、自宅に残してきたりした通帳やキャッシュカードは、取引先の銀行や郵便局に申し出て、支払いをストップしてもらうことができます。クレジットカードも同様、紛失・盗難デスクに連絡すれば、利用をストップできます。

ひところから増えたといわれる「タンス預金」には、災害や盗難で損害を受けるリスクがあるのです。こうした影響をふまえ、平時から置いておく金額を決めましょう。

Q さまざまな支援を受けるために必要なものは?

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A 「り災証明書」が欠かせない

自然災害は住宅や家財をはじめ、いろいろなものを私たちから奪い去ってしまいます。そのあとに、私たちがひとりで生活を立て直すのは難しく、さまざまな支えが必要です。そこで被災後は、災害救助法による救助のほか、義援金や被災者生活再建支援金などの現金給付、融資や税の減免といった、いろいろな被災者支援を受けられます。こうした支援を受けるときに欠かせないのが「り災証明書」です。これは、住まいが災害でどの程度被害を受けたのか、市町村長が証明する書類で、支援を受けるための手続きの〝最初の一歩〟となるものです。被災者から市町村へ交付を申請する必要があるので、まずは手続きをしましょう。

被災者から申請を受けると、市町村は住まいの被害を調査します。定められた基準に基づいて、屋根や壁などの被害、住宅の傾斜状況などによる経済的被害が全体のどの程度を占めているかが認定されます。被害程度は深刻な順に「全壊」「大規模半壊」「中規模半壊」「半壊」「準半壊」「半壊に至らない(一部損壊)」に認定され、「り災証明書」にこれが記載されます。被害程度により、どのような被災者支援を受けられるかは変わってきます。

調査によって「全壊」の定義は異なる!

「り災証明書」の調査のほかに、建物の崩壊による二次被害を防ぐ「応急危険度判定」や各保険会社による調査などがあり、それぞれで認定基準が設けられています。

Q 各種支払いや手続きはどうする?

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A 生活が落ち着いてから連絡でOK

被災して仕事を失い、収入が途絶えると、日常のお金が回らなくなるかもしれません。こうしたときは、住宅ローン等の返済猶予や、生命保険・損害保険の支払い猶予を受けられますので、り災証明書を提示して契約先の金融機関に申し出ましょう。ほかにも地方税や国税、社会保険料や窓口負担の減免、公共料金やNHK受信料の免除を受けられることがあります。生活が落ち着いたら各窓口へ問い合わせましょう。

勤め先が被災し職を失ったら、失業手当の受給を。ハローワークで相談しましょう。仕事中や通勤時に被災してけがをした場合、労災が認められることもあるので、所轄の労働基準監督署へ足を運んでみてください。

家や仕事を失い、資産もなく生活困窮に陥っているなら生活保護の申請をしましょう。世帯構成と住所地で扶助額が決まります。窓口は住所地の市町村ですが、東日本大震災では、遠方に身一つで避難している人にも、当面、被災者の事情に合わせて生活保護が受給できるよう特別措置が設けられました。

 

イラスト:いぢちひろゆき


もし被災して通帳やキャッシュカードをなくしてしまったら、お金が引き出せない……と途方に暮れてしまいそうですが、本人確認ができれば一定額のお金は引き出せるんですね。運転免許証などを、つねに携帯しておくと安心かもしれません。

『どんな災害でもお金とくらしを守る』では、損害を証明するためにやっておくといいこと、住宅の一部をとりあえず修理したい場合に受けられる支援などもまとめられています。被災直後は動揺している上、身ひとつかもしれません。ですが、今回ご紹介したようなことを知っているのと知らないのとでは大違い。ぜひ本書で予習してみてはいかがでしょうか?

次回は、「ふだんから知っておきたいお金の備え」についてお届けしていきます。


『どんな災害でもお金とくらしを守る』
(著/清水香 税込み・1,430円・小学館クリエイティブ)

被災者が日々のくらしを取り戻すのに「お金」は必要不可欠。

「被災直後」「生活再建時」「平時にできること」の3段階に分け、それぞれで役立つ“お金の防災知識”がまとられた1冊です。

実際の被災者、トラブルに対応した弁護士、住宅の損害調査にあたった損害保険会社の調査員など、専門家たちのリアルな体験談も収録。

いざというときの支援・相談窓口の連絡先などもまとめられ、防災バッグに入れておきたい必携本です。

清水 香(しみず かおり)

FP&社会福祉士事務所 OfficeShimizu 代表、 (株)生活設計塾クルー取締役。

1968年東京生まれ。中央大学在学中よりファイナンシャルプランニング業務を開始、2001年、独立系ファイナンシャルプランナーとしてフリ ーランスに転身。家計の危機管理の観点から、社会保障や福祉、民間資源を踏まえた生活設計アドバイスに取り組む。生活者向け相談業務のほか、執筆、講演など幅広く展開、TV 出演も多数。財務省の地震保険制度関連の政府委員を歴任、自由が丘産能短期大学講師、日本災害復興学会 会員。著書に『地震保険はこうして決めなさい』(ダイヤモンド社)、『あなたにとって「本当に 必要な保険」』(講談社)など。

OfficeShimizu
https://kaorishimizu.themedia.jp/
(株)生活設計塾クルー
http://www.fp-clue.com/

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