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「河合優実さんは、私が書かなかったことまでわかってる」ドラマ原作・岸田奈美さんが祈りを込めて書き続ける理由

車いすユーザーの母、ダウン症で知的障害のある弟、認知症の祖母、急逝した父……。これまで自身の家族について綴ってきた、作家・岸田奈美さん。

そのエッセイを原作にしたドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』が、NHK総合ドラマ10で7月9日火曜からスタート(NHK+にて見逃し配信あり)。ドラマ化の心境や、ドラマを通じて考えた家族のこと、そしてご自身が書き続けることへの思いを伺いました。

ドラマを通じて知る、あったかもしれない“もうひとつの人生”

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昨年BSで放送され大反響を呼び、地上波での放送が決定。主人公・岸本七実を演じたのは、本作が連続ドラマ初主演となる河合優実さん。母役に坂井真紀さん、父役に錦戸亮さん、祖母役に美保純さんと豪華なキャスティングも話題を集めています。

岸田奈美さん(以下、岸田)「想像もしていなかったので、映像化のお話にはびっくりしました。しかも、おとんが錦戸亮さんだと。私にとっては小学生のときから見てきたスターですし『嘘やろ。おとんにしては若っ』と思わず言ってしまったんですけれど」

「でも、よく考えたら私の父は39歳で亡くなっているんですね。当時は子どもだったから、父も母も、ものすごく“大人”に見えていたけれど、そうか、二人も若いながらに『親』をやっていたんだなと。弟や私がどう育つのかと不安だったり、悩んだり、自信を失ったりした瞬間もきっとあったのだろうと、ドラマ化を通じて気づきました」

ドラマでは、ダウン症の弟・草太(吉田葵さん)にだけ、亡くなった父・耕助の姿が見えているような描写があります。

岸田「あの表現には驚きました。実際にうちの弟は、ときどき何もない空間に向かって話しかけていることがあるんです。『誰と喋ってんの?』と聞くと『パパ。今からアメリカ、仕事やって』なんて答えたりすることも。虚言でみんなを驚かせてやろうというような雰囲気ではないんです。なぜかはいまだにわからないし、そのことについては、あまり考えないようにしていました。

でもドラマを見ていて、もしかしたら弟は時間軸の捉え方が人と違っているのかもしれないと、ふと思ったんです。過去、現在、未来といった感覚がなく、十数年前と今日を大きく区別していないから、父がいたあの頃も『今』として生きているのかなと。

本当はどうかわからないですけどね。この話は、ドラマ化以前にどこかに書いた記憶もないので、たぶんドラマの表現は制作スタッフのみなさんのアイディア。すごいですよね」

ドラマの中の七実は、岸田さんが歩んでみたかった“もうひとつの人生”を体現しているとも語ります。

岸田「七実には大切な友人(福地桃子さん演じる、天ヶ瀬環)がいます。でも、あの子は、私の人生にはいませんでした。中学生のときに父を亡くし、周りの友だちの優しさを受け取れなくなり、私の方から離れてしまったからです。

ドラマを見ていると『ああ、本当はこんな友だちが欲しかった』という自分の気持ちに気づくと同時に、今の私ではなく、当時の私が救われたような感覚があるんです。もう取り戻せないけれど、私にも、ああいう友人がいた“もうひとつの人生”があったんだなと」

「どうにかなれ、世界」。祈りを込めて書き続ける

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“もうひとつの人生”を七実として演じた河合優実さんは、5月末に発売した岸田さんの新刊『国道沿いで、だいじょうぶ100回』の帯に、こんなコメントを寄せています。

近くにいる人を見つめて抱きしめる日々こそが、
世界を慈しむことだって確信した。
奈美さんはそういうための力を持ちすぎている。
―河合優実さん

岸田「今の岸田奈美評としてこれほどのものはあろうか、という言葉を受け取りました。河合さんの真意はわからないのですが、私はこれを読んだとき、自分の葛藤を言い当てられたような気持ちになったんです。

たとえば世の中には、街の段差をなくして車椅子が通れるようにしたり、ヘルパーとして支援が必要な方の生活を支えたりと、困っている人たちを直接手助けできる立場の方たちがいます。一方、私にできるのは、書くことだけ。それしかできない。書いたとして現実が何か劇的に変わるわけでもない。それでも書く意味があるのか? ……そういう自己批判が、私には常にあるんです。

それでも『どうにかなれ、世界』という祈りを込めて、書き続けている。それが私のエゴだとしても、近くにいる人を見つめて、書くということがやめられない。 ――ということはどこにも書いていないのだけど、ひょっとしたら七実を演じることを通じて、そんな私の気持ちも理解してくださったからこそ、このコメントを寄せてくれたのではないかと。

……なんて、私の都合の良いように解釈しすぎているかな(笑)。それでもこの言葉は、私の宝物です」

 

撮影/五十嵐美弥(小学館)
ドラマ画像提供/NHK


岸田奈美(きしだ なみ)

1991年生まれ、兵庫県神戸市出身。大学在学中に株式会社ミライロの創業メンバーとして加入、10年にわたり広報部長を務めたのち、作家として独立。Forbes「30 UNDER 30 Asia 2021」選出やテレビ出演など活躍の場を広げている。

ドラマ10「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」(7月9日スタート/NHK総合にて、毎週火曜午後10時から)

2023年にBSプレミアムで放送され話題となったドラマが、地上派にて再放送! 岸田さんが紡いだエッセイに、ご家族や関係者への取材によるエピソードや、独自の視点での脚色を加えた全10話の物語です。

※「NHK+」にて見逃し配信あり

【原作】 岸田奈美
【脚本・演出】 大九明子
【脚本】 市之瀬浩子、鈴木史子
【出演】 河合優実、坂井真紀、吉田葵、錦戸亮、美保純ほか

『国道沿いで、だいじょうぶ100回』(1,540円/著・岸田奈美)

大丈夫な家族と大丈夫じゃない日々を、笑いと涙と他者への想像力とともに軽やかな筆致でつづる自伝エッセイ。令和のホームドラマとして話題の連続ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』の原作者で、気鋭の著者・岸田奈美による人気エッセイシリーズ第3弾。
SNSでも話題になったエッセイ「国道沿いで、だいじょうぶ100回」、「魂をこめた料理と、命をけずる料理はちがう」など厳選エッセイ18本を再録。

第1弾『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』(1,430円)
/文庫版『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった +かきたし』(693円)

第2弾『傘のさし方がわからない』(1,430円)

※金額はすべて税込、小学館より発売中

塚田 智恵美
塚田 智恵美

ライター/編集者。ベネッセコーポレーション『進研ゼミ』の編集を経て独立。学習雑誌、児童書、教育コンテンツ、保護者向け記事などを中心に、取材・執筆・編集を行う。料理とお酒が好き。

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