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一生役立つ「靴の知識」!学校で、家で、見直していきたい“当たり前”って?【靴のマイスターに聞く!#5】

毎日、私たちの体を支えてくれる足。一度不調が出ると、長期間付き合っていかないといけない場合も多く、靴の履き方は一生の健康にも影響する大事な知識です。ですが、誤った認識もまだまだ多いのが現状で……。

医療靴の本場・ドイツで「整形外科靴マイスター」の資格を取得し、義肢装具士・靴職人として活躍する「マイスター靴工房 KAJIYA」の中井要介さんに、靴の履き方・選び方を教わる全5回のシリーズ【靴のマイスターに聞く!】も、今回で最終回。

中井さんが留学を通して感じた日本とドイツの「靴の教育」の違いや、知っておきたい「靴の当たり前」についてうかがいました。

日本と海外で、靴についての考え方は大きく違う

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中井さんと、中井さんの工房「マイスター靴工房 KAJIYA」

「私たち『マイスター靴工房 KAJIYA』では、足にかかわる悩みや問題を解消するための靴やインソール・靴型装具などをオーダーメイドで製作しています。

外反母趾やタコ・ウオノメから、脳性まひや糖尿病などで歩き方に困難をかかえた方まで、症状は人によってさまざま。

私が修行したドイツでは、こうしたオーダーメイド靴やオーダーメイドインソールが広く普及していて、日本で言う薬局のように、町のあちこちに工房があります。ですが、日本では工房の数が少ないうえ、保険の適用や金額面でのハードルも高いため、手にできる人が限られていて、まだまだ認知度も低いという現状があります」

木で作った型に合わせて、革を縫って靴の形にしていきます。
『KAJIYA』では整形靴だけでなく、足に取り付ける“装具”も作っています。

「靴との向き合い方の違いは、普段の生活にも表れていて、ドイツでは“あまり裕福でなくても、靴はしっかりしたものを”という価値観があるため、町を行く人の多くが綺麗にメンテナンスされた靴を履いています。また、未就学~小学校低学年くらいでも、ひも靴を選んで履いている子が多いですね」

実はNG!「つま先トントン」

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連載の第1回で紹介した『kufura』のアンケートでも、20~50代男女の7割以上が“靴や足に関する悩みがある”と回答していましたが、靴に対する正しい知識を身につけることは、生涯健康に過ごすために大きく役立ちます」

つま先を合わせて履くと、足が靴のなかで前後に動いてしまいます。

「アニメや漫画などで、靴を履くときに“つま先をトントンする”ような描写を見たことはありませんか? 有名な作品だと、例えば『千と千尋の神隠し』にも、主人公の千尋が靴を履くときにつま先をトントンとするシーンがありました。

ですがこれは、“正しい靴の履き方”という目線で見ると実はNG。でも、アニメでもよく登場するくらい、定着してしまっている動作なんです。

第2回の記事でも“靴を試し履きするときに、つま先をトントンしてからかかとに指を1本入れるやり方”について触れましたが、靴はつま先でなく“かかとをトントン”するのが基本。

靴にはかかとを囲むように芯材が入っていて、ひもやマジックテープで足をかかとに固定して、足全体を支える仕組みになっています。

腰かけた状態で、“かかとをトントン”としてから靴ひもやマジックテープでしっかり押さえることで、足が靴の中で動いてしまうのを防ぐことができるんです」

学校の「昇降口の構造」にも、気になる点が…

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昇降口って、しっかり腰をおろせるようなスペースはなかなか無いですよね。

「足に関する意識の違いは、例えば学校生活にも表れています。

日本の小学校の場合、昇降口にはすのこのような狭いスペースしかない場合が多く、座らずに靴を履くことが普通ですよね。大勢が素早く靴を脱いだり履いたりするためには、効率的な仕組みなのかもしれませんが、腰を下ろさなければ、“かかとをトントンしてから、ひもやマジックテープでしっかりとめる”という履き方はできません。

上履きも、靴ひもやマジックテープがないものが多く、足をしっかり支えるのには不向きな履きものです。小学生の年齢は、足の骨格がまさに形成されてゆく大事な時期。今の上履きの在り方は、見直されるべきだと感じます」

正しい知識を身につけ、次世代の“当たり前”に

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「靴や足のトラブルは、長年の積み重ねによって発症することが多く、それまではなかなか目に見えません。そのため、今の習慣が将来、どんな影響を生むかまで、なかなか想像が及ばない場合も多いでしょう。

工業的に作られた市販の靴の中には、デザインや金額ばかりを重視して作られたものも含まれていて、“将来の足の健康”に繋がるものとそうでないものが入り交じった状態です。

ですが、今回のシリーズ記事を通して読んで下さった方はきっと、その中から「自分に合う靴」を自分自身で選ぶための考え方が掴めてきたのではないでしょうか。

日本の社会全体が、もっと靴に興味をもって知識を深め、未来の新しい“当たり前”を作っていくことで、足に悩む人はもっともっと減らせるはず。

私はそのために、これからもより良い靴を研究して作り続けていきます。これを読んでいるあなたも、ぜひ、周りの人と靴の話をしてみていただけたら嬉しいです」

 

全5回の連載、いかがだったでしょうか。以下に過去記事の一覧をまとめましたので、まだ読んでない記事がある方はチェックしてみてくださいね。

【靴のマイスターに聞く!シリーズ一覧】

●靴や足に悩みがある方はこちら。病院の選び方も
#1:靴底でわかる足のクセ!それ「外反母趾」のサインかも…5分でプチ診断

●靴を買うときに思い出して!靴の選び方
#2:靴選びで「かかとに指1本」「横幅広めでゆったり」はNG!? 意外な落とし穴5つ

●子ども靴の場合は?大人にも役立つ知識が満載
#3:「くにゃっと曲がる靴」「兄姉のおさがり」は避けたい理由!子ども靴の正しい選び方Q&A

●履き方やメンテナンス、買い替えどきについて
#4:その靴、もう買い替えどきです!靴の寿命と長持ちする「履き方」&「靴ひもの結び方」

●この記事→#5:一生役立つ「靴の知識」!学校で、家で、見直していきたい“当たり前”って?

撮影/五十嵐 美弥(小学館)


【教えてくれた人】

中井要介(なかいようすけ)さん

医療靴先進国であるドイツで9年間修業し、ドイツ国の職人最高職位であるドイツ整形外科靴マイスターを取得。ドイツ整形外科靴マイスターと、日本国内の義肢装具士資格の両方を取得した初の医療技術者であり、2016年からは「マイスター靴工房 KAJIYA」の代表取締役を務める。

現在も、経営と並行して義肢装具士・靴職人としての靴づくりを勢力的におこなっており、「足に問題を抱える方の可能性をひろげるような靴を提供し、一人でも多くの人を笑顔にする」という理念のもと、日々奮闘している。

「マイスター靴工房 KAJIYA」(東京都・東久留米市/兵庫県・神戸市灘区)

1980年に「梶屋製作所」として開業して以来40年以上、「歩く喜びをあなたに」というビジョンのもと、様々な悩みや問題をかかえる人々に向けたフットウェアを研究・製作してきた靴工房。

「機能面での歩きづらさ」「デザイン面での心理的なハードル」を取り除くような下肢装具・医療用靴をオーダーメイドで製作しており、「外反母趾」や「扁平足」、小さなキズが大きな足の問題になりやすい「糖尿病」の患者に向けたインソールなどにも注力している。

※装具やインソールの製作は、内容によって、事前に必要な手続きが異なります。来店の前に、まずはホームページからお問い合わせください。

編集部・関口
編集部・関口

音楽&絵本&甘いものが大好きな、一児の父。文具や猫もとても好き。子育てをするなかで、新しいコトやモノに出会えるのが最近の楽しみ。少女まんがや幼児雑誌の編集を経て、2022年秋から『kufura』に。3歳の息子は、シルバニアファミリーとプラレールを溺愛中。

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