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行く前に読んで!【イルミネーションができるまで】舞台裏を知ると、見るのがもっと楽しくなる

もう今年も残り1カ月と少し。冬の風物詩、イルミネーションの季節がやってきました! でも、イルミネーションって一体誰が、どんな風につくっているのか……あなたは知っていますか?

一年近く前から準備を始めることも多いというイルミネーション。六本木ヒルズで開催中の「Roppongi Hills Christmas 2023」の現場を取材してきました! “制作の舞台裏”や“注目すべきポイント”を知ると、身近なイルミネーションもさらに深く楽しめますよ。

今回お話をうかがったのは、六本木ヒルズ「けやき坂イルミネーション」、同「66プラザイルミネーション」のデザインを務める、内原智史デザイン事務所のチーフデザイナー・柳田まりえさん。

ライティングデザイナーの柳田まりえさん。 ※六本木ヒルズ「66プラザ」にて撮影

「イルミネーションの制作において、私たちのような“ライティングデザイナー”のできる仕事はほんの一部。イベントの主催者さんや、イルミネーションを取りつける職人さん、調光を担当する技術者さん、プロジェクトのマネージャーさん、さらには木を美しい状態に保つ植栽・造園の職人さん……、さまざまな立場の方々に支えられています。

確かな技術を持ったプロフェッショナルたちの知恵や、細部へのこだわりがあって初めて、美しいイルミネーションができあがるんです」(以下「」内、柳田さん)

実例で見る!「イルミネーションができるまで」

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(左)六本木ヒルズ「けやき坂イルミネーション」、(右)六本木ヒルズ「66プラザイルミネーション」

では早速、開催中の「Roppongi Hills Christmas 2023」を例にイルミネーションの制作過程を見ていきましょう。なお、()内に書かれた“期間”はそれぞれ、六本木ヒルズイルミネーションの今年のスケジュールを表しています。

六本木ヒルズのイルミネーションに込められたコンセプトは、こちらの記事でも詳しくご紹介しています。

1:企画・デザイン(1月~4月)

こちらは計画段階の、データ上で作成した完成イメージ。つい実際のイルミネーションの写真と間違えそうなほど、丁寧につくり込まれています。

「イルミネーションというと冬、というイメージがあると思いますが、実際の準備は1年近く前から行います。

まずはどんなイルミネーションにするか、テーマや内容を詰めていくところから。例年お世話になっている、六本木ヒルズを運営する『森ビル』さんのご依頼をもとに、コンセプトを練っていきます。

実際に今年『66プラザ』で見られる新作のイルミネーション“LUMINOUS BOUQUET(ルミナスブーケ)”は、“六本木ヒルズの玄関口である66プラザに合った、新しいイルミネーションのデザインを”というオーダーを受けて制作したもの。元々は、いくつかご提案した案のうちの1つでした。

光のブーケをイメージした、色とりどりの花束のようなイルミネーションです」

実際の「66プラザイルミネーション」の写真。計画時にイメージしていたものが、しっかりと実現していることがよくわかります。

「多彩で華やかな光をつくるために、青・赤・緑の3種類のイルミネーションそれぞれに、各6色のLED電球を使っています。

どんな色の組み合わせが美しく見えるか、最初はデータ上で色を組み合わせ、イメージを練り上げていきます」

2:詳細検討・発注(4月~8月)

色の組み合わせを検討するためにつくられた実際のサンプル。それぞれ、使われている色が違うのがわかります。

「おおよその方針が決まったら、使用する電球の種類などの詳細を固めていきます。今回は実際に、小さな木のモデルを使って、電球を組み合わせたサンプルを複数パターン作成しました。

LED電球の色のバリエーションは無数にあり、紙のカタログと実物の色でも見え方が変わってくるので、サンプルでじっくり検討しながら、発注する色の組み合わせを考えます」

配色を決める過程で作成された一覧表。(※上部に配置している実際のイルミネーションの画像3点は、編集部が追加したものです)

「3種類のイルミネーションはそれぞれ、軸となる“ブルー”、“レッド”、“グリーン”に加え、深みのある印象を生む差し色、そして“ホワイト”や“ウォームホワイト(電球色)”などを組み合わせた各6色のLED電球で構成。

赤の6色と緑の6色に共通して入れている“レモンイエロー”のように、赤と青、青と緑にも、それぞれ共通した色を1つずつ入れています。これは、3種類のイルミネーションに統一感を持たせるため。

実際のイルミネーションを見ていただくと、さまざまな色が組み合わさっていることがよくわかると思います。

また、一番下の幹の部分には、“ホワイト”を多く巻いて花束らしさを表現しています。

最終的な色が確定したら、夏にはLED電球の発注を行います」

3:制作・施工(8月~10月)

けやき坂イルミネーションの取りつけ風景。高所作業車を使用して、1本ずつ丁寧に電球を巻いていきます。

「写真は、今年の『けやき坂イルミネーション』の取り付けの様子。けやき坂の場合、400mほどの並木道に約80万灯ものLEDを灯すので、準備にも時間がかかります。

当日まで楽しみをとっておくために、取りつけ作業は主に深夜。20人ほどの職人さんが、毎晩23時~27時ごろまで、1日に2~3本ずつ、約1カ月かけて準備を進めていきます。

施工の過程でのデザイン確認も深夜に行うため、明け方に家に帰ることもしばしば。でも、空気が澄んでいて、まわりに光がない夜中だからこそ、そのイルミネーションの一番きれいな状態が見られるという嬉しさもあります」

4:最終調整(10月~11月)

66プラザの調光の様子。この日も23時集合で、終了は26時ごろとのこと。当日まで、人知れず着々と準備が進められているんですね。

「施工が終わると、最後に演出や調光の調整が待っています。

同じイルミネーションでも光の強さが変わるだけで、“まばゆい輝き”から“繊細な星のような光”まで、印象が180度変わるんです。そんなイルミネーションの明るさや演出を、イメージ通りのベストな状態につくりあげてくださるのが、調光を担当する技術者さん。

すべてが同時に点灯したり消えたりするのも、それぞれの色の光がバランスよく見えるのも、当たり前に感じるかもしれませんが、熟練のプロの技があって初めてできることなんですよ」

最終的な光りかたを確認するのは、デザイナーである柳田さんの仕事。

「調光は専門の機材を使って、明るさ100%から0%まで、細かい修正を重ねていきます。この日は最終的な見えかたを決めるため、

・周囲の店舗が光っている状態を想定した明るさのバランス

・点灯、消灯の瞬間の見えかたや秒数

などの検討が中心。最終的に、点灯は3秒で比較的早めに、消灯は余韻を残す意味で13秒かけてじっくりと行うことに決定しました」

専用機材には数字がびっしり! ここで調整した光りかたのデータを、再生装置に落とし込んで、毎日自動で点灯・消灯させているんだそう。

(筆者注:ここで柳田さんが言う「点灯・消灯」は、その日のイルミネーションの最初と最後の瞬間のこと。66プラザの場合、点灯は17時、消灯は24時の1度だけ……!

深夜、わずかな人しか目にしないような一瞬についても妥協せず、何時間もかけて調整する姿に、プロたちのこだわりを感じます)

5:点灯開始(11月6日)

そうやって、長い準備を経て、ついに迎えた公開の日!

2023年の、実際のけやき坂イルミネーション。奥には東京タワーも見えます。

……でも、舞台裏の仕事は、そこで終わりではありません。

「万が一、期間中に風などでイルミネーションがずれてしまった箇所があった場合にメンテナンスできるよう、定期的に確認もしています」

そしてまた、冬が終わるころには、来年のイルミネーションの準備が動き出すんですね。

こちらは66プラザのイルミネーション。周囲の店舗の光ともマッチした絶妙な調光になっています。

ここまでご紹介した「イルミネーションができるまで」、いかがでしたか?

きれいなイルミネーションの裏に、こんな苦労があったとは……! なんだか、今後イルミネーションを見る際に注目するポイントが変わりそうです。

ライティングデザイナーの仕事って…?

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最後に、柳田さんの“ライティングデザイナー”というお仕事をちょこっと深掘り。普段、ずっとイルミネーションだけを担当しているわけではないんだそう。

柳田さんがデザイナーとして関わった施設の一例。(左)オフィスビル「丸紅ビル」、(右上)商業施設「コレド室町テラス」、(右下)知的障がいを持つ人のための福祉施設「エルピザの里」

「街づくりや商業施設、ホテルから住宅まで、ライティングデザイナーが担う領域はさまざま。建築家の方がデザインしたイメージをもとに、それを叶えるためのライティングを検討・ご提案していくというお仕事も多いです。

イルミネーションやライトアップは“見てすぐに伝わる華やかさ”も必要ですが、建築やインテリアの場合は“違和感を持たない居心地のよさ”も重要になります」

こちらは「コレド室町テラス」の大屋根広場の様子。
ライティングが変化すると、印象がまったく違うのがわかります。光ってすごい!
普段何気なく利用している施設も、検討に検討を重ねてつくられているんですね。

「私自身、在学時に環境デザインの世界に触れ、“同じ空間でも、光によって世界がガラッと変わる”ということに魅力を感じてこの仕事を選びました。

イルミネーション以上に、普段、ほとんど意識はされないところかもしれませんが、そこで過ごす人の感情にも影響を与えるほどの力が光にはあると感じます。長い期間、多くの人に使われるデザインに携われる、やりがいのある仕事です」

 

柳田さんへの取材を終えてから、なんだかビルや商業施設を見るたびに、それをデザインした人に思いをはせてしまう自分がいます。これがなんだか楽しくて……!

みなさんも、イルミネーションはもちろん、身近なデザインにじっくり注目して、今まで以上に楽しんでみてくださいね。

 

撮影/黒石あみ(小学館)、鈴木文人、内原智史デザイン事務所


 

【教えてくれた人】

柳田 まりえ(やなぎだ まりえ)

ライティングデザイナー。内原智史デザイン事務所のチーフデザイナーとして、2023年六本木ヒルズけやき坂イルミネーション他、さまざまなプロジェクトを担当している。出身は神奈川県。

11歳の時(2003年)に六本木ヒルズがオープンし、けやき坂の最初のイルミネーションを家族で見に行ったのをよく覚えているそう。

その後、進学した多摩美術大学の環境デザイン学科で、偶然けやき坂イルミネーションのデザイナーである内原智史さんに師事。内原さんの授業で制作課題に刺激を受けたことをきっかけに、卒業後、内原智史デザイン事務所に入社。

「初めてけやき坂のイルミネーションを見た当時は、まだライティングデザイナーという仕事があることも知りませんでした。まさか、デザインを自分が担当することになるなんて……!と驚いています」(柳田さん)

【開催概要】

「Roppongi Hills Christmas 2023」

日程:開催中~12月25日(月)
時間:17:00~23:00(けやき坂イルミネーション)、17:00~24:00(66プラザイルミネーション)
場所:六本木ヒルズ施設内(六本木けやき坂通り、66プラザなど)
問い合わせ:03-6406-6000(六本木ヒルズ総合インフォメーション)

“SNOW&BLUE”のLED約80万灯が彩る「けやき坂イルミネーション」や、きらめく花束をイメージした「66プラザイルミネーション」が見られるほか、「クリスマスマーケット」ではドイツオリジナルのクリスマス雑貨も販売。

※クリスマスマーケットの開催は11月25日(土)からで、開催時間は11:00~21:00です。

※記事でご紹介した「66プラザイルミネーション」は12月25日(月)まで、「けやき坂イルミネーション」は2024年2月14日(水)まで見られます。

詳細は公式サイトから

編集部・関口
編集部・関口

音楽&絵本&甘いものが大好きな、一児の父。文具や猫もとても好き。子育てをするなかで、新しいコトやモノに出会えるのが最近の楽しみ。少女まんがや幼児雑誌の編集を経て、2022年秋から『kufura』に。3歳の息子は、シルバニアファミリーとプラレールを溺愛中。

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