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新生活のスタートに親子で聴きたいクラシック2曲【田中泰の親子で楽しむクラシック#3】

音楽ジャーナリストの田中泰さんが親子で楽しめるオススメのクラシック曲を毎回テーマごとに紹介する連載・第三回目のテーマは「新生活のスタートに親子で聴きたいクラシック」。4月に入り、新たな生活が始まる季節にぴったりな、気持ちを昂ぶらせてくれる“モーツァルトとワーグナーの序曲”を紹介してもらいます。


いよいよ新年度・新学期がスタート。始まったばかりの新生活に向けて、期待に胸を膨らませる季節の到来だ。クラシック音楽においては「序曲」がそれに近い。オペラやバレエの冒頭に置かれる「序曲」は作品全体の予告編のような役割を担う音楽だ。開幕のワクワク感を煽る重要な音楽だけに名曲揃いの「序曲」の中でも、モーツァルトの『フィガロの結婚』とワーグナー『タンホイザー』の高揚感はまさに格別。素敵な物語の始まりはこうありたい!

モーツァルトの『フィガロの結婚』

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1786年にウィーンで初演されたオペラ『フィガロの結婚』は、1984年のアメリカ映画『アマデウス』でお馴染みのヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756-1791)が30歳の年に作曲した名作だ。

ボーマルシェの戯曲『たわけた一日、あるいはフィガロの結婚』をもとに劇作家ダ・ポンテが台本を書いたこの物語は、伯爵家の召使いフィガロと小間使いスザンナの結婚を軸に、セクハラな伯爵を使用人たちが手を組んで懲らしめるというドタバタ喜劇。

「初夜権」という当時の支配者階級の理不尽な制度と振る舞いを揶揄しながら、美しい音楽が全編に散りばめられたこの作品は、恋心の切なさや親子の絆を教えてくれるモーツァルトからのプレゼントだ。

「もう飛ぶまいぞこの蝶々」や「恋とはどんなものかしら」など名曲のオンパレードの中でも特に印象的なアリアが、1994年公開のアメリカ映画『ショーシャンクの空に』の中で使われた第3幕の二重唱「そよ風に寄せて」だろう。刑務所の中庭に流れる音楽に聞き入る囚人たちの姿こそがモーツァルトの魅力を物語るようだ。

この素敵なオペラの冒頭に置かれた「序曲」には、これから始まるオペラの楽しさを予感させるエッセンスが満載。コンサートでも単独で演奏されることの多い高揚感に満ち溢れた名曲だ。

録音に於いては、近年話題の指揮者テオドール・クルレンツィス指揮、ムジカエテルナの演奏をお薦めしたい。

指揮者テオドール・クルレンツィス Photo: Julia Wesely
モーツァルト:歌劇「フィガロの結婚」(全曲)

3時間近いオペラ全曲は重すぎるという方には、聞き所を1枚にまとめた抜粋盤も用意されているのでご安心あれ。

指揮者テオドール・クルレンツィス Photo: Julia Wesely
モーツァルト:歌劇「フィガロの結婚」ハイライト

ワーグナー『タンホイザー』

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一方、ドイツ後期ロマン派の作曲家リヒャルト・ワーグナー(1813-1883)が31歳で完成させた5作目のオペラ『タンホイザー』の高揚感も素晴らしい。

中世の吟遊騎士伝説に基づいてワーグナー自身が書き上げた台本は、騎士道から逸脱して官能の世界に足を踏み入れてしまった主人公タンホイザーが、贖罪の巡礼の末に、恋人エリーザベトへの愛と彼女の献身によって救われるという物語だ。

冒頭を飾る「序曲」には、キリスト教的な世界を示す「巡礼の合唱」や「懺悔の動機」、そして魔術的な「官能の動機」など、作品をつらぬく理念と聞き所が見事に集約されていることに注目したい。

そしてなによりこの音楽による“背中を押される感”は格別だ。もちろん有名な「序曲」以外にも、第2幕の「エリーザベトのアリア」や、「大行進曲」、そして第3幕のヴォルフラムのアリア「夕星の歌」などなど、聞き所が満載だ。

録音に於いては、ワーグナーの「序曲」や「前奏曲」を集めた小澤征爾指揮、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団のアルバムをお薦めしたい。濃密かつ勇壮なワーグナーの音楽について親子で語り合う時間は楽しい限り。新生活の素敵な幕開けを演出してくれるに違いない。

小澤征爾 ワーグナー: 管弦楽曲集

『フィガロの結婚』&『タンホイザー』共に音楽だけでも十分楽しめる名作には違いないが、音楽が頭に入ったならばぜひ実際のステージを体験してほしい。そこにはきっと、新生活にも似た素敵な世界が待っているに違いない。

モーツァルトとワーグナーの石膏像。東京藝術大学でこちらのカプセルトイをゲット

「序曲」のもうひとつの役割は、会場に遅れて来る方が本編に間に合うための配慮だというのも興味深い。息を切らしながら会場に走り込んで席についた瞬間に聴こえてくる華やかな「序曲」は、まさにこれから始まる新生活への期待が入り交じる入り口のような趣だ。


@梅谷秀司

【著者プロフィール】

田中泰(たなか やすし)

音楽ジャーナリスト/プロデューサー。1957年横須賀生まれ。1988年、「ぴあ」入社以来一貫してクラシックジャンルを担当。2008年、「スプートニク」を設立して独立。J-WAVE「モーニングクラシック」ナビゲーター、JAL「機内クラシック・チャンネル」構成、「アプリ版ぴあ」クラシックジャンル統括&連載エッセイなどを通じ、一般の人々へのクラシック音楽の普及に務めている。一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。

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