まずは「山芋」と「長芋」について調べてみると…
null調べてみたら、区分がかなりややこしいので、資料を基にこちらの図を作ってみました!
【山芋】→【ヤマノイモ】
大別してジネンジョ、ダイジョ、ヤマノイモの3種があります。(中略) ジネンジョは日本原産で、根と茎の中間的な性質をもち、形も細長く、非常に粘りがあり、山野に自生しています。 ダイジョは東南アジア原産で、熱帯や亜熱帯地域に自生する種類です。(中略) ヤマノイモは中国原産で、ナガイモ群、イチョウイモ群、ヤマトイモ群の3つの品種があります。(中略) なかでもナガイモがもっとも栽培量が多く、馴染み深いヤマノイモといえます。
【出典】食の医学館 小学館
【長芋】
ヤマノイモ科のつる性多年草。中国原産。日本では古くから栽培され、山野にも野生化している。
【出典】精選版日本国語大辞典 小学館
つまり「山芋」と「長芋」の違いって?
上の図を参考にしていただけると少し分かりやすいでしょうか。
「山芋」とは「ヤマノイモ」のことで、長芋や大和芋、自然薯などをひっくるめた総称。つまり、「山芋」という固有品種は存在しない!んですね。
「長芋」は中国原産の品種。自然薯と見た目は似ていますが、品種が異なります。
今回、他にもいくつかの事典をひいて調べてみたところ、植物学上の分類と食用の分類とでは、芋の呼び名が変わることが分かりました。さらに、「いちょう芋」のことを関東では「大和芋」と呼ぶなど、地域による呼び名の違いも……。正直、とてもややこしい! なので、
- そもそも「山芋」という品種は存在しないが、俗称として一般に馴染んでいる
- 地域や店によって品名が混在する場合があるから、形で見分ける
ということを覚えておくといいかもしれません。
生食できる理由から貴重な品種まで…「ヤマノイモ」を掘り下げてみよう
null長芋・いちょう芋・大和芋…食べ方に違いってあるの?
料理研究家・時吉さんによると……
「“山芋”はあくまでヤマノイモ科の芋の総称で、“長芋”はその中のひとつでしたよね。
ただ、一般的に“山芋”と呼ばれているものは、“つくね芋”というげんこつ状の芋や、“いちょう芋(手芋とも)”という手の平のような形のものを指して呼ばれることが多いんです」(以下「」内、時吉さん)
なるほど! だから“山芋”って固有名詞だと思っていたのかも!?
「これらは、すりおろして食べるタイプです。弾力が強いので、“とろろご飯”でいただくときは出汁を加えたりします。
これに対して“長芋”は、千切りやみじん切り、叩いてつぶすなどして食べることが多くはありませんか(もちろん、すりおろすことも)? 長芋は水分が多くて粘り気が弱いため、こういった調理法も好まれるようです。輪切りにしてステーキにすると、ホクホクとした食感も楽しめますね」
唯一、生食できるというのが「ヤマノイモ」の特徴!
「すりおろして……と紹介しましたが、同じお芋でも、ジャガイモやサツマイモなどを生のままで食べることはしませんよね。これらに含まれる生のデンプンは消化に悪く、おいしくもないんです……。
それに比べて“ヤマノイモ”が生食できるのは、芋自身がデンプンを分解する消化酵素を持っているから。
中国では、ヤマノイモの根茎を乾かしたものを山薬(さんやく)と呼び、滋養強壮や消化促進といった効能がある薬としていたようです。日本でも、“山のうなぎ”なんて呼ばれたりしますよね」
言われてみれば……! 加熱せずに食べられるのは、手軽だしありがたいですよね。
痒くならないコツや、保存方法は?
「よく、大和芋などをすりおろすと痒くなる……という方がいらっしゃいますよね。扱うときのおすすめは、持ち手部分の皮を残しておくこと。最後は持ち手の皮もむいて、キッチンペーパーやフォークなどで持つようにして手に触れないようにすれば、痒くならずに済みますよ。
長芋を切るときも、芋を支える部分の皮を残してみてください。さらに、キッチンペーパーを敷いたまな板の上で叩くようにして切れば、ネバネバが出にくくなるはずです。キッチンペーパーごと包んでボウルなどにうつせるので、衛生的でもあります」
痒くなるのが嫌で敬遠していました……。試してみます!
「長いものは、できれば長いままの状態で新聞紙にくるんでから、ラップを巻くなどして保存するといいと思います。
あるいは、皮をむいてそのまま冷凍保存も可能です。すりおろしたり、長芋は千切りにしたりとどのような状態でもOK。“ヤマノイモ”をカットすると、切り口は酸化によって変色していきますが、その切り口を酢水に浸けると変色が防げます」
冷凍保存すると、粘り気ってなくなってしまうんでしょうか?
「ちゃんと残りますよ。ですので、冷凍で保存しておくと、なにかと使い勝手がいいかと思います」
すりおろしたら紫色!? 時吉さんが出合った貴重なお芋とは
「以前、お仕事の関係で鹿児島で作られたという山芋をいただいたんですが、これがすりおろしてみると紫色だったんです!
“紫山芋”と称して売られていたもので、なにしろほとんど流通にのらず貴重なんだとか。白色のものしか知らなかったこともあり、紫色の品種があること、そしてその紫があまりにきれいだったことに驚きました」
サツマイモとは明らかに違うのでしょうか……?
「別物でした。すりおろすととても粘り気が強くて、味は大和芋だなぁという感じ。仕事柄、値段がはるものや自生する自然薯の形などに驚くことはありましたが、この“紫山芋”がダントツ! これが送られてきたときの衝撃といったらありませんでした(笑)」
それはぜひ食べてみたくなりますね~!
そういえば……先ほどの分類表にあった「ダイジョ」という品種、日本では沖縄や南九州で栽培されているとありました。もしかして?と思い調べてみると、どうやら紫山芋はこの「ダイジョ」である可能性が。
「ダイジョ」には白タイプと紫タイプがあるそうで、時吉さんが衝撃を受けたのはこの紫タイプだったのかもしれません。
“ヤマノイモ”を掘り下げてみると、認識が改まることがたくさん! 日本に古くからあるだけあって、とても奥深い食材でした。
構成/kufura編集部
【参考】
農林水産省 作物分類 いも類 Tuberous and corm vegetables
https://www.maff.go.jp/j/nouyaku/n_sasshin/group/attach/pdf/sakumotu_bunrui-20.pdf
料理研究家。(株)Clocca代表取締役 cooking Clocca代表
土井勝料理学校をはじめ各地の料理教室講師のほか、「ZIP!MOCO’Sキッチン」(放送終了)「有吉ゼミ」などTV・出版物等のフードコーディネートや、料理、レシピ制作などで幅広く活躍。
Instagram(@cooking_clocca)では、日々のお料理や季節の和菓子といったレシピを中心に、オススメの調理器具やロケ先で出合った食材などを発信中。