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「トーベとムーミン展」がすごい!「ムーミン」の世界とトーベの創作の魅力が伝わる、見応えある展覧会

こんにちは!学芸員資格保有の東京芸大卒イラストレーターの新里碧(にっさとみどり)です。
現在、六本木ヒルズの「森アーツセンターギャラリー」で開催中の展覧会、「トーベとムーミン展~とっておきのものを探しに~」(以下「トーベとムーミン展」)へ行ってきました。
「ムーミン展って数年に一度開催されていない?」「何度か見に行ったことがあるよ」と思ったそこのあなたへ、今回の「トーベとムーミン展」の“ひと味違う見どころ”をご紹介します。

これまでのムーミン展と何が違う?「トーベとムーミン展」さくっと見どころサマリー

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注目すべき点は、タイトルに“トーベと”とつくように、「ムーミン」の生みの親であるトーベ・ヤンソンに焦点を当てているところ。

今回の展覧会は、トーベ・ヤンソンの膨大な作品を収蔵するヘルシンキ市立美術館(HAM)協力による展覧会ということで、これまで見たことの無い、トーベの作品にお目にかかれるチャンスなのです!

“ムーミン以外”のトーベの作品

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トーベの壁画作品「フェアリーテイル・パノラマ」の映像を見るムーミン。スケッチと完成した作品が原寸大で交互に映し出される。

画家の母と彫刻家の父の間に生まれたトーベ・ヤンソン。

幼いことから絵を描くことが身近にあり、画家への憧れが強かったそう。

「ムーミン」シリーズで有名になり、作家として人前に出ることが多くなったトーベですが、「自分は画家である」という意識は常にありました。

キーラ・スウェーデン語小学校の食堂のために描かれた壁画「青い鳥」(複製)。1953年 City of Raasepori (C)Tove Jansson Estate (C)HAM / Maija Toivanen

昼間は油彩画や壁画を制作し、夜は「ムーミン」シリーズの執筆やマンガ制作というように両立していたと言います。

トーベの自画像など油彩画作品の展示。

トーベの描く油彩画作品は、寒色系の色が多く、落ち着いたトーンでありながら、不思議と暖かみを感じます。

まるで北欧デザインのような、居心地の良さ。

政治風刺雑誌『ガルム』の表紙デザイン。

戦後は政治風刺雑誌『ガルム』の表紙の風刺画を制作していたトーベ。

当時の政治家や社会問題も、トーベのスッキリとしたかわいらしい絵柄で描かれ、親しみを感じます。

色使いも絶妙で、このままTシャツにしても良さそうなデザイン!

このようにトーベの油彩画や壁画作品、デザインなどがまとまって見られるのも今回の展覧会をお勧めしたい理由のひとつです。

トーベの使用していた画材とパレット。

個人的に画家にフィーチャーした展覧会で展示されていると「おおっ!」とテンションがあがってしまうのが、画材やパレット。

トーベのパレットは夕焼けのようなオレンジ色や海のような青色など、自然の中にある色が並んでいたのが印象的でした。

パレットの中にフィンランドの風景が見えるようです。

展示の演出がスゴい!

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嵐の中を歩くムーミンの映像が、壁いっぱいに映し出されているコーナー。

会場に入り、トーベの絵画や壁画を鑑賞していると、どこからか、ゴウゴウとうなりをあげる嵐の音が。

「今日は台風の影響で雨風が強いからなぁ」と思っていたら……、

なんと会場の演出でした!

嵐や海など、穏やかでもあり脅威にも変わる自然を愛していたトーベ。

「ムーミン」の物語にも、たびたびそんな自然の姿が描かれています。

「ムーミン」の世界を体感出来るような空間は、物語と同様に面白くもあり、同時に恐怖も感じる空間でした。

展示会場内にある「The door is always open」と書かれたドア。

こちらは、「The door is always open」と書かれたドア。

この言葉は、ムーミン80周年のテーマにもなっています。

いつでも、どんな人や生き物に対しても開かれたムーミンやしきと、「ムーミン」の世界を表しています。

トーベのアトリエを思わせる展示コーナー。窓にはめ込まれた写真がフィンランドにいるような気持ちにさせます。

トーベのアトリエからの風景を感じさせる窓型の装飾など、作品だけではなくトーベの感覚に触れられるような工夫がたくさんありました。

今回の展覧会を見ていると、ふと、私が10数年前、スウェーデンとフィンランドへ初めて行った時、美術館や博物館で“展示を楽しませるような演出”を目にしてカルチャーショックを受けたことを思い出しました。

それまで美術館と言うと、ホワイトキューブ(装飾を排除した白い壁、壁面の展示会場)の中で、かしこまって緊張して作品と対峙するようなイメージがあったのですが、そこで見たものはまるで逆の印象。

ありとあらゆる方法、演出で作品と鑑賞者の距離を縮めるような工夫がされていたのです。

今回の展覧会もそんな“作品の心髄により近づけるような会場の演出”が随所にちりばめられていたのが、興味深かったです。

スナフキンのイラストと焚き火のような明かりが展示されたコーナー。
展示されているイラストの絵が壁一面にも拡大されているコーナー。

工夫があふれる展示の演出で、大人も子どもも、わくわくしながら作品を見て回ることが出来ると思います!

個人的注目作品その1:トーベの愛した海の絵からトーベの目線に触れる

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「波」1962年Private Collection (C)Tove Jansson Estate、「抽象的な海」1963年 Private Collection (C)Tove Jansson Estate

荒れる海を描いた油彩画作品。

ザブザブと波打つ音が聞こえてくるかのような、荒々しいタッチで描かれています。

展示の演出の話で触れた、風の音がするシーンのように、人や生き物が太刀打ちできない大自然の力強さを感じます。

黒が使われ、怖さこそ感じますが、波間にひそむビビッドな青や緑からは同時に優しさや美しさを見いだせる、そんな相反する感情が共存するようなこの作品にとても惹かれました。

海はトーベの最も愛する題材のひとつだったそう。

トーベの自然への目線がわかる作品だと思いました。

個人的注目作品その2:演劇のためのスケッチを見て想像する舞台の魅力

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上の作品、下の作品ともに、演劇「ムーミントロールと彗星」スケッチ1949年 (C)Moomin Charactors™

1949年にヘルシンキで初演された演劇「ムーミントロールと彗星」。

トーベが脚本だけではなく衣装や舞台美術のデザインや登場人物すべての下絵も描いたというから驚き!

展示されているスケッチを見ると、本の挿絵やマンガとは違う、スケール感を想定したデザインになっているところに注目したい。

個性的なデザインでありながら、キャラクターたちがそこで動き、物語を繰り広げるための背景として絶妙なデザインと色使いになっているんです。

「実際の舞台を見てみたかった!」と思いながら、その姿を想像しながら楽しみました。

他にも「ムーミン・オペラ」のポスターやパンフレットのデザインの原画も展示されていますが、そのどれもがインクで精巧に描かれています。

トーベ・ヤンソン「ムーミン・オペラ」パンフレット原画 1974年(C)Moomin Charactors™

こちらのオペラのパンフレットのデザインは、今回の展覧会オリジナルグッズとしてトートバッグになっています!

素敵すぎて購入しました。グッズの紹介の記事もぜひ、合わせてご覧ください。

個人的注目作品その3:コミックスのためのスケッチの密度がすごい!

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新聞連載マンガ『ムーミン谷のきままな暮らし』キャラクタースケッチ 1958年 (C)Moomin Charactors™

コミックスのためのスケッチは、1枚の紙に、その物語の登場人物の姿や表情、小道具や舞台となる場所の背景などがぎっしり!

物語を想像しながらずっとながめていられるような完成度で、ペンで描かれたキャラクターたちは、今にも動き出しそう。

これがスケッチということが信じられません。

壁一面にコミックスがあしらわれた、コミックスの展示コーナー。

コミックスの展示がされているコーナーの演出も必見!

鉛筆描きのスケッチの展示と、壁面にあしらわれたコミックスを近くから、遠くから見比べるのも面白い展示です。

展示の終わりに、うれしいプレゼントが

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カードサイズの紙にプリントされたムーミンキャラクターの言葉がずらりと並ぶ。
私が選んだスナフキンの言葉のカード。

展覧会を見て回った最後に、「ムーミン」に登場するキャラクターたちの言葉が描かれたカードをひとつ持ち帰ることができるコーナーがありました。

私はスナフキンの言葉「大切なのは、自分のしたいことがなにかを、わかっているってことだよ」を選びました。

物語に登場するキャラクターの言葉ですが、今回の展覧会を見た後なので、まるでトーベ本人からの言葉のように感じました。

自由を愛し、自分の心に正直に生きたトーベ。

そんなトーベへの憧れがさらに高まる展覧会でした。

このカードをお守りに、明日からまた頑張ろう!

「トーベとムーミン展」は巡回展となっており、2025年101日(水)〜1124日(月・振休)は北海道立近代美術館、202627日(土)〜412日(日)は長野県立美術館、2026年425日(土)〜614日(日)は愛知県の松坂屋美術館で開催が決定しています。

また、別の会場にも足を運んでみたくなりました。

(C)Moomin CharactersTM (C)Tove Jansson Estate

「トーベとムーミン展~とっておきのものを探しに~」

会期:2025716日(水)〜917日(水)
会場:森アーツセンターギャラリー(六本木ヒルズ森タワー52階)
開館時間:1000分〜1800分(金、土、祝前日は10:0020:00
休館日:会期中無休
※入館は閉館の30分前まで
※土、日、祝日、812日(火)〜15日(金)、916日(火)〜17日(水)は日時指定予約制
※開館時間、入館方法については、変更となる場合がございます。最新情報は展覧会公式サイトをご確認ください。

観覧料(税込):【平日】一般・大学・専門学生 2,300円、高校・中学生1,500円、小学生800
【土日祝】一般・大学・専門学生 2,500円、高校・中学生1,600円、小学生900
※未就学児は無料

公式ウェブサイト: https://tove-moomins.exhibit.jp

新里 碧
新里 碧
取材漫画家/イラストレーター/アーティスト
芸大を卒業後、広告業界を経て独立。2018年、自身の体験を元に描いた『アプリ婚 お見合いアプリで出会って1年で婚約→結婚しました』(小学館)発売。旅と工作が大好きな新米キャンパーです。
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