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「どうしてわかってくれないの?」パートナーとの関係性に「苦しい」と思ったら、するべきこと

「なんでわかってくれないの?」「いつの間にか、夫に恨みを抱いてしまっている……」、そんな自分に気づいたらどうしたらよいのでしょう。

累計5000人以上のママ世代のお悩みに耳を傾けてきた株式会社ママプロジェクトJapanの岩田かおりさんと、SEL(Social Emotional Learning/社会性と情動の学び)という教育アプローチでソーシャルスキルとエモーショナルスキルを育み、この度『世界標準のSEL教育のすすめ 「切りひらく力」を育む親子習慣 学力だけで幸せになれるのか?』(小学館)を上梓した株式会社roku youの下向依梨さんに話を聞きました。

「パートナーが私のことをわかってくれない!」と思ったら?

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左から岩田かおりさん、下向依梨さん。

――岩田さんはたくさんのお母さんたちの悩みに耳を傾け、その解決に向けて講座などを行ってきましたが、パートナーシップでの課題を口にする方は多いのでしょうか。

岩田かおり(以下、岩田)「パートナーシップでのエラーが子育てに大きな影響を与えているケースはとても多いです。私も色々と乗り越えてきましたが、下向さんもお悩みはありますか?」

下向依梨(以下、下向)「ありますね……。私はSELSocial Emotional Learning/社会性と情動の学び)というアプローチで、人と良好な関係性を築くソーシャルスキルと自分や他者の気持ちに目を向けていくエモーショナルスキルの重要性を伝えています。しかし、実践者であり、探究者でもあるなとも日々感じているんです。というのも、身近な人に対するコミュニケーションにおいては常に試行錯誤をしているから。たとえば、つい夫に対して“私のこと、わかっていないでしょう”という決めつけをして、勝手に悲しい気持ちになってしまうんです」

岩田「パートナーといえど、実際に相手のことはわかっていないものですよね」

下向「この私の思いが相手に伝わってしまい、“僕はわかろうと思っているのに!”と言われて、ますますお互いを傷つける喧嘩をしてしまうんです」

岩田「昨日、夫がツルムラサキをたっぷりのお湯でグツグツ茹でていたの。でも、私はビタミンが水に溶けやすいから、緑黄色野菜はできるだけ、電子レンジでチンするか炒めて使ってほしいと思っていて。それを20年間言い続けてきたんです(笑)。

私はたくさんの量を食べる人ではないから、少量でできるだけ栄養素が高い状態で摂取できるようにしたいんです。だから、茹でないでほしい。これは私にとっては切実な問題なんだけれど、夫にとっては重要度が高くない。つまり、“わかってくれない”というのは双方の重要度の違いなんですよね」

下向「岩田さんは“なんで、あの人はわかってくれないんだろう”と感情がこじれることはないんですか?」

岩田「そういう営みをするのが人生だと思っているところがあるかもしれないですね。“この人と一生こんなやりとりをしていくんだろうな”と思っている。自分の思う通りにやってほしいと願っても、重要度が違うから、相手に私と同じ意識を持ってもらうことはできないんです。逆にいうと、私も夫がこだわりを持つことに対して同じ重要度を抱くことは難しい。

だから、誰にとっても重要な命に関わるようなことであれば徹底しようと促しますが、あとは漫才の“てんどん”(※)をやっているイメージで、毎度繰り返しています(笑)」

※同じボケを何度も繰り返して笑いをとること。

自分が「タタリ神」になってしまっていると思ったら

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「恨みを抱えて『タタリ神』のように負の感情の塊になってしまう女性もいます」と語る岩田さん。

――パートナーに対して、諦めていたり「どうせ言ってもわからない」という声を耳にしたりすることがあります。こういった状況からでも、パートナーシップを見直していくことはできるのでしょうか。

岩田「夫に対して恨みのような気持ちを抱いて、『もののけ姫』でいう“『タタリ神』になっているんです……”とおっしゃる女性に出会ったこともあります。

実は、産後のすごく辛いタイミングで“サンドイッチを買ってきて”といったら、“え、面倒くさい”と返事をされたことが、何年も経った今でもずっと許せないといった話を聞くこともある。その時に、“もう、あのサンドイッチしか食べられない! 痛くて元気が出ないし、あれがないと歩くこともできないよー!”という感じで主張をすれば、大抵の夫は“そうなんだ?”と言いながら買いにいきます。でも、多くの場合、そこまで重要なこととは気づかず、軽い気持ちで断ってしまうのです。

自分の大変さを理解されなかったり邪険にされたりしたことを、相手にきちんと伝えずにずっと握りしめて恨みが大きくなっていったのが、『タタリ神』の正体です

下向「関係性は関わる全員で作っているものなので、パートナーだけが悪いのではなく、本来は双方の問題のはずですよね。相手が想像できる範囲は限られているので、ありのままの自分の気持ちは伝わっていない。恨みが残っていたら、時間差でもいいので蓋を開けて、“あの時、実はこういう気持ちで、すごく悔しかった”と話していくと、手放せることも多いように思います。

自分の気持ちに気づき、それを相手に伝わりやすいように伝えていくことは、まさにSELのアプローチです。“今更だけど、とても腹が立ってきたから言ってもいい?”と話し出す。親密な関係を築きたいのであれば、そういうことをしなければいけないのだと思います。恨みに蓋をしたら、腐っていくだけですからね」

打ち明けモードにならないときに必要なこととは?

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「なかなか話し合いモードにならなくて……」と語る下向さん。

――パートナーと「話し合った方がいい」と思いつつ、そこに難しさを感じる人もいるかもしれませんね。

下向「私もパートナーシップをより良くしたいと思っている女性のひとりとして、悩みに蓋をすることはよくないと感じつつも、思っていることを打ち明けるモードになることが難しくて。突然語り出したら、“え? 何を急に?”と相手が引いてしまう。こちらは話し合うモードに入っているのに、向こうは入っていない。結果として、私が一方的に伝えて終わることがよくあるなと、反省しているんです」

岩田「誰もが男性性と女性性を持っています。男性だから男性性だけがあるわけではなく、それぞれの特性を多め・少なめというグラデーションで持っています。最近は、女性の男性性がすごく強くなっているのではないかと感じます。男性性の特徴は競争的だったり、戦って達成感を得ようとしたりする傾向。一方で、女性性には調和や包み込むこと、柔軟さなどの特性があります。

現在のビジネスの現場はどうしても男性性が優位なので、女性も仕事をしている時は、“どうやったら達成できるか”や“速やかな意思決定”など男性的な脳をフル活用しています。しかし、それが強化されすぎると、家の中に男性が2人いるような状態になってしまう。

その状態でパートナーと関係性の問題について話し合おうとすると、“あなたができていないことを3つ挙げます”とか“今日で◯回目です。いつまでに改善するかを提示してください”といったコミュニケーションになってしまいます。すると、男性も戦うモードになって、衝突したり距離を置いたりする状況が生まれてしまうんです」

下向「私も完全にビジネスモードで家にいることに気がつきました。さらにいうと、家庭でトラブルがあると、会社の仲間たちとの会議の中でもそれが出てしまうみたいで……。家庭と仕事との切り替えは、どうしたらよいのでしょう?」

岩田「リモートワークが広がってとても便利になったのですが、その一方で家で仕事をしている人がビジネス脳のまま家庭にいることが増えました。通勤がモードチェンジの時間になっていたけれど、それがなくなったことで切り替えのタイミングを失ってしまったんです。

モードチェンジとして私が大推奨しているのはお酒を一杯飲むこと(笑)。それ以外にも、『甘いものを食べる』『体を動かす』など、自分がご機嫌になれることを挟んでいくことが大切です。

私が主催している講座では、自分がご機嫌になれるリストを作成しています。どんな時に気持ちが晴れるかを書き出していくのですが、お金や時間がかかりすぎることはNG。たとえば、『ハワイに行く』は時間もお金もかかりすぎてすぐには実行できないので除外します。『自分の好きなアロマの香りを嗅ぐ』『空を見上げて雲が流れていくのを見る』『大好きなコンビニスイーツを食べる』といったことを書き出していくんです。そして、実際に仕事と家庭のモードチェンジの際に実行していきます」

下向「ご機嫌になれることをリスト化していくことは、SELでいう自己理解や自己管理のスキルを上げていくアプローチだと感じました。

たとえば、SELにはエネルギーを得られる場面を想像する『リソーシング』というワークがあります。ぺットを撫でているときやお風呂に入っているとき、自然の中で木を眺めているときなど、自分のパワーを充電できるようなシーンをなるべく具体的に思い浮かべて、交感神経と副交感神経を整えていきます。つまり、自分がご機嫌になれることをイメージの中で実行していこうというアプローチです。

自分の心の奥底にあるメンタルモデルに目を向ける

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――関係性がこじれ、どんどん恨みや悔しさなどが募っている時、まずはどんなことができるのでしょう。

岩田「自分がどんな『べき論』に囚われているかに気づくワークを実践することがおすすめです。『◯◯すべき』という思いを持ち過ぎていると、他者も自分も受容することができなくなっていきます。たとえば、“ご飯は残さず全部食べるべきだ”と思っていたら、料理を残されたら頭にきます。“私が家事をしていたら夫もソファーに座らず一緒にすべきだ”と感じていたら、夫が動かないことにイライラします。子どもに対しても同様で、“休みの日はゲームは1時間にすべきだ”“早寝早起きをさせるべきだ”といった『べき論』を色々と持っていると思います。

その『べき論』を書き出していくと、“私はこんなにたくさんの『◯◯すべき』を持っていたのか”と気がつきます。そして、たくさんの『◯◯すべき』は本来は人生を豊かにするために持っていたはずなのに、実はすごく自分を窮屈にして首を絞めていると気がつきます。そこに目が向いたら“持ち続ける『◯◯すべき』”なのか、“捨てた方がラクになる『◯◯すべき』”なのかを精査していきます。これは自分を緩ませて、幸せに近づく方法の1つです」

下向「SELでいう自身の『メンタルモデル』に気づく取り組みだと感じました。『メンタルモデル』とは、人が無意識のうちに持っている思い込みや思考のことを指します。下記の図のとおり、実際に起こる『出来事』は氷山の一角、ほんの一部分にすぎません。その下には、『パターン』『構造』『メンタルモデル』があり、最下層に本当はどうしたいのかという『ニーズ』が潜んでいます。

例えば、“夫に『食器洗いくらいして!』とキツイ口調で文句を言った”という『出来事』があるとします。氷山を掘り下げると『パターン』として、“特に疲れて帰ってきたときには、配慮してくれない夫に対して厳しい口調になる”という繰り返しが起きていることに気づきます。さらに掘り下げると『構造』として、“木曜日はストレスのたまる会議があって特にヘトヘトになる”“夫婦で仕事の話をシェアしないので、妻がどれほど疲れているのかを夫が理解していない”といったことが見えてきます。そして、その下の『メンタルモデル』にたどり着くと、“一緒に暮らしているのだから、言わなくてもわかるはずだ”“同じように外で働いたら同じように家事を負担すべきだ”“毎日食器洗いはすべきだ”といった考えがあることに気がつきます。

こういった具合に、自分の『メンタルモデル』を掘り下げていくと、知らないうちに抱いている思い込みにたどり着くのです。その後、『ニーズ』として“どうなっていきたいのか”を考えます。“週の半分は食器洗いをしてほしい”という思いに辿り着いたのならば、夫と一緒にその仕組みを作ります。もしくは、“木曜日は外食にする”“食器洗いは翌日まで持ち越してもOK”“食洗機の導入”といった解決策も考えられるでしょう」 

SELの『メンタルモデル』に気づくフロー。

岩田「誰もが顕在化していない思いを持っています。解決に向かっていくには、まずはそれを立ち止まって捉えていくことが大切ですよね」

下向「そう思います。望んでないのに繰り返し起きてしまうことに対しては、自分が持っているメンタルモデルが影響している可能性が高いです。岩田さんのおっしゃる『べき論』もその一つですよね。なぜエラーが起きるのかに気づき、構造的に解決していくことがとても重要だと思います。

解決に向けた道筋が明確に見えていないと、前に進みづらいです。人は同じ状態でいる方がラクなので、『メンタルモデル』にはまっている引力の方がずっと強く働くからです」

岩田「気付いた後、その先にある改善の道を進める人はすごく強い人だと思います。向き合うことは、ある程度の余白がないとできません。転職でも離婚でも、“現状から抜け出す”という行為はエネルギーがとても必要ですよね。走り続けている多忙な状態では、どうしてもそのエネルギーが湧いてこない。だから、“今日の1時間はワークをする”など強制的に止まる時間を作っていくことが必要だと思うのです

下向「『メンタルモデル』を掘り下げていく行為では、見たくないものを見ることになるので、そこには相応の決意とエネルギーが必要になりますよね。それに、対症療法的に一部分だけにフォーカスを当てるのではなく、『全体像』を見ることも必要です。私も日常に追われてしまいがちですが、きちんと時間を取って向き合うことが大事だと痛感しています」

自分が変わると、相手が変わる

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「まずは自分から変わることが大事」と語る下向さん。

――自身のメンタルモデルに向き合い、自分が変わっていった後に、相手とのコミュニケーションをどう変えていくとよいのでしょう?

岩田「自分が変わると相手も変わるんですよ。こちらが緊張状態で固まっていると、相手もファイティングポーズの姿勢できます。しかし、こちらが踊っていたら、一緒に踊ってくれるかはわかりませんが(笑)、笑い出したりふざけたりしますよね。

電車の中で足を踏まれて、何も言われなかったらすごく頭に来ると思いますが、“わ! 本当にすいません!”と言われたら、大抵の場合、“いいですよ”という気持ちになります。相手をどうこうしようと思わずに、まずは自分が内省して、自分が変わることを実践することで関係性に変化があります

下向「関係性は相互作用なのでどちらか一方が変わると、変容が起きていきます。相手に対して頭にくる気持ちもあると思いますが、関係性をよくしたいと考えているのならば、“まずは自分から”が必要なアプローチなんです。岩田さんとお話ししていて、私も自分を見つめる機会となりました。“まずは自分から”をみなさんと一緒に実践していこうと思っています」

身近だからこそ難しいパートナーとの関係性。「なかなか改善できない……」と感じたら、まずは自分から今回ご紹介したアプローチを試してみましょう。そして、関係性とは少しずつ変化が現れてくるものです。じっくりと変化を観察してみてください。

【まとめ】話し合いのその前にやっておくこと

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  • パートナーに対して恨みが残っていたら、時間差があってもいいので伝える
  • 仕事モードと家庭モードの切り替えをする
  • モードチェンジには自分がご機嫌になって、時間とお金がかからない手軽なものを
  • 自分の「メンタルモデル」を掘り下げていくことで、”本当に求めていること”に辿り着く
左から岩田かおりさん、下向依梨さん。

岩田かおり(左)

家庭教育コンサルタント/株式会社ママプロジェクトJapan代表。幼児教室勤務を経て、「子どもを勉強好きに育てたい!」の想いから、独自の教育法を開発。ガミガミ言わず勉強好きで知的な子どもを育てる作戦『かおりメソッド』を全国へ展開中。3人(12女)のママ。小学校、幼稚園、保育園での講演会多数。第5回ワーママオブザイヤー2018受賞。著書に『「天才ノート」を始めよう!』(ダイヤモンド社)がある。

下向依梨(右)

株式会社roku you代表。大阪府生まれ。慶應義塾大学総合政策学部へ入学後、社会起業家について研究。在学中に、社会起業家育成のパターン・ランゲージを開発、出版。その後、米国・ペンシルベニア大学教育大学院で発達心理学において修士号を取得。帰国後は東京のオルタナティブスクールに勤務。2019年に株式会社roku youを沖縄県にて設立、代表取締役に就任。SELSocial Emotional Learning /社会性と情動の学び)を基軸に、全国延べ100校以上の学校改革や総合的な探究の時間に関わる。『21世紀の教育 子どもの社会的能力とEQを伸ばす3つの焦点』(ダニエル・ゴールマン、ピーター・センゲ、 井上英之 (監修翻訳)/ダイヤモンド社)の解説を担当。一児の母。
https://www.roku-you.co/

『世界標準のSEL教育のすすめ 「切りひらく力」を育む親子習慣 学力だけで幸せになれるのか?』

『世界標準のSEL教育のすすめ 「切りひらく力」を育む親子習慣 学力だけで幸せになれるのか?』(著・下向依梨、税込1,760円、小学館)

次世代の教育として世界的に注目されている「Social Emotional Learning(SEL)」は、社会性と感情のスキルを伸ばす教育アプローチです。本書では、家庭でのSEL実践方法を具体的に紹介。SELを基軸に全国100校以上の学校改革に携わってきた著者が、家庭で簡単にできる方法をお伝えします。

公式サイト

取材・文/佐藤智、撮影/五十嵐美弥(小学館)

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