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「ママ友と離れるとホッとする」その関係は問題あり!コミュニケーションのエラーに気づくには

パートナーや子ども、ママ友、職場の人など、人間関係に何かしらの悩みを抱いている方は多いでしょう。その悩みに対して、どのようなアプローチを講じていくとよいのでしょうか。

累計5,000人以上のママ世代のお悩みに耳を傾けてきた株式会社ママプロジェクトJapanの岩田かおりさんと、SEL(Social Emotional Learning/社会性と情動の学び)という教育アプローチで主に学校現場において社会的なスキルと感情的なスキルを育み、この度『世界標準のSEL教育のすすめ 「切りひらく力」を育む親子習慣 学力だけで幸せになれるのか?』(小学館)を上梓した株式会社roku youの下向依梨さんに話を聞きました。

「みんな我慢している」ではなく、「気づく」からスタート

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現代社会において、人間関係の悩みを抱えている方は多いのではないかと思います。kufuraの過去の調査では、3人に1人が人間関係に悩んでいるという結果が出ています。もし、今、身近な人との関係性に悩んでいたら、解決に向けてどうアプローチしていくとよいのでしょう。

株式会社ママプロジェクトJapan・岩田かおりさん。

岩田かおり(以下、岩田)「人間関係の問題は誰もが抱えています。パートナーシップはうまくいっている人でも、ママ友との関係はうまくいかないというケースもありますし、その逆もあり得ます。私は、ママ世代の課題を聞いたり講座でその解決策を一緒に見出していったりする仕事をしているので、特にお悩みをよく触れる立場ではありますが、すべての人間関係にうまくいっている人の方が少ないでしょう。

また、“うまくいっているフェーズ”と“うまくいっていないフェーズ”もあります。たとえば、パートナーシップは、ずっとうまくいっているわけではなく、うまくいかない時期を乗り越えて、関係性が良好になっていくことも多いのです」

――好転する人の特徴はどんなことでしょうか。

岩田 「“気づく”ことができる人です。“この人とのコミュニケーションで、私は頑張りすぎていたな”“求められることに対応しすぎていた”といったことに気づいた人は変わっていきます。

日本人は、自分の辛さに気付くことが苦手だと思うんです。“みんな我慢しているから”と、自分の苦しさに蓋をしてしまう。まずは、その蓋を開けるところからスタートします」

株式会社roku you・下向依梨さん。

下向依梨(以下、下向)「私はSEL(Social Emotional Learning/社会性と情動の学び)という教育アプローチで、これまで小学校から大学約100校の学校改革や探究学習の支援に関わってきました。この学びは“ソーシャル”と“エモーショナル”というふたつの要素から構成された学びです。

 ソーシャル”は、人と良好な関係を築くための社会的能力を指します。一般的にソーシャルスキルとも呼ばれるものです。“エモーショナル”は、自分自身の感情や考えに気づき、また他者の状態を理解し、それに適切に対応する能力を意味します。これらの能力を伸ばすことが、SELの目的です。

SELは5つの力を高めますが、岩田さんがおっしゃった“気づく”ことは、そのなかの一つである“自己理解”につながる重要なポイントだと感じました」

 

SELが育む5つの能力

自己理解力、自己管理力、共感力、社会スキル、意思決定力の5つからなる。

――自分の気持ちに「気づく」ためにはどんな意識が必要ですか。

下向自分から湧いてくる感情や気持ちに対して、“ノンジャッジメンタル”であることが欠かせません。ノンジャッジメンタルとは、判断せずにありのままに受け止める態度です。多くの大人は、“悲しみ”や“苦しみ”はネガティブで、“うれしさ”や“楽しさ”はポジティブな感情だととらえています。そのため、ネガティブな感情には蓋をしなければいけないと感じてしまう。

しかし、本来は感情にネガティブもポジティブもありません。

たとえば、“この人と一緒にいると元気がなくなるな”と思っても、“この人にはお世話になったから仲良くしないと”といった論理で、自分の気持ちを打ち消してはいないでしょうか。ノンジャッジメンタルとは、否定も肯定もせずに“一緒にいると元気がなくなる”という自分の感情・気持ちを受け入れることです。岩田さんのおっしゃる“蓋をしない”ということですね」

自分の感情を受け入れること、ネガティブを否定しないことが大事だという下向さん。

「つながったふう」で終わらないコミュニケーションの深度

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――自分の感情や気持ちに気づいた後は、どうしていくとよいのでしょうか。

岩田自分の心のうちを話すことがすごく重要になると思います。私の講座にいっらっしゃる女性たちも、その場で自分の気づきを語ると最初と最後とでは別人かと思うほどスッキリした表情になります。

講座内ですべての課題が解決するわけではありませんが、こんなことに悩んでいて、本当はこうなりたい」といったことを話すことで、問題を“手放す”ことにつながるのだと思うんです。

下向「相手に話すことで、自分の気持ちを客観視でき、心の内が整理されていくのでしょうね」

岩田「そうですよね。ただ、上っ面な会話だけでは解消されないとも思っています。私は会話には5階層あると考えていて、レベル4・レベル5の深度で話をすることで鬱々とした気持ちの解消につながっていくと考えているんです。

レベル1が天気の話や近所のおいしいパン屋さんの話など。レベル2が噂。“2丁目の◯◯さん、今、仕事が大変らしいわよ”といった話題。レベル3が仕事の話。ママ友の間では、“事務をやっています”や“出版関係です”くらいで詳しく仕事の話をしない場合も多いです。そんな中で、どのような仕事で、どんな役割を担っているのかなどの話題ができること。

レベル4が“こんな資格取得に挑戦しようと思っていて”“転職しようと考えている”といった自分が挑戦しようとしていることです。完成していない自分をさらけ出せたり、できていないことを言えたりすることがポイントです。そして、レベル5が自分の価値観や信念について。たとえば、“こんなことを大切に生きている”“人生においてこれを大切に生きたい”などの話です。

大半の人はコミュニケーションは取っているものの、レベル1やレベル2で終わってしまうことが多いため、つながった感覚を得ることができません。それどころか、誰かと話をして、かえって疲れてしまうケースもありますよね」

下向 「“つながったふう”で終わってしまうのでしょうね。SELでは、特にソーシャルスキルの部分で、人と信頼し合いながらつながって生きていくことが重視されています。心理学では、この信頼関係を構築することを“ラポール形成”と呼び、そこにも5つの段階があるといわれています。

1段階目が“警戒”。相手が敵かどうか見極めているようなフェーズです。2段階目は“疑心”。攻撃はしてこなさそうだけれど、どんな存在なのかわからないので自分からは踏み込んでいきません。3段階目は“親和”。自分の大切にしていることなどを言い合える関係性です。4段階目は“信用”。この段階になると、何か意見が違っていたとしても言い合える存在になっていきます。そして、5段階目が“信頼”。相手に対して、謝罪や感謝を率直に伝えられる関係性です。たとえ、相手に不利益になるようなことでも素直に話し合うことができます。

岩田さんのいうレベル1や2のコミュニケーションでは、“警戒”や“疑心”から抜け出せていないですよね。だから、心安らぐどころか疲れてしまう。忖度なく自分が不都合なことでも話せるようになったり寄り添い合うコミュニケーションを取れるようになったりすると、関係性が深まっていきます。

――踏み込んだ関係性を築けず、悩んだり孤独が埋まらなかったりする人も少なくないように思います。

下向「そもそも、そこまで深い関係性の領域が存在すると思っていないケースもあるように思います。あるいは、子どもたちに多いのですが、少し踏み込んだ関係性になることに対して、“面倒くさい”“ダルい”と感じている人もいます。その結果、家族とも友達ともレベル12の会話しかしていないことも少なくありません。

岩田「誰とでも信頼関係を築いて、レベル5の話をできるようにしろということではなく、“この人ならば”という特定の誰かを見つけられるといいですよね。また、少し踏み込んだ話をしてみて、“あれ? やっぱり違うかも?”と思ったら、元のレベルに戻せばいいんです」

下向「おっしゃる通り、“誰とでも仲良くしろ”ということではないと思います。それに、“この話題には触れられたくない”と思ったら、それを排除するという選択肢は誰しもが持っています。“この人とはこんな関係性を築いていきたい”と選び取っていくことは、自分のウェルビーイングを実現する上で大切なスキルではないでしょうか」

岩田「無理をしながら付き合えば、そのひずみが家庭など親しい関係に出てしまいます。毎日、イライラしたりキリキリしたりしていては、親子関係にもパートナーシップにも悪影響を与えてしまいます」

下向「自分の機嫌は、パートナーや子どもにどんな影響を与えると岩田さんは思いますか?」

岩田「上司と部下の関係性で考えるとわかりやすいのですが、上司がいつもイライラしていたり軸がなくておろおろしていたりしたら、部下は仕事で挑戦して高いパフォーマンスを上げようと思うでしょうか。

イライラしていたり、おろおろしていたりする人が近くにいるだけで、エネルギーが目減りすると思いませんか。数値としてエビデンスが出ているわけではありませんが、イライラしてる人からは“ちょっと離れておこうかな”と思う人も多いのではないかと思うんです」

「イライラしている人からはちょっと離れようかな、と思う人は多いですよね」と語る岩田さん。

「観察」と「ノンジャッジメンタル」から関係性が始まる

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――他者とよい関係を築いていくには、相手についての理解も必要だと思います。そのためのポイントはありますか。

下向「相手を理解するためには、“観察”と“ノンジャッジメンタル”が必要だと考えています。その人がどういう発言をしていたか、どういう行動をとっていたかを観察して、点と点を結んで“こんなことに悩んでいるのかな”“これを大切にしている人なのかな”といった見立てをします。また、観察だけでなく、率直に本人に聞くことも大事です。

とはいえ、その人と過ごすのはほんの一瞬です。懸命に観察したとしても、本人の一部分しか見えていない。そのため、私が“こんな人だろうな”と感じたとしても、それはただの思い込みで、全く異なるリアリティを持っているかもしれないんです。

たとえば、前回会った時の印象と全く違っていたり、“あの人、すごく自己主張がはげしくてワガママなんだよね”と噂で聞いていたのに、実際に会って話してみると“すごく相手に気を使える人だな”と思ったりすることがあります。だから、自分の思い込みは一旦脇に置いて、ノンジャッジメンタルで向き合ってみることで相手の理解を深めることができます」

岩田「現代人は思考優位になりすぎているんですよね。最近、もっと感覚優位に戻っていくことが重要なのではないかと思うんです。先ほどの下向さんの話でいうと、“誰かがこう言っていた”ということではなく、自分がその人と接してどう感じたかを大事にする。自分の感覚を優先する

 “こういう人なんだな”と自分の感覚を大事にしながら、個々の違いを受け止めていけるといいですよね」

「グラデーションマッピング」で思考のトレーニング

【図】グラデーションマッピング。

下向それぞれの違いには“良い・悪い”はなく、“この人には、こういう特性があるんだ”ということを理解していけるといいですよね。

それを体感するために、中高生と『グラデーションマッピング』というワークをすることがあります。特に10代の頃は発達段階的に、自分と違う感覚や特性を持つ人を警戒する傾向があります。“キモい”と言ったり排除したりしようとするジャッジメントが生まれやすいのです。『グラデーションマッピング』はそうしたジャッジメントを解くワークですが、職場やママ友同士など複数人で実践してもおもしろいと思います。

 『グラデーションマッピング』は、右端が“全く問題なし!(完全にイエス!)”、左端が“絶対に無理!(完全にNG!)”として、提示されたお題に対して、自分が当てはまる位置に動きます。“グラデーション”なので、「どちらともいえる」と思えば真ん中に立ち、“どちらかといえばイエスかな?”と感じれば右側寄りに立ちます。

 たとえば、最初はライトなお題で、“バスタオルを2日以上使うかどうか”などはおもしろいかもしれません。右側には“毎日洗う意味がわからない!”という人が立ち、左側には“絶対に毎日洗う!”という人が立つ。“あまり気にしたことなかったなぁ”という中間タイプもいるでしょう」

岩田「2日以上は余裕。でも、ママ友同士で行ってみると、みんなが周りを気にして“毎日洗う”に行きそう(笑)」

下向「私が進行をするのであれば、『“こういうふうに見られたい”という位置に立ってください』というお題も挟むかもしれませんね。それを受け止めた上で、“実際はどうか”で並び直してもらう。見られたい自分がいることは決して恥ずかしいことではないというノンジャッジメンタルを体感できる機会にも繋がるはずです」

岩田「“自分と他者が異なる存在なのだ”ということが目に見えてわかりますね。私は社会で幸せに生きていくためには、“自分の感情をどう扱うか”や“他人とどう関係性を築いていくか”が大事だと感じていて。そのためにはIQよりも、心の知能指数ともいわれるEQが欠かせないと思ってきたんです。IQが全くいらないというわけではないですが、それが幸せに直結するかというと、そこには疑問を抱いていました。SELは私の考えてきたことが体系化されていて、興味深かったです」

下向「SELはこれまで身近にあったアプローチなどを束ねて、名前を付けて、背景を整理したものともいえます。岩田さんのご経験や内省の中から見出してきた取り組みとリンクすることができ、非常におもしろかったです」

誰もが抱えている人間関係の悩み。そこに蓋をするのではなく、まずは自身の感情に気づき、心地よい関係性へと進んでいく一歩を踏み出してみませんか。その中で、ぜひ今回ご紹介したアプローチを試してみてください。

【まとめ】自分の気持ちに気づくには

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  • 自分の気持ちに気づくためには、ノンジャッジメンタルが欠かせない。
  • コミュニケーションには深度があることを理解し、使い分ける。
  • 思考優位の状況から感覚優位に転換させる。
左から岩田かおりさん、下向依梨さん。

岩田かおり(左)

家庭教育コンサルタント/株式会社ママプロジェクトJapan代表
幼児教室勤務を経て、「子どもを勉強好きに育てたい!」の想いから、独自の教育法を開発。ガミガミ言わず勉強好きで知的な子どもを育てる作戦『かおりメソッド』を全国へ展開中。3人(12女)のママ。
小学校、幼稚園、保育園での講演会多数。第5回ワーママオブザイヤー2018受賞。著書に『「天才ノート」を始めよう!』(ダイヤモンド社)がある。

下向依梨(右)

株式会社roku you代表。大阪府生まれ。慶應義塾大学総合政策学部へ入学後、社会起業家について研究。在学中に、社会起業家育成のパターン・ランゲージを開発、出版。その後、米国・ペンシルベニア大学教育大学院で発達心理学において修士号を取得。帰国後は東京のオルタナティブスクールに勤務。2019年に株式会社roku youを沖縄県にて設立、代表取締役に就任。SELSocial Emotional Learning /社会性と情動の学び)を基軸に、全国延べ100校以上の学校改革や総合的な探究の時間に関わる。『21世紀の教育 子どもの社会的能力とEQを伸ばす3つの焦点』(ダニエル・ゴールマン、ピーター・センゲ、 井上英之 (監修, 翻訳)/ダイヤモンド社)の解説を担当。一児の母。
https://www.roku-you.co/

『世界標準のSEL教育のすすめ 「切りひらく力」を育む親子習慣 学力だけで幸せになれるのか?』

『世界標準のSEL教育のすすめ 「切りひらく力」を育む親子習慣 学力だけで幸せになれるのか?』(著・下向依梨、税込1,760円、小学館)

次世代の教育として世界的に注目されている「Social Emotional Learning(SEL)」は、社会性と感情のスキルを伸ばす教育アプローチです。本書では、家庭でのSEL実践方法を具体的に紹介。SELを基軸に全国100校以上の学校改革に携わってきた著者が、家庭で簡単にできる方法をお伝えします。

公式サイト

取材・文/佐藤智、撮影/五十嵐美弥(小学館)

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