その名の通り、魅力的な庭園が広がる美術館
null「目黒駅」から徒歩7分、または地下鉄「白金台駅」からも徒歩6分で行ける『東京都庭園美術館』は、その名の通り庭園も美しい美術館です。
現在、一部整備中で入場できないところもありますが、紅葉が色づく日本庭園や開放感あふれる芝生の庭はのんびりと過ごせる心地よい場所。冬の日でも天気がよいときは日向ぼっこをして暖まれます。
ちなみに、美術館に入館しなくても100円を払えばお庭だけを楽しむことも可能。100円とはいえ有料のためか、いつもゆったりとした空間が広がっています。
1900年前半の最先端「アール・デコ」の意匠を味わえる建物
nullお庭も素晴らしいのですが、やはり見ておきたいのが美術館とその建物!
じつはこちらの美術館は、もともとは旧皇族・朝香宮(あさかのみや)夫妻の邸宅として建設されたもの。
専門的な言葉で言うと、1920年代にピークを迎えたデザイン様式“アール・デコ”の意匠をたっぷりと取り入れています。
朝香宮家は、久邇宮朝彦親王(くにのみや あさひこしんのう)の第8王子である鳩彦王(やすひこおう)が創立した宮家。
鳩彦王は1922年からフランスに留学していましたが、現地で交通事故に遭遇。看病で渡欧した允子内親王(のぶこないしんのう)とともに、1925年までフランスに長期滞在することになりました。
当時、1900年代前半のフランスは“アール・デコ”の全盛期。
流行に敏感だった朝香宮夫妻は、現地で建築や家具・工芸など最先端の様式をたっぷりと見てまわり、帰国後に自邸の建設にあたってアール・デコの意匠をふんだんに取り入れた邸宅を計画。1933年に現在の建物が竣工しました。
けれども第二次世界大戦が終わり、1947年に鳩彦王は皇籍を離脱。その後、紆余曲折があって1983年に美術館となりました。
内部の改造はわずかだったため、現在も竣工当時の建物と当時の流行の最先端を感じることができます。2015年には国の重要文化財に指定されました。
内部も見どころ満載! ここだけの「ルネ・ラリック」の扉も
nullということで、美術館は正面玄関から内部まで見どころがたっぷり。
まず目に飛び込んでくるガラスのレリーフ扉は、現在も人気が高いフランスのガラス工芸家、ルネ・ラリックの作品。
この扉は朝香宮邸のために特別にデザインされたもの。世界でもここでしか見られません。
そして床のモザイクも美しい!
各部屋ごとに意匠に特長があるので飽きることがなく、当時の装飾と様式美を堪能できます。
ランプやラジエーターグリル(ラジエーターの通風口の役割をするカバー)など、部屋の細部だけをつぶさに見ていくのも楽しいですね。
当時の宮家がどんな生活を送っていたのかにも、思いを馳せることができる場所です。
2014年には、現代美術作家の杉本博司がアドバイザーとなった新館もオープンしました。
新館と休館をつなぐアプローチは、デザインに特化した職人集団・三保谷硝子店(みほやがらす てん)制作の波打つガラスが印象的。
正面玄関のルネ・ラリックと同じガラス作品とは思えないほど、趣きが異なっています。
展覧会によって、美術館内部の写真撮影がOKになることも!
nullちなみに、現在開催中の「装飾は流転する」展(2018年2月25日まで)は、写真撮影ができる展覧会。美術館の装飾と作品とを一度にカメラにおさめることができますよ。
上述のアール・デコ空間に作品が加わると、通常とはまた違った雰囲気になります。大客室は、7組の作家作品と建物が双方を引き立てあう空間に。
会期中は戸棚や本棚などにも作品が隠れていますので、お子さんと一緒に探してみるのも楽しいかもしれませんね!
自由に過ごせる「ウェルカムルーム」もたのしい!
nullそして、もうひとつ『東京都庭園美術館』のよいところは、ウェルカムルームがあること。ここは同美術館の建築や展覧会を、よりいっそう楽しむための手がかりが集まっている部屋です。
ウェルカムルームでは、中にあるものを自由にさわることができ、おしゃべりもOK。
もし子どもが、美術館の独特な雰囲気にちょっとびっくりしてしまったら、展示室に行く前にまずはこちらでリラックス。これから観てまわる美術館を材料に楽しんで、ワクワク感を高めていきましょう。
「さわる小さな庭園美術館」は、その名の通り“さわれる”美術館の見取り図。子どもと一緒に、館内を観る前の予習(?)ができてしまいますね。
旧朝香宮邸に使用されている木やガラス、コンクリートなどの素材をさわることもできます。“素材のかたまり”はそれぞれ、ひんやりしていたり、逆に暖かかったり、すべすべしていたりと、感触はいろいろ。
美術館の建物が何でできているかを知ると、大人も子どもも、建物そのものをもっと知りたくなってくるはず。「さっきさわったガラスと同じだね」などと話しながら館内を歩けば、子どもも興味を持って観てまわれるでしょう。
また、展覧会に合わせて用意されている“遊べる展示”は、展覧会を観終わった後に立ち寄って遊ぶのがおすすめ。その間、大人は少し休憩できますね。
どのように使ってもよい部屋なので、たとえばご夫婦で子どもを連れて美術館を訪れ、自分だけ少し時間をかけて展示を見たいときには、パートナーとお子さんに一緒にウェルカムルームでのんびり待っていてもらうこともできます。大人向けの関連書籍なども充実していますよ。
ちなみに、『東京都庭園美術館』と隣接する『国立科学博物館 附属自然教育園』も、「ここが東京都港区!?」と驚いてしまうほど自然にあふれた公園。
美術館を楽しんだ後に、自然と戯れる休日なんていかがでしょうか?
【DATA】
『東京都庭園美術館』
東京都港区白金台5-21-9
開館時間:10:00~18:00(最終入館17:30)
休館日:毎月第2・第4水曜日(祝日の場合は開館、翌日休館)/年末年始
最寄り駅:
JR山手線「目黒駅」東口/東急目黒線「目黒駅」正面口より徒歩7分
都営三田線・東京メトロ南北線「白金台駅」1番出口より徒歩6分
大切な鑑賞ポイント! 建物や空間ごと楽しめる美術館
null人が髪型やメイクで印象が変わるように、芸術作品も壁の色や額縁、置かれている場所が変わると見え方が異なってくるもの。美術館において、空間や建物は大切な鑑賞ポイントなのです。
ということで、今回ご紹介した『東京都庭園美術館』のように、名だたる建築家によって設計された“建物そのもの”にも見どころがある美術館をピックアップしてみました。
『国立西洋美術館』 設計:ル・コルビュジエ+前川國男
近代建築の祖、ル・コルビュジェが設計した本館と、弟子の前川國男による新館の2つはモダニスム建築の素敵な建物。世界遺産にも指定されました。
『21_21 DESIGN SIGHT』 設計:安藤忠雄
打ちっぱなしのコンクリートの格好良さを世界に広めた安藤忠雄の作品。大きな三角屋根の外観もインパクトありです。
『国立新美術館』 設計:黒川紀章
ガラスがうねる外観と、中に入ったときの巨大な吹き抜けが印象的な黒川紀章の晩年の作品。館内にある、自由に座ってよい椅子はどれもデザイナーものです。
『根津美術館』 設計:隈研吾
青山の崖べりにある日本・東洋の古美術専門の美術館。大きな屋根、入口までのアプローチなど、隈研吾が得意とする和モダンの世界に浸れます。
『ちひろ美術館・東京』 設計:内藤誠
【子どもと楽しむ美術館】Vol.1で紹介した『ちひろ美術館・東京』は、内藤誠による設計。全館バリアフリーなので、ベビーカーで訪れてもストレスなし!
『原美術館』 設計:渡辺仁
銀座の老舗百貨店『和光』などを設計した昭和の建築家・渡辺仁が住居として設計した建物を使用。現代美術専門の美術館です。
品川にある『原美術館』は、当初は住居として使われていたなど『東京都庭園美術館』と似たところがあるので、ハシゴして建物や館内のデザインを見比べてみるのもオススメですよ。
(※情報は2017年12月現在のものです)
【参考】
※ 国立西洋美術館
※ 国立新美術館
※ 根津美術館
※ 原美術館