昨年保育士からステージを新たにした井桁さんは、非営利団体「コドモノミカタ」の代表理事を務めています。保育士時代から縁の深い保護者や保育者が有志で集い運営している団体で、そのワークショップに筆者も参加してきました。
ワークショップで学んだ中から、1回目にお伝えしたのは「辛くならない子育て」のヒントについて。今回は「思春期を見据えた乳幼児期からできる子育て」について、kufura読者の皆さんとシェアします!
4才でも抱えている、子どもの秘密に気づいてる?
nullワークショップのテーマは『子どもの心の秘密~信頼できる大人であるということ』。
井桁さん曰く、子どもの心にあることで大人にわかってもらえないことが“心の秘密”になってしまうそうです。
その秘密を最も抱えているのが思春期なのですが、幼児期でも秘密を抱えてしまうことがあることを先生の保育士時代のエピソードで紹介してくれました。
子どもの心に生まれた、小さな、うまく言えない秘密
下の子が生まれてモヤモヤした気持ちを抱える4歳の園児のお話です。
イライラしてるお母さんとの関係に悩んでいることをこっそり友達に相談していたものの、お母さんのイライラした様子が変わらないので、夜になると暴れてみたり、ついには「お母さんとは暮らせません!」と宣言するほどに。
そこでお母さんが「もしかして、ママのこと独り占めしたかったの?」と聞いたら、とてもとても戸惑って、ようやく、「そうかも!」と胸の内を言えたそうです。
わずか4才で、母に知られないように友達に相談するいじらしさ! そして、うまく言葉にできないけれど心にたまっていたものがあったんですね。
井桁さんは「困っていることをしまいこんで平気なフリをしていることが、幼児期にもあるんです。なので、子どもの気持ちをわかっていないのにわかったフリをするのは、とても罪深い」ときっぱり。
忙しくて適当に相槌を打ったり、子どもの気持ちを決めつけてピシャッと叱ったりしていると、子どもがどんどん秘密を抱えてしまう怖さを感じました。
筆者の8才の息子が近ごろ何かと反抗的なので、叱り口調でやり返してしまう現状報告をすると「抑えつけないで吐き出させてあげないと、思春期にバリアを張られちゃいますよ」と。肝に銘じます!
目を合わせる&スキンシップの経験を、幼いうちにたくさん!
null参加者の中には思春期の子どもを持つお母さんもいて、
「胸がえぐられるような状況だったのですが、前回のワークショップに参加して、固まっていたものゆるんだ感じがしました。すぐには状況は変わらないけれど、私自身の気持ちに余裕ができると、子どもも笑顔で返してくれたり普通の会話ができるようになりました」
と胸をいっぱいにして感想を話していました。
そんな思春期の子どもとのやりとりを聞いて、井桁さんは「思春期の子どもを抱えているときほど大変なことはないですよね。目を合わせようと思ってもそらされてしまったり……。その時が来る前に、目を合わせたり体を触ったりという意識を子どもに残しておくことが大事だと、小さなお子さんがいる方にアドバイスしてきました。
お父さんやお母さんがケータイやスマホをいじりながら子どもの話を聞くというのは、大人にとっては子どもの遊び場を探すとか育児グッズを探すとか(スマホを使う)理由はあるのかもしれませんが、子どもにとってはお父さんやお母さんが他のものに夢中だという状況には間違いないですよね。目を合わせることは、心を育てるために必要なことなんです」
「片付けは?」「宿題は?」なんて言うときばっかり目を合わせていた(というか、目で威嚇!?)ことを反省……。スキンシップができるのは子どもが幼い今だけ。我が家の男子ふたりが思春期を迎える前に、たっぷり実践したいと思いました!
幼児期でも思春期でも、大人が子どもの気持ちに近づける方法は?
null「大人って、自分が“元・子ども”であることをすっかり忘れて、偉そうなことを言ってしまったり、子どもの気持ちを決めつけてしまうんですよね。”いま目の前にいる子どもはちょっと前の私だし”と思えば、子どもの気持ちに近づけるし、幸せな子どもが増えるんです。
思春期だって、自分の時のことをを思い出せばもう少し優しくできると思いませんか?」と井桁さん。
ワークショップには、子どものころを思い出して“元・子ども”を意識できる仕掛けがたくさんありました。
受付でネームシールに書いたのは、“子どものころに呼ばれていた名前”。その名前で呼び合いながらボールを投げてはキャッチしあうメニューがあったり、グループワークでは「子どものころを思い出して、大人との関わりで悲しかったことやうれしかったこと」について語り合いました。
筆者が参加しグループでは、
「5才のころに黄色い花にとまる黄色いちょうちょを作ったら、ちょうちょが目立たないから青で塗り直しなさいと言われた」
「激しく泣く子どもだったけど、おばあちゃんは“泣き虫チャンピオンになったらいいよ”とそっと隣に座ってくれていた」
など”あるある”エピソードがあがり、子ども時代の思い出をグループで共有する中で「大人の価値観で決めつけないで、ゆったり見てあげればいい」と確認しあうことができました。
秘密を話せる相手は親でなくてもいい。子どもが求めている大人って?
null秘密を抱えた子どもが、どんな風に育っていくのか……。井桁さんが福島の母校で行った講演後、高校生からは、親には素直に言えないけれど辛かった胸の内を明かす想いや、心が動いたことを伝える感想が寄せられたそうです。
「いまの高校生は、皆と比べられて皆と同じふりをしてきたことを辛く思っていると感じました。一方で、テストの点数や進学先のことで常にランク付けされていて、そんな中では、自分の心はしまっておかないと死にたくなってしまうくらい辛いんですね。
私の講義に”いちばん大事な心についての話だった”と感想をくれた高校生もいました。いま子どもが思っていることに寄り添えるのは、必ずしも親でなくてもいいんです。たくさんのことを教えてくれようとする大人よりも、心をこめて接することができる大人と関われることが大事なんです」
自分の子育てだけで精いっぱい!と思う日々ですが、我が子の子育てを通して”親として”だけでなく、”信頼できる大人”として成長していくことも必要なんだと、新たな気づきがあるお話でした。
次回は、「個性をのばす子育て」について。AIが進化する中で多様性を重視する教育が注目されていますが、実際子どもとどんな関わり方をすればいいのかお伝えします。
【取材協力】
井桁容子(いげた ようこ)
2018年3月まで保育士として東京家政大学ナースリールームに42年間勤務。現在は、乳幼児教育実践研究家として、全国での講演のほか『すくすく子育て』(NHK、Eテレ)への出演や『いないいないばあっ!』(NHK、Eテレ)の監修も行う。著書は「保育でつむぐ子どもと親のいい関係』(小学館)など多数。また、2018年6月に立ち上げた“子どもから学び、豊かに生きる”をテーマにした非営利団体『コドモノミカタ』の代表理事を勤めワークショップを開催するなど、保育士からステージを移した後も精力的に活動している。
撮影/菅井淳子