「私はこうしました。皆さんはどうですか?」
nullこの本は、2023年の発売から2年以上経ったいまも、全国各地で読書会や講演会が開催され、「この本に出会えてよかった」「友達にも勧めたい」と多くの反響をもらっています。
読書会では、ご自身の子育てを思い返したり、自分の母親を思い出したりして涙ぐむ方も……。なぜこの本が多くの方の心に届くのか、著者・佐藤友美(さとゆみ)さんに改めてお話を伺いました。
―この本には、「これまで子育て本は苦手だったけれど、この本は楽しく読めた」「出産した友人にもプレゼントした」などの感想が、多く寄せられているそうですね。
「読書会ではその場で時間をとって本を読んでいただくことも多いのですが、くすっという笑い声が聞こえたり、涙ぐむ方がいらしたり。みなさん、ご自身の経験と引き合わせて読んでくださっているのかもしれません。
読者の方から“内容が優等生っぽくなくて気がラク”とも言われます(笑)。“母親はこうすべき”“育児はこうあるべき”ではなく、“私はこうしました。皆さんはどうですか?”というスタンスで書いているので、気軽に読めるのかもしれません」(「」内さとゆみさん。以下同)
―一般的に言われている「母親ならこうするべき」や「普通はこうする」は気にならなかったのですか?
「そうですね。育児に限らず、“こうするべき”と考えることはあまりないかもしれません。
私は24歳からフリーランスとして働いています。当時はフリーランスで働くことは一般的ではなかったですし、正社員のほうが安定していると考えられていたと思います。それでも、フリーランスになることには迷いがなかったんです。
結婚についても、最初の夫は18歳年上、再婚した夫は7歳年下でした。もともと、“世の中の普通”とされていることを、あまり気にしないタイプなのだと思います」
―読者の方たちの中には「親なんだからこうあるべき」という無言の空気の中、子育てを苦しく感じている方もいると思います。
「育児そのもののプレッシャーは、私はあまり感じなかったですね。むしろ、出産までのほうがしんどかったです。高齢出産だったこともありますし、切迫早産で入院し、点滴を受けていた時期もあります。
子どもがお腹にいる間は“私が転んだら、この子も転ぶ”“私が死んだら、この子も死ぬ”とずっと不安で、“この子を守れるのは私しかいない”という緊張感が強かったんです。
でも、産まれた瞬間、やっとリリースした! と(笑)。もう大丈夫。この子は私とは別の存在なんだ。ここから先は、私がいてもいなくてもこの子は生きていけると思ったら、心からホッとしたのを覚えています」
―そうなんですか! 産んだ後の方が「どう育てよう」とプレッシャーを感じる方が多いような気がします。
「私はそうは思わなかったんですよね。私にしかできない一番重要な仕事=産むことはひとまず終わったと感じました。“これからは世間の皆々様の助けを借りていこう!”と気が楽になりました。
私と夫の場合は状況的に、私が中心になって育児をすることになるだろうと思っていました。でも、それが“母親の義務だから”とは考えなかったです。誰がミルクをあげても、誰がオムツを替えても、子どもは育つ。そう思っていたので、母親である私じゃなきゃダメとは思いませんでした」
―たしかに、そうなんですよね……。でも実際には、母親が“子育ての色々”を背負ってしまうことがまだまだ多い。
「これは極端な話ですが、出産時に母親が亡くなってしまう悲しいケースもあります。その場合でも子どもは生きていく。そう考えると、育児は母親にしかできないわけではないですよね。
私はたまたま健康で、育児ができる状況だからやっているだけ。私じゃない誰かが育てても、子どもはちゃんと成長すると考えていました。だから、私だけがこの子の将来を背負っているというプレッシャーはなかったように思います」
―たしかに。では、さとゆみさんが考える“子育てで、これだけは責任をもたなくては”は、どんなことでしょう?
「もちろん、“子どもを生かす責任”はあると思っています。たとえば、必要な栄養を与える、事故に気をつける、社会のルールを教えるとか。
でも、それは“母親の責任”というより、“親の責任”だし、“身近な大人の責任”でもありますよね。たとえば、道路に飛び出しそうな子がいたら“危ないよ!”と止めます。それは、自分の子でも他人の子でも変わらないと思うんです。
“自分の子だから”というわけではなく、一番身近な大人としてできることをする。 それが、私の考える親の責任かもしれません」
そんな考え方があるんだ!
nullこの本の中には、
「大変も幸せも、両方あって、おおむね幸せ。話すほどでもない幸せは、ちゃんとある。」
というフレーズがあります。
― さとゆみさんが、子育てをしていて、楽しいのはどんな時ですか?
「ずっと、この子が生まれて来てくれて良かったと思ってますし、毎年いまが一番楽しいと思っています。うーん、なんで楽しいのかな。異文化コミュニケーションをしているみたいな部分でしょうか」
―異文化コミュニケーション?
「ええ。私は留学経験はないんですけど、留学ってこんな感じかなと思いながら子育てしています。異国の文化に触れると、そんな考え方があるんだ!と驚きがありますよね。子どもとの日々は、それと同じ感覚。
私とはまったく違う世界を生きてるんだなぁ と思う場面がたくさんあります」
― それは、例えばパートナーや大人と一緒にいるときとは、違うものでしょうか?
「大人同士でも価値観の違いを感じる場面はありますが、子どもとのほうが、その振れ幅が圧倒的に大きいんです。大人同士なら、考え方が違っても言葉が通じるので、話し合えばある程度は理解し合えますよね。でも、子どもは共通言語を持つコミュニケーションから始まる。
“どうしたいの?”“何を伝えたいの?”と、ゼロから探っていく感じ。まさに、言葉の違う異文化の相手とコミュニケーションをとる感覚でした」
―息子くんは今、中学生ですよね。その関係は、少しずつ変化してきましたか?
「成長しても、やっぱり変わらないです。大人同士なら、ある程度共通の常識があるじゃないですか。忖度もある。だけど子どもと私の間にはそれがほとんどない。だから、成長した今のほうが考え方の違いに驚くし、それがすごく楽しいですね。
連載時終了時には5年生だった彼も、もう中学生です。いろんなことを教わっています。
いま、一緒に生活していて毎日が本当に楽しいんですよね。生まれる前には想像していなかった楽しさだなあとホクホクしています」
ライター/吉田ゆか

【トークショー(8月19日)が開催されます】
『ママはキミと一緒にオトナになる』の著者さとゆみ(佐藤友美)さんが、『父の恋人、母の喉仏』の著者・堀香織さんと一緒にトークイベント「家族を書くことのミステリー」を行います。
日程 :2025年8月19日 (火)
会場:青山ブックセンター 本店
時間 :19時〜20時30分(開場:18時30分)
料金 :1,650円(税込)
お申し込み:青山ブックセンター