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「子育ては辛いもの」という呪い【ママはキミと一緒にオトナになる#48】

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コラムニスト・ライターとして活躍する佐藤友美(さとゆみ)さんが、11歳の息子との会話を通して見えてきた新しい景色、新たな気づきなどを伝えてくれる連載エッセイの第48回。

「いつかは産みたい」と思っているなら

「子どもを産むのが怖いんですよね」と、その人は言った。

私のことを取材してくださった、ある女性の言葉だ。フリーランスとしての働き方や、子育てと仕事のバランスなどについて聞かれていた時だったと思う。

30歳になったばかりという彼女は、
「子どもが欲しいとは思っているけれど、どのタイミングで産めば良いのかわからない。仕事に戻れなくなったらどうしようと、考えれば考えるほど産むのが怖くなってしまう」
と言った。
そしてそれは、彼女だけではなく、同世代の友人たち共通の悩みであるという。

確固たるポジションを築いてから産んだほうがいいのか。
それとも、若いうちに産み育て、その後にキャリア形成したほうがいいのか。
お金のことも心配だ。ある程度の貯金をしてから産んだほうがいいのか。
でも、高齢になると不妊治療も視野に入れなくてはいけないかもしれない……。

ネットで検索をすると、子育ての大変さばかりが取り上げられている。子育てと仕事の両立。自分にそんなウルトラCができるのかわからない。不安が先立って、妊活にのぞめない。

そんな話を聞いていて、なんだか悲しくなってきた。
産みたいと思っている人が、前向きに考えられない。そんな国、切なすぎる。

大丈夫だよ、なんとかなるよ、なんて無責任なことは言えない。
とりあえず、「いつかは産みたい」と思っているのであれば、毎日基礎体温をつけておくと良いですよとだけ伝えた。

子育ては本当に修羅の道か

彼女だけではない。

最近、働き方と子育てについて取材を受ける機会が何度かあったのだけれど、「あれ?」と感じたのは「子育ては辛いもの」「仕事との両立は(主に)母親の忍耐の上に成立するもの」という前提で取材の質問が組まれていることだ。とくに、若い女性が読む媒体で、その傾向が強い。

前に、妊娠した女性にかけられる「呪いの言葉」について書いたことがあるけれど(連載vol.27 「世界を柔らかく包む言葉」)、
もっと前段階、出産前の状態から、女性たちは「子育ては辛いもの」という呪いと闘っているのだ。

それだけではない。
「こうすべき」といった育児論の多さも、彼女たちを苦しめているように感じる。

先日も、
「母親が子どもに“ありがとうは?”と問いかけ、子どもに“ありがとう”を強制的に言わせるのは、いかがなものか?」
といった記事がずいぶん話題になっていた。いやほんと、放っておいてあげてよ。どれだけ人の子育てに非寛容なのか、と暗澹とした気持ちになった。

自分自身も辛い、周りからも厳しいコメントを寄せられる。そんなやりとりを毎日見ていたら、そりゃ、子育て=修羅の道になってしまうなとも思う。

そういう「子育ては修羅の道」前提で取材をしてくださっている方々に、でも、やっぱりあえて伝えたいのは、
「そりゃいろいろ大変なこともあるだろうけれど、おおむね幸せに、子どもがいる人生が楽しいなあと思っている人たちも、結構いると思いますよ」
ということだった。

いや、もちろん、今現在も子育てが辛くて悩んでいる人もいると思う。そういう人たちには、救いの手があってほしいと切に思う。

でも、本当に「そういう人ばかり」なのだろうか。
とくに、私たち、メディアにいる人間は、ネットの中の声だけではなくて、もっと身近な人たちの声を聞いたほうがいいのではないだろうか。

たとえば、息子の小学校の同級生を見渡しても、きょうだいがいる子が多い。
子どもを産み育てることが辛くて辛くて修羅の道だったと感じる人たちばかりだったら、世の中は一人っ子だけになるだろう。そうじゃないということは、2人目、3人目が欲しいと思うほど、子育てが楽しかった人たちがいるということだ。

そういう、ささやかな幸せは、あまり話題にならないし、現状に比較的満足している人たちは、わざわざ声を大きくして、主張もしない。

大変も幸せも、両方あって、おおむね幸せ。
話すほどでもない幸せは、ちゃんとある。

話すほどではない幸せ

先日、あれは何かの行事の帰り道だったと思うけれど、同級生の子どもと親たち何人かで、ラーメン屋に行った。
子どもたちが、メニューを見て相談しながら、わちゃわちゃと好きなものをオーダーしている様子が可愛い。思わず「可愛いなあ」と言ったら、隣で同じように「可愛いねえ」と言ったママと、声がかぶった。「あはは、親バカっぽかったね」と笑いあったけれど、たとえば、そんな幸せがある。

つい最近は、「ママ、疲れてる?」と息子に聞かれたので「ああ、ちょっと仕事で失敗しちゃったんだよね」と言ったら、「どんなふうに?」と尋ねられた。
その状況を話したら、彼は「そうか。それは悲しかったねえ」と、私に言ったから、驚いた。お前はモテ男か! と心の中で突っ込んだ後、ふいに泣きそうになった。この子、優しいなあ、いつの間にこんなに大人になったんだろうと、思ったからだ。
たとえば、そんな幸せとか。

やっぱり、わざわざ書くほどのことでもない。
書くほどのことでもないけれど、そんな幸せがあるんだということも、取材のときには、ときどき話をしたいなって思ったのでした。

子育ては、何かと闘うだけのものではないのだ。

 

画・中田いくみ タイトルデザイン・安達茉莉

◼︎連載・第49回は8月21日(日)に公開予定です。

プロフィール

佐藤友美(さとゆみ)
佐藤友美(さとゆみ)

佐藤友美(さとゆみ)
ライター・コラムニスト。1976年北海道知床半島生まれ。テレビ制作会社のADを経てファッション誌でヘアスタイル専門ライターとして活動したのち、書籍ライターに転向。現在は、様々な媒体にエッセイやコラムを執筆する。
著書に8万部を突破した『女の運命は髪で変わる』など。理想の男性は冴羽獠。理想の母親はムーミンのママ。小学5年生の息子と暮らすシングルマザー。

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