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世界を柔らかく包む言葉【ママはキミと一緒にオトナになる vol.27】

コラムニスト・ライターとして活躍する佐藤友美(さとゆみ)さんが、10歳の息子との会話を通して見えてきた新しい景色、新たな気づきなどを伝えてくれる連載エッセイの第27回。今回は、身近な妊婦さんたちがかけられている、色々な言葉から感じたこと。

「子育て大変だよ〜」

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大切な友人たちが続々と呪われている、という話をしてもいいですか。

今、周囲に妊娠中の友人が多い。全員歳下で、だいたい一人目の妊娠だ。
そんな友人たちから、立て続けにこんな話を聞いた。

「妊娠したと伝えると、会う人会う人に『子育て大変だよ〜』って言われてめっちゃブルーなんですけど、あれなんなんですか!(怒)」

え、そんなことある?
私、妊娠したとき、そんなこと言われたことなかったけどなー、と思って話を聞いていたら、

「こっちは、大変だろうというイメージを持って子どもを作ったんですけれど、それに追い討ちをかけるように、『いやいや、想像以上に大変だよ』って言うんですよ」
とか
「『生んだら自分の時間なんて全然ないから、今のうちにやりたいことは全部やっといたほうがいいよ』と言われて、落ち込みました」
とか
「せめて、『大変だけど、楽しいことも多いよ』とか言ってくれればいいのに」
とかとか……。

よく聞くと、そういう「一見アドバイスに見えるけど、当人にとっては呪い以外のなにものでもない」言葉をかけてくる先輩ママたちは、1人や2人じゃないらしい。

うーん。辛い。
そんなことを何人もの先輩ママから言われる彼女たちも辛いだろうけれど、そんなことを後輩に言わなきゃいけない先輩ママたちのメンタルも心配だと思って、なんだか切ない気持ちになった。

「子どもを育てる」プロジェクト

私の妊娠が判明したとき、歳上歳下にかかわらず、先輩ママたちが私の妊娠をものすっごく喜んでくれた。
あれ? 私、この人と親戚だったかな? と思うくらい、おりにふれてマタニティグッズを送ってくださった人もいたし、予防接種や保活など、わからないことを尋ねたら懇切丁寧にそのコツを教えてくれた人もいた。

ある人は、
「ゆみちゃんが、これからこんなに楽しい子育ての経験をするのかと思ったら、もうそれが嬉しくて嬉しくて」
と、うるうるしながら妊娠を喜んでくれた。

「私、仕事が大好きだったし、仕事以上に打ち込めるものはないと思っていたけれど、子どもを育てるプロジェクトも相当エキサイティングだから、楽しみにしてなよ」
と、大きくなったお腹に話しかけてくれた友人もいる。

あの頃は、「どうしてみんな、こんなに親切にしてくれるんだろう」と不思議だったし、「人の妊娠をなぜそんなに喜ぶんだろう」と謎だったけれど、今では、その気持ちがよくわかる。

妊娠をのぞんでいた友人に子どもが授かったと聞くと、もう、そのメッセージをどこの場所で受け取っても嬉しくてぽろぽろ涙が出る。
その友人に、「子どもが生まれると、できないことが増えると思うかもしれないけれど、実はできるようになることの方が多いんだよ」と、伝えたくなる。

きっとそう感じるのは、私が先輩ママたちのあったかい愛情に囲まれて、そりゃやっぱり大変なことや眠いこともあったけれど、おおむね楽しく育児ができてきたからだろうなと思う。

世界を丸く、柔らかく

いや、先輩“ママ”だけではない。 子どものいない先輩から、こんな言葉をかけてもらったことがある。

「子どものことを語ることに、躊躇しなくていいんだよ。生んだ人には生まなかった人や生めなかった人の気持ちはわからないし、その逆も同じなのだから。でも、それでいいのだよ。お互いを理解しようと思えればいいだけだし、そのために言葉があるんだからね」

この彼女の言葉にも、とっても大きく優しく包まれたと感じている。

今、書いていて気づいたけれど、世の中には、私たちの「分断」を進める言葉と、私たちの世界を柔らかく包む言葉があるんだな。
自分が言葉を放つときは、できれば世界が丸く柔らかくなればいいなと思う。まずは自分のすぐ近くの小さな世界から。

私の先輩たちが、私と私が住む世界を優しく結んでくれたように、私もそういう大人になりたい。

 

画・中田いくみ タイトルデザイン・安達茉莉

◼︎連載・第28回は9月19日(日)に公開予定です


佐藤友美(さとゆみ)

ライター・コラムニスト。1976年北海道知床半島生まれ。テレビ制作会社のADを経てファッション誌でヘアスタイル専門ライターとして活動したのち、書籍ライターに転向。現在は、様々な媒体にエッセイやコラムを執筆する。 著書に8万部を突破した『女の運命は髪で変わる』など。理想の男性は冴羽獠。理想の母親はムーミンのママ。小学4年生の息子と暮らすシングルマザー。

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