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老いた母の「最後の手料理」は家族の思い出の味「パエリア」【お米農家のヨメごはん】

こんにちは!富山県の黒部市というところで、お米だけを作っている小さな小さな農家の濱田律子です。旦那とココ(娘・16歳)と3人で、地道に真面目にコツコツとお米を作りながら、仕事に子育てにドタバタもがきつつも楽しく暮らす。そんな私たちの、食卓周りの日常を皆さんにお伝えする連載133回目。
今回は、私にとっての母の味、スペイン料理のパエリアについてと、カラッと干された田んぼの風景をお伝えしたいと思います。

思い出の味「パエリア」で両親との食卓

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少し前、まだ春が来る前の寒い時期、私1人で実家へ帰省した時の事。

夜ごはんはどうする?と聞かれて、久しぶりにパエリアをリクエストした。もう台所に立つ事がままならなくなってきた母親の、もしかしたらこれが最後の母が作るご飯になるかもしれないと思った(実際にそうなってしまった)。

小さい頃から何かあるとパエリアを作ってくれた母。私も、2つ年下の弟も、事ある度にリクエストした。

私たちの「おふくろの味」は、肉じゃがでもお味噌汁でもなく、異国スペインの郷土料理パエリアだったのだ。

いろんな文化を家に取り入れ、手先が器用で手仕事が大好きだった母だが、ここ数年で急激に、そういう世界から離れていくようになった。ご飯もほとんど作らなくなった。

この時は久しぶりに、私の為だけに、台所に立っていた。父のサポートを受けながら、2人であーだこーだと喧嘩しながら作業している様子を、後ろからそっと見守る。

綺麗だった母の手は皺くちゃになり、何より指の関節の曲がり具合も痛々しい。

母は、歳をとった。作り慣れたレシピのはずなのに、父がネットで探したレシピに頼っていた。

もう50年以上は使っているであろう、無水鍋。蓋を下にして具材を炒め、最後に鍋を蓋代わりに被せて炊きあげる。ネットのレシピではなく、母の昔からのやり方だ。

これこれ、我が家のパエリアはこうでなければならない。台所の様子をそっと見守る。

そして、この原稿を書きながら涙が止まらない。もう、こういう景色を見る事は二度とない、だろう。母は元気ではあるけれど、春先から施設でお世話になっている。

蓋を開けると湯気がフワッと立ち上がる。サフランの香りをまといながら、美味しそうなパエリアが姿を現した。パエリアと一緒に必ず出てきた、タコとセロリのサラダはもうない。シンプルに、パエリア一品だけ。

でも、父と母と私と3人で食卓を囲む時間を作る事ができて、本当に良かった。

その時の事を思い出しながら、私は私のキッチンでパエリアを作った。

まずは具材の準備から。ニンニクと玉ねぎはみじん切り、お野菜はトマト、パプリカ、ブロッコリーなどを適当な大きさに切って、鶏肉はぶつ切り、魚介はイカ・タラ・ハマグリ・エビが定番。

エビの殻で濃厚な出汁を取ったり、オーブンで焼き上げたりする本格的なパエリアではない。けれど、サフランだけはたっぷりと。

日本で購入すると高いサフランも、海外では気軽に求めやすい。旅先で多めに買っておいたり、海外で暮らす友人が送ってくれたりするので、ストックはたっぷりある。

あらかじめ水で戻しておいて、後で水を足して350ccにする(お米2合に対しての目安)。

オリーブオイルでニンニクを炒めて、鶏肉、玉ねぎ、お米(洗わずそのまま)の順に炒めて、気持ち多めの塩と胡椒で味付け。

トマトやパプリカなどのお野菜も加えて炒めたら、サフラン水を入れる。

最後に魚介類を並べる。

蓋(というか鍋の部分)をして、強火で沸騰したら弱火にして15分。

火を止めて蓋を開けて、さっとブロッコリーを散らす。蓋を再びかぶせて10分ほど蒸らしたら、できあがり。

テーブルに出すと、歓声が上がる見栄えに鼻高々になる。けれど、いつも味はバラバラで、塩気が弱い事が多い。そこは各自で味つけしてもらって。胡椒を多めにガリッと挽いて、レモンをギュッと絞る。

お母さん、パエリア、美味しくできたよ。これからもお母さんのレシピで作り続けるね。そうそう、お母さんが作る自慢のパエリアは私の友人にも好評で、何人もお母さんのレシピを引き継いでくれているよ。

そういえば、弟もパエリアだけは上手に作るよね。我が家でも弟の家でも、そして多くの友人の家で、お母さんのパエリアが食べられているよ。このレシピはきっと、お母さんの孫の、私の娘にも受け継がれていくと思うよ。

娘もパエリア好きに育ってるよ。忙しくも充実した高校生活を送っているよ。実家の無水鍋は、お父さんはもう使わないみたいだから、私がいただいて大事に使わせてもらうね。

それでまたパエリアを作るね。

米作りは水の管理が大切です

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さて田んぼの様子。

この原稿を書いている6月の下旬でもまだ、梅雨入りしていない。日中は暑い日もあるけれど、朝晩は爽やかな日々だ。

ちょうど中干しの時期で、水を抜いて田んぼを乾かしている。

土の中の有害なガスを抜いて、稲の生育をよくする為の中干し。稲の分げつ(株分かれ)が進みすぎないようにする役割もある。ここでしっかり乾かしておけば、秋の収穫作業でコンバインの作業効率も上がる。

田んぼは稲の生育状況によって、水を浅く保ったり逆に深く入れたり。そうかと思えばこうして、乾かしたりする。

米作りは、水の管理が重要です!

濱田さん一家の『濱田ファーム』ホームページはこちらから。

濱田律子
濱田律子

愛知県生まれ、千葉(スイカの名産地・富里)育ち。大学卒業後カナダへ。バンクーバー、カムループス、バンフと移り住み、10年間現地の旅行会社で働く。カナダの永住権を取得したにも係わらず、見ず知らずの富山県黒部市で農家に転身。米作りをしながら、旦那とココ(娘)と3人で日々の暮らしを楽しんでいます。黒部の専業米農家『濱田ファーム』はこちら。

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