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同じ悩みを持つ人へ、子どもの食物アレルギーに悩むママが作った「すくすくアレルギーのーと」

子どもの食物アレルギーが増えているなか、乳幼児の食物アレルギーに関する情報を発信するInstagramアカウント『すくすくアレルギーのーと』を、キリンホールディングス株式会社が開設。今年4月からInstagramで発信して、早くも話題を呼んでいます。

実はこのアカウントを立ち上げた担当者も、子どもの食物アレルギーに悩むひとりのママ。開設までの熱い想いを聞いてきました。

食物アレルギーの子どもを持つ母親が発案!

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『すくすくアレルギーのーと』は、乳幼児の食物アレルギー対策に役立つ情報を発信するInstagramアカウントで、キリンの社内新規事業公募制度「キリンビジネスチャレンジ」から誕生しました。

「キリンビジネスチャレンジ」は毎年キリン社内で行われており、食から医にわたる領域で、自分が解決したい社会課題にフォーカスし、社員なら誰でも企画を提案することができます。2017年から2023年の7年間で1,106件のビジネスアイディアが起案され、今までに5件が事業化に至っています。

『すくすくアレルギーのーと』は、その中のひとつで、2020〜2021年のコンテストで最終審査まで残り、実現へと至ったもの。企画した正親(おおぎ)美菜子さん自身、食物アレルギーを持つ子どもの母親だったと胸の内を語ってくれました。

このアイコンが目印です。

『すくすくアレルギーのーと』

キリンホールディングス株式会社が運営する、子どもの食物アレルギーに役立つ情報を配信する公式アカウント。医師や管理栄養士監修のもと、信頼できる情報を発信し、すぐに使える日々の暮らしに寄り添ったテーマが支持を得ている。

「私には2人の子どもがいるのですが、2人とも卵や牛乳の食物アレルギーがあり、公募に参加した時は、まさに子どもたちの食物アレルギーに悩んでいる真っ最中でした。私以外にも、保育園のクラスに何人か食物アレルギーのお子さんがいたり、親戚にも何人かいたりして、子どもの食物アレルギーは本当に増えているなと常々感じており、何かできないかと思ったのがきっかけでした」(以下「」内、正親さん)

当時、医薬品部門で免疫やアレルギーの研究をしていた正親さん。アレルギーは知識として知ってはいたものの、いざ自分が食物アレルギーの子どもを持つ親になると、分からないことだらけだったそう。

「初めて直面したときは、赤ちゃんが全身真っ赤になって、もしかしたら死ぬかもしれないという不安から、驚いてパニックになりました。何とかしてあげたいけれど、何をしていいのかも分からない。その後、何軒か病院に行きましたが、言われることが微妙に違っていて、何が正しいのかも分からない……。そんな不安を少しでも解消したかったんです」

まさに育児は子どもが生まれた日から突然始まり、そもそも分からないことだらけですよね。筆者も娘に卵アレルギーがあり、口の周りに蕁麻疹がブワーッと出たときはパニックになりました。不安な気持ち……痛いほど分かります。

キリンホールディングス株式会社 ヘルスサイエンス事業本部の正親美菜子さん。

命に関わることだから、情報の信頼性を何よりも大切に

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まだ話すことのできない乳幼児には特に目を配って。

今回採用された正親さんの企画は、社内会議の末、乳幼児の食物アレルギーに役立つ情報をInstagramで発信することに。しかしながら、研究者だった正親さんにとって、専門的なアカウントを立ち上げて運営するのは初めてのこと。試行錯誤の連続だったと話します。

「食物アレルギーは医療に関わることなので、情報の信頼性が何よりも重要です。発信した情報に問題があってはいけないので、その信頼性をどうやって担保するか、自信を持って情報発信できる土台作りに奔走しました。信頼できる情報源を整理し、制作マニュアルを整えたうえで、記事によっては医師をはじめ、管理栄養士など専門家のかたに監修をお願いしています。そのような仕組みを作るのに、約半年ほどかかりましたね。

食物アレルギーの考え方はどんどん変化していて、20年前と今では情報が異なります。昔はアレルギーが出た食材は食べちゃダメ、完全に除去しましょうという考え方でしたが、今は食べられる範囲を確かめながら、医師の指導のもと少しずつ食べる範囲を増やしていきましょうという考え方が主流になっています。

とはいえ、レベルによっては微量に触れただけでも症状が出てしまうお子さんもいます。非常に個人差があるなかで、どのようなかたちで情報発信をしていけばみなさんの役に立つのか……もっとも気を使ったところです」

さらに、正親さんはリアルな情報を届けるため、食物アレルギーの子どもを持つ親たちへの聞き取りも重ねました。

「私の同僚や保育園のママ友を中心に多くの方に協力してもらいました。のべ50人は超えていますが、知り合いだけでも、それだけ身近に食物アレルギーのお子さんがたくさんいて、子どもの食物アレルギーが増えているのを改めて感じましたね」

実際に、2004年から2019年までの15年間で、3才までに食物アレルギーと診断された乳幼児は約7割も増加しているというデータも出ています(東京都健康安全研究センター調べ 令和2年10月「アレルギー疾患に関する3歳児全都調査」より)。ここ数年で、とても身近な問題になっているのですね。

同じ悩みを持つ親同士が集まれる場所を作りたい

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正親さんが苦労の末に作り上げた『すくすくアレルギーのーと』は、今年4月に公開されると、開設1カ月で1,000人以上のフォロワーが!

「最初は誰にも反応されなかったらどうしよう……と心配でしたが、ありがたいことに予想以上の早いスピードでフォロワー数が増えています。このような発信をしてくれることが嬉しいと、好意的な反響をたくさんいただいて、とても励みになっているんですよ」

なかでも、特に人気があったテーマは「アレルギー表示の見方」や「小児科受診のポイント」を分かりやすくまとめたもの。日常生活に寄り添い、すぐに役立つ情報が好評を得ています。

正親さん自身の体験談をコミックにしてリアルな情報を発信すると、共感の声が続々。「それからどうなったの!?」と続きが気になり、ハラハラしながら読み入ってしまう。

さらに、正親さん自身の体験談をコミックにして公開したところ、大きな反響を呼んでいるそう。

「もともと育児マンガが大好きで、よく読んでいました。食物アレルギーにかかわらず、子育てって本当に予期せぬことが起こるので、他のお子さんの体験談や、ほっこりする話を読んでは、パワーをもらっていました。食物アレルギーは子どもの症状のレベルや食材が違うと、意外と話せるようで話しづらい……。そこで、共感してもらうためにも私のリアルな体験をマンガで紹介したい!と思ったんです。

子どもにアレルギーが発覚したときのコミックを載せると、“うちも同じでした”というコメントを何件かいただいて。“そうなんだ! 同じ状況の人がいたんだ!”と、私も元気をもらいました。その方々と1時間は語り合えそうです(笑)」

「同じ悩みを持つ人たちと悩みを共有し、みなさんが持つ経験や情報も集まるような場になるのが理想」と、笑顔で話す正親さん。核家族で共働きの家庭が増えるいま、育児って孤独な戦いでもあります。そんなときに悩みに寄り添える信頼できるアカウントがあるのは、本当に心強いことですね。

【取材協力】
キリンホールディングス

【お話を伺った人】

キリンホールディングス株式会社

ヘルスサイエンス事業本部
正親美菜子さん

免疫やアレルギー領域の医薬品を開発する研究者として勤務する傍ら、『キリンビジネスチャレンジ』で自身の企画が採用され、2021年より食物アレルギーに関する新規事業の検討を行い、2024年に『すくすくアレルギーのーと』を立ち上げた。2児のママ。

岸綾香
岸綾香

ライター&エディター。『女性セブン』(小学館)で約 20年、料理、家事、美容、旅、タレント取材など、実用記事を中心に幅広いジャンルで取材&執筆を行う。『kufura』では2017年のローンチより、料理やヨガなどを中心に動画記事を350本以上作成。好きなものは絵本、美術館、音楽フェス、自転車。週刊誌で鍛えられた体力&根性で 40代から子育て奮闘中。

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