「パパのつまずき」はまるで自分のことのよう
nullイベントは、さとゆみさんが『おそるおそる育休』を読んだ感想を伝えるところからスタートしました。
「育児をしたいと思ったパパは、こういうことにつまずくんだ!という内容のオンパレード。もちろん育児にもっと関わりたいパパにも読んでほしいけれど、それ以上に、パパのことを知る『トリセツ』としてママに読んで欲しい本です」
西さんは「育休を取るまでは、ほとんどキッチン仕事をしたことがなかったんですよ。そんな状態で、妻から“お米を、水が澄むまで研いで”と言われるでしょ。でも、何回研いでも、研いでも、ずっとにごった水がでてくるんですよ! お米を研ぐ、さじ加減すらわからへんのですよ!」と答え、会場が爆笑に包まれます。
今まで妻がやってくれていた掃除やお弁当づくりを自分がやってみることで、お弁当に入る食品の分量を知り、お掃除シートのストックの場所を知ったという西さん。その話を聞きながら、まさに自分のことを言われているような気持ちに。
たしかに自分も、妻がコロナになった時は、玉ねぎのレンチンってどうやればいいの?状態でしたし、お掃除シートで掃除をすることはわかっていても、シートの替えがどこにあるかは知りませんでした(イベント終了後、家に帰り、すぐにお掃除シートの替えの場所を妻に聞きました)。
子育ての中にはたくさんの「発見」がある
null事前にお二人の本を読んでいた私は、この2冊のエッセイの素敵なところは、それぞれがお子さんと向き合う中で、いろんな「発見」をし、自分自身の価値観を変化させていることだと感じていました。
子育て経験のある家庭であれば、誰もが「あるある!」と言ってしまいそうな出来事なのに、お二人が書くと、ただの育児の記録ではなく、「大人の成長日記」になっているのです。
イベントではお二人の子育てを通した「発見」の話が語られました。
たとえば、西さんは、近所のママ友から譲ってもらった子どもの体操服のタグに「マツモト」とお名前シールが貼られていることに気づいたエピソードを語ってくれました。お名前シールをよく見ると、めくれかけたお名前シールの下にさらに「ヤマシタ」の文字がチラリと覗く。
「お下がりどころか、うちで3代目やないかい!」
と発見した西さんは、その経験によって、これまで自身がニュースで扱ってきた「地域社会」という言葉が、リアリティをもって感じられるようになったと言います。お金を伴わないモノの行き来が、どれだけ気持ちを豊かにするのか。ヤマシタの名前の上にマツモトというシールを貼るときにはどんな気持ちだったのかを想像する。
育休中に、さまざまな発見をしたと話してくれました。
西さんは「もしも今、朝のラジオ番組のパーソナリティのオファーがきたらどうしますか?」という質問に「自宅から配信してもいいなら」というお答えを。
「子どもの笑い声が入ったり、保育園に送る時間には別のアナウンサーに話してもらったり、それが認められる会社であったら素敵だなと思います」と話していたのが印象的でした。
仕事一筋30年だった西さんにとって、育休の経験が何にも代えがたかったことが想像できました。
一方のさとゆみさんも、小学生の息子さんの目線で見える世界にハッと「発見」させられることが多かったと話します。
『ママはキミと一緒にオトナになる』の中に、私が大好きなエピソードがあります。さとゆみさんがワンピースを着て講演会に出かける朝のシーンです。
さとゆみさんが息子さんに「この服、どう思う?」と聞くと、「ママは自分でどう思うの?」と問い返されるというエピソード。
「とても気に入っているよ」と答えたさとゆみさんに、息子さんは、「自分が気に入っているのが、一番大事だと思う。人がどう思うかは、相手次第でわからないからさ」と言ったそうです。
さとゆみさんはその息子さんの言葉にハッとして、さらに「自分が自分をどう思うかが一番大事。人の気持ちはコントロールできないという考え方は、人生で最も大事にしたい価値観かもしれない!」と「発見」します。
お二人の話を聞きながら、「よく見て、よく聞いてみる」ことで発見がある。自分の心の中に生まれた感情をもっと深掘りすると、また新しい発見があるということを知りました。
楽しそうに話すお二人は、同じ経験をしてもより豊かな時間を過ごしているように感じます。そして自分自身も、もっと毎日の中から発見したいと思うようになりました。
息子をよく見ている「妻の視点」に気づけるように
nullイベントの次の日、中学生になる息子の帰宅がいつもより遅いことに気づきました。どうしたんだろうと思ったときに、玄関の扉が開きました。
「おかえり。どうした? 遅かったやん」と言うと、普段は何を聞いても「ふつう」と、面倒臭そうに答える反抗期中ド真ん中の息子が、この日だけは、「今日めちゃくちゃいいことあってん!」と靴を脱ぎながら、話し始めました。
そして、「俺、バスケの公式戦のベンチメンバーに選ばれてん! ユニフォームもらってん!」と話しかけてきました。私は、「すげえ! やったな!」と言葉を返しながら、“バチン”と背中を叩きました。いや、正確には“べチン”と音が鳴りました。
体操服に手の平が、びちゃっとひっつきます。うわっ、汗だ、気持ち悪いと思った瞬間、「いやまてよ……。そうか。嬉しくて、いつもよりも頑張ったか、居残り練習してたのかもしれないな」と想像しました。さとゆみさんと西さんの話を聞いていたせいか、いつもよりも息子をじっくり観察している自分に気づきます。
その晩、妻と話をしました。「嬉しいな。ひょっとしたら試合でれるかもしれへんな!」と妻に言うと、「うーん……。私は、今日まで頑張ってきたことが認められてベンチメンバーに選ばれた、そのことで喜んでいる息子の姿を見れたことが、嬉しいねんよなー」と妻。この言葉に、また私はハッとします。「あっ、そうやんな。そう考えるの、いいよな」と伝えました。
私にはなかった妻の視点に幸せな気持ちになったのです。
今までよりも、すこしだけ耳を澄まし、目を凝らして、手触りにも意識を向けてみる。すると、子育てでも、夫婦関係でも、いつもそばに「発見」はあるんだなと実感します。それは私の生活を、今までよりも豊かにしてくれていると感じます。たくさんの「発見」がある本と、たくさんの「発見」をくれたイベントに出合えた後、私もすこしだけ、大人として成長することができました。
文・写真/島袋匠矢
『ママはキミと一緒にオトナになる』佐藤友美・著(1,650円税込・小学館)
kufuraでの3年間の連載が書籍になりました!
息子(連載スタート時には9歳)と二人暮らしのシングルマザーが、彼との会話や子育てを通して見えてきた世の中のこと、家族のことを綴った3年間の記録。
実際に子どもが生まれてわかったのは、
「たしかにできなくなったこともあるけれど、
それ以上にできるようになったことの方がずいぶん多い」
ということだった。これは、私にとって、驚きの誤算だった。
(本文より)
『おそるおそる育休』西 靖・著(1,870円税込・ミシマ社)
毎日放送の人気アナウンサー・西靖さんが、3人目の子どもが生まれるタイミングで「育休」を取得! 仕事ひとすじ30年だった西さんが、50歳を目前にして初めての体験をした日々を綴った奮闘記録。
え、本当に休んでいいの? 給料減るの? 役にたつの? 周りはどう思う? 帰ってきたときに会社に居場所ある? などなど、戸惑いまくりの恐れまくり。(…)本当に「おそるおそる」だったのです
(「はじめに」より)