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【もしかして、毒親!?】「子どもを叱りすぎて自己嫌悪」のループを脱するには?…教育評論家・親野先生に聞きました#8

「自分が自由に使える時間が持てない」「出かける時間なのに、ぐずぐずして準備が間に合わない」「せっかく片づけたのにまた散らかした」……子育てがはじまるとそれまでは自分軸で回っていた日常が一変します。慌ただしさの中でも笑顔で楽しく子どもと関わることが理想かもしれませんが、イライラが募って子どもに当たってしまう自分を不安に思うこともあるのではないでしょうか?

小学校教師として23年間、教育評論家として17年間、多くの親子を見てきた親野智可等さんは、共働き家庭が増えた現代の子育てについて、特に母親を励ますメッセージを発信し続けています。“毒”にならない子育てについて聞く本連載。最終回は、子育てに苦しさを感じたとき、子どもに理不尽な行動をしないためのお話です。

子どもの「できないこと」をストレスに感じすぎていませんか?

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「我が子が片づけをできないことや、だらしがないこと、忘れ物が多いことを、“自分の育て方が悪かった” “自分のしつけのせいだ”と思っていませんか? そう思っていると、子どもができないことがあったときにストレスを強く感じてしまい、“ダメじゃない!”と必要以上にきつく叱ったり咎めることになってしまいます。

できないことを指導するのはもちろんですが、できないことがあるのは生まれ持った気質の可能性も高いということが、科学的事実としてどんどん明らかになっている時代です。そのことを理解して、“そうなんだ、それなら仕方がないや。この子がさぼってるわけでもないし、誰のせいでもない”と、まずは親が安心して落ち着くこと。

子育てというのは、親が安らかになることで初めていい方向に進んでいく。親が自分自身を責めて、自分自身の自己肯定感まで下げるような子育ては、“毒親”になる方向に進んでしまう危険があります」(以下「」内、親野さん)

子どもの自立を急ぎすぎず「待てる親」になる

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「“子どものうちに〇〇を直さなくちゃ” “早く自立できるようにさせなければ”と思ってしまう親の気持ちもわかります。親としての愛情があるからこそでしょう。

その愛情を否定するつもりはありませんが、子どもには生まれながらのオリジナルな成長ペースがありますし、何でも早ければいいというものではありません。

これまでもお伝えしてきたように、親ができることは、厳しくしつけることよりも、親子関係を良くすることと、自己肯定感を育むこと。“人事を尽くして天命を待つ”というように、できることをやってあげたら、結果は子どもを信じて待つしかない。

親は子どもに結果を求められないし、結果まで引き受けることはできません。諦めて待つ、くらいの気持ちでもいいのかもしれません」

同僚やママ友にはしない言動を、なぜ我が子に?

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筆者の長男はこの春中学生になるのですが、子育てをしている中で叱りすぎてしまい、“私って、こんなに怒りっぽい性格だった?”と落ち込んだことが何度もありました。可愛いはずの我が子を傷つけながら、自分も傷つく繰り返しを辛く感じたことも……。

「特にお母さんは、自分のお腹から出てきたという理由で無意識に子どもを自分の一部であり所有物のように感じてしまうようです。同僚やママ友など他人を攻撃するのは悪いことだけど、自分で自分の一部に攻撃を与えることは仕方のないことという感覚が、どこかにあるのではないでしょうか。

ところが子どもの方は、自分はお母さんの一部だと全く感じていないので、とても傷つきます。“毒親”になってしまう要素として、自分の一部だから攻撃しても大丈夫という無意識の感覚と、エスカレートしやすい言葉による攻撃で、ますます遠慮がなくなってしまう、ということがあるのではと思います」

叱りすぎたと思ったら、子どもに謝っていますか?

「がんがん叱られている子どもは、“確かにお母さんの言う事はわかるけど、そこまで言わなくてもいいじゃん”という両方の気持ちが絡まってもやもやしているから素直になれません。

ですから、もし感情的に叱ってしまった場合は、“ごめんね、お母さん怒りすぎちゃったね” “言い過ぎちゃってごめんね”と謝りましょう。その方が子どもの気持ちがほどけてこちらの言いたいことも受け入れやすくなりますし、謝ることの大切さも教えてあげられますね。

いつも叱ってばかりで、それがエスカレートしたときに謝りもせず、“あなたのために言ってるのよ”では、幼いうちは言うことをきいていても、心はどんどん離れていき、やがて心を閉じてしまうことになります

忙しすぎる環境が母を追いつめている!?

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「どうしても子どもを叱りすぎてしまう理由のひとつに、現代の子育て世代のお母さんが忙しすぎることもあると思います。共働き家庭が増えたのに、育児に家事、あるいは介護などその大半を女性が負担する家庭がいまだに多く、あちこちでものすごいストレスを抱えていることでしょう

もっと子どもを産んでほしいという政治や行政の支援が、育てる親や保育・教育の現場に行き届いていない現状です。忙しすぎると感じている人は、自分の状況をいったんゼロベースにして、客観的に見てみましょう。

そして、長期的な視野でいまいちばん大事なのは何か、優先順位を考えてみてください。

40年以上さまざまな親子と関わってきた私の立場から客観的に見ると、子育て世代にとっていちばん大事なことは、『親子関係を良くすること』に尽きます。手がいっぱいで余裕がない状況だと思いますが、いまは仕事を取捨選択し家事は手を抜いて、まじめに頑張りすぎなくて大丈夫」

最後に、忙しい日常で張りつめている母たちの心を緩めてくれるメッセージをいただきました。

「子育ては難しく、だれがやってもうまくはいかないものです。暗中模索の連続で、泣きたくなる日も多いはずです。何とか頑張って今日まで育ててきたあなたは、実に立派で、十分に頑張っていると思います。ひとりで抱え込まず、苦しいときは人を頼ってくださいね」

”子どものためによかれと思って”という一生懸命さが空回りしない関わり方を8回に渡ってお届けした本連載。親野さんの、子育てのさまざまなシーンでの具体的なアドバイスが、育児を苦しく感じたときに頼りになる存在になればと思います。


 

【取材協力】

親野智可等(おやのちから)

長年の教師経験をもとに、子育て、親子関係、しつけ、勉強法、家庭教育について具体的に提案。著書多数。人気マンガ「ドラゴン桜」の指南役としても著名。Twitter、Instagram、YouTube、Blog、メルマガ、各種メディアの連載などで発信中。オンライン講演をはじめとして、全国各地の小・中・高等学校、幼稚園・保育園のPTA、市町村の教育講演会、先生や保育士の研修会でも大人気となっている。詳細については「親力」で検索してHPから。

駿河真理子
駿河真理子

大学卒業後は銀行に就職するも、大好きな雑誌の世界に飛び込む。『女性セブン』(小学館)で、編集兼ライターとして10年間、エンタメ系の誌面に携わる。第2子出産後、5年ぶりに『kufura』のライターとして復帰。今後は、育児や暮らしにまつわる記事を発信していきたい。

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