食事のたびに、思ったように食べてくれない子どもにイライラ…
食事のたびに、思ったように食べてくれない子どもにイライラ…今回は、こんなお悩みを取り上げます。
「栄養バランスを考えて食事を用意しているのに、子どもが全然食べてくれない!」
小さな子どもを持つママ・パパにとって、食に関する悩みはつきものです。同じものしか食べない子や、一品に手をつけただけで飽きてしまう子、機嫌が悪いと「食べたくないっ!」と食卓にすらつかない子もいるでしょう。
それでも1日3回、食事の時間はやってきます。同じものばかり食べていては、栄養の偏りも気になってくる。心配とイライラの気持ちが積み重なり、「全部食べなさい!」とカッとなってしまうこともあるのではないでしょうか。
「3食きちんと食事を用意して、子どもに食べさせるだけで、相当な重労働です。中には、子どもが飽きないように味付けを変えたり、柔らかく煮てあげたりと、工夫している方もいらっしゃるでしょう。すべて“子どものため”を考えているからですよね」と戸田先生。
でも、その「子どものため」と思う気持ちが行き過ぎると、感情的に怒ってしまうことも……。一体どうしたらいいのでしょうか?
自分の中に潜む「べき」を知り、3つのゾーンに分ける
自分の中に潜む「べき」を知り、3つのゾーンに分ける大人であっても、用意された食事をすべて食べきれないことはあります。時には麺類だけ、ご飯だけ、と炭水化物に偏った食事で済ませてしまうことも。
それでも、子どもに対しては「バランスよく、残さず食べてほしい」と、つい思ってしまう……。
「育ち盛りの小さな子どもだからこそ“栄養バランスの整った食事をとってほしいな”“きちんと残さず食べてほしいな”思っているのですよね。悪いことではありませんから、自分を責めないでください」(以下「」内、戸田先生)
戸田先生は、「こうであってほしい」という理想や期待を「〇〇すべき」の『べき』と表現します。この『べき』には、親自身が大事にしている価値観が表れているとか。
「怒りは自分の持つ期待や理想、『べき』が裏切られた瞬間に生まれます。でも、相手は子どもです。“何が何でもこうあるべき”と親が無意識に思っていると、その『べき』が破られるたびに、自分がどんどん苦しくなってしまいます」
そうはいっても、小さな子どもに対して「食べなくても大丈夫」「好きなものだけ食べていれば十分」とは、なかなか思えないもの。そこで戸田先生から、現実的な対処法を教えてもらいました。
その1:自分の「べき」の境界線をチェック
自分の『べき』の許容範囲が狭いと、ついイライラしがち。そこで、許容範囲を明確にするために、下の図のような3つのゾーンで境界線を引いて、まずは何なら許せるのか、許せないのかを考えてみるのだそうです。
ポイントは「1.許せるゾーン」と「3.許せないゾーン」の間に「2.まぁ許せるゾーン」を設けること。
「“少なくとも野菜を一品、食べてくれたらOK”“せめて用意した量の半分は食べてくれたら”などと、イラっとはするけれどこの程度なら許せると思えることは、『2.まぁ許せるゾーン』に当てはまります。
子どもの食事について“せめて”“少なくとも”“最低限”などの言葉で表現するとしたら、どんなことが浮かびますか? 考えてみてください」
その2:イラっとしたらどのゾーンに入るか、自分に問いかける
イラっとするような出来事があったら、上の図の3つのゾーンのうち、どのゾーンに当てはまるかを問いかけてみます。
自分の『べき』に100パーセント当てはまり、怒りを感じないことは「1.許せるゾーン」とし、イラっとはするけれど「ま、いいか」と思え、怒るほどでもないのは「2.まぁ許せるゾーン」、怒る、叱る必要があるのは「3.許せないゾーン」。そのようにして、怒るかどうかを自分で判断していくのです。
「『3.許せないゾーン』に入ったら怒ると決めておけば、適切な怒り方ができる。そして怒らなくていいことには、怒らなくて済むようになります。迷ったら、後悔しないのはどちらか、と考えて判断しましょう」
その3:「怒る」「怒らない」の境界線を伝える努力をする
『べきの境界線が日によって変わると、子どもは戸惑います。「なんか今日は、ママやパパの機嫌が悪いんだな」としか印象に残らない。
「境界線はできるだけ一定にした上で、何をどのようにしてほしいのかを具体的に相手に伝えてみましょう。
たとえば“元気に育ってほしいから、食事の時間になったら椅子に座って、いただきますをしてほしい”“毎回どんなご飯にしようか考えて、一生懸命用意しているから、せめて一口ずつ食べてみてほしい”。このように伝えると、子どものほうも、何を破ると叱られるのか、因果関係を理解しやすいです」
「許せない」から「まぁ許せる」になるようリクエストとして伝える
「許せない」から「まぁ許せる」になるようリクエストとして伝えるでは、実際に子どもが食事の時間に「食べたくない」と言い出したとき、どのように気持ちを伝えたらいいのでしょうか。
「自分の『べき』を子どもに伝えるコツは、『3.許せないゾーン』から『2.まぁ許せるゾーン』に移るようにリクエストをするようなイメージで伝えることです。
たとえば“ご飯の時間にはせめて椅子に座ってほしいな”と、リクエストしてみる。すると子どもは“椅子に座ればひとまずOKで、遊んだままだとNGなんだ”とOKとNGの境界線を理解します。
“ご飯の時間なんだから全部食べないとダメでしょ!”と感情的に怒るよりも、子どもに親の気持ちが伝わりやすいですよ。
『まぁ許せる』に当たるものを考えていくと、許容範囲が少し広がり、イライラも軽減していきます。自分の『べき』をちょっと緩めて、せめて・少なくとも・最低限などの言葉で表現するなら?と、少しだけ意識してみてくださいね」
食事について、親自身がどんな『べき』を持っているのか。どのラインまでならまぁ許せるのか。実は自分の中でも曖昧だった!と感じた方もいるのではないでしょうか。
怒る必要のあること、ないことがわかると、感情的な怒りに振り回されず、子どもにも伝えやすくなりそう。もし食事についてイラっとするようなことがあったら、少しだけ立ち止まって、考えてみてくださいね。
次回は「義父母の家や公共の場など、人の目が気になる場所で、子どもの一挙一動にピリピリしてしまうのはなぜ?」というテーマを取り上げます。
取材・文/塚田智恵美 イラスト/ayakono
アンガーマネジメントコンサルタント、アドット・コミュニケーション(株)代表取締役。日本アンガーマネジメント協会理事。「伝わるコミュニケーション」をテーマに研修や講演を行う。
豊富な事例やアンガーマネジメント、アサーティブコミュニケーション、アドラー心理学をベースにしたコミュニケーションの指導には定評があり、幅広い年齢層が受講している。「アサーティブ・コミュニケーション」(日経文庫)、「怒りの扱い方大全」(日本経済新聞出版)、「『つい怒ってしまう』がなくなる 子育てのアンガーマネジメント」(青春出版社)など著書多数。