「紙だからこそ、できること」
nullみなさんには印象に残っている「紙」との思い出はありますか?
私の場合は……ボロボロになるまで読んだお気に入りの絵本。 ブーブー紙や、紙風船のパリパリした紙の音。 幼稚園でお友達と折った折り紙。 光にかざすと英字が透けて見える薄い便箋(今でもときめきます) 。ページによって色が違う漫画雑誌のザラザラした紙の手触りと匂い。
きっと誰もが何かしら特別な「紙」の記憶があるのではないかと思います。 そんな「紙」を、感性豊かな子ども時代にもっともっと楽しんでもらいたい、想像しながら自分の手で何かを創造する喜びを感じてほしい!という思いでつくった本、それが『ぺぱぷんたす』です。
1年に1度というスローペースの発行ながら「紙でなくてはできないこと」「紙だからこそ、できること」を、ギュギュッと1冊に綴じ込んでお届けしています。
『ぺぱぷんたす』の制作は、ふつうの本の制作とはちょっと違っていて、ちょっと特殊。「正解のない、自由な本」をめざしているので、毎号アーティストの方々と一緒に本気で楽しみながら「あーでもある、こーでもある!」と、試行錯誤やテストを重ねて進めています。そんな制作のディープでユニークな裏話や、つくり手の思いなどを、この連載ではお届けしていきたいと思います。
「ぺぱぷんたす」が圧倒的にスゴイ理由6
null「紙を楽しむ本」って言われても、手に取ったことのない方にはよくわからないと思います。その中身は、つくっている本人が言うのもおこがましいのですが、本当にすごいんです。何がすごいかというと……。
1:まず「紙」がすごい!
1冊の中に、風合いや手触り、色の違う紙が15種類以上使われています(まるで紙のサンプル帳!)
こうやって比べてみると、紙にもそれぞれ個性があって、表情も手触りも音も違うことがわかります。いちばん多かった号(005号)はなんと19種類の紙を使いました!
2:参加アーティストがすごい!
絵本作家、詩人、漫画家、デザイナー、建築家、ミュージシャンなど、さまざまな分野から、コドモゴコロを忘れない、今をときめくアーティストが大集合。
ちなみに、発売中の005号の参加アーティストは、宇野亜喜良、谷川俊太郎、100%ORANGE、tupera tupera、junaida、鈴木のりたけ、北澤平祐、テリー・ジョンスン、ユムラタラ、ユーフラテス、渡邉良重、三澤遥、中村至男、COCHAE、石川将也、古郡加奈子、戸田拓夫(敬称略)。
これだけの日本を代表するアーティスの方たちが、それぞれの「紙ならではの愉しみ」を紹介してくれています。
3:印刷や加工がすごい!
夜光印刷や、匂いのする印刷、ブラックライトで照らすと色が光り出す印刷、太陽の下で絵が浮かび上がる印刷、デコボコ印刷、穴だらけの紙、スリットだらけのページなどなど、驚きの印刷や加工技術を、遊びやお話と融合させています。
4:製本がすごい
大きさや厚さの違う紙、細かい「穴」のあるような加工がされている紙を1冊に綴じるって、実は大変なことなんです。これは、製本所さんの素晴らしい技術と細やかな配慮で一冊の本に仕立てられています。
5:ワクワク、どきどきの「しかけ」や「あそび」がすごい!
ここは追々ご紹介して行きますが……。最新の005号にも「ぺぱぷんたすパズル」「おなじさがし」「レイヤーズアクト」などなど、愉しみ方が全然違うコンテンツがぎゅーっと詰まってます。
6:アートディレクター、祖父江慎さんがすごい!
日本のブックデザインの最前線で活躍するブックデザイナー。紙・印刷・加工・製本、本づくりへの愛と知識が半端なく、そして「今」を楽しむ、あそびの天才。
……と挙げるとキリがないのですが、 今回は、アートディレクター、祖父江慎さんに『ぺぱぷんたす』について聞いてみました。
「破ってもいい本」を作りたかった!
null祖父江さんは、001号から、アートディレクターとして関わってくれています。祖父江さんって、好奇心(本能?)の赴くまま、面白いことをキャッチしたり、ふくらませていく天才。目をキラキラさせた、素直でやんちゃな子どもが、そのまま大人になったみたいな人なんです。
「僕は子供の頃から、紙さえあれば何もいらない!と思ってたんです。そしてそのまま、こんなにオトナになりました(笑)。
『ぺぱぷんたす』の『ぺぱ』っていうのは、紙のペーパーのこと。『ぷんたす』は、“先端”とか“とんがり”みたいな意味らしいんですよ、聞いたところによると。だから、“紙のちょっとすごいやつ”っていうのが『ぺぱぷんたす』ってことですね。
これを001号目からずっとつくってきて、今、なんと006号めを製作中です。
『紙』のことばかり、色々やっているにも関わらず、まだまだ飽きることがなくって、紙あそびを永遠にでき続ける喜び!を味わっています。紙さま、ありがとう!」(「」祖父江さん。以下同)
__『ぺぱぷんたす』ってどんな本ですか?
「みんな本ってただ『見るもの』『読むもの』だと思っているでしょ? でも、本は触ったり、撫でたり、嗅いだり、噛むことだってできるでしょ(笑)。つまり、感じて欲しいなって思ったの。
そして、破ったり、切ったり、貼ったり。身体的なものであって欲しいなっていう思いもあって。
なのに今、『見るだけ』とか『汚れるから丁寧に読みなさいね』なんていう人も多いでしょ? “これじゃあ、ダメだ!”と思って、ボロボロにしてもOK!な“遊び尽くすための本”をつくりたいと思ったの。それに、電子書籍も破れないじゃない。
だからね、001号は、表紙を最初から破いて売っちゃった。買った時から表紙が破れていたら『ああ、破っていい本なんだ』って思うでしょう」
__祖父江さんが考える、紙の楽しさってなんでしょう?
「紙って何度考えても変なんです。実際は体積があるのに、なんでこんなに薄いんだろう? 表面積はバッチリすぎでしょ。なのに丸めたら小さ~くなっちゃったりして、まるでマジックじゃない?
それに、とってもいいんですよ。なんでいいのかっていうと、破ったり、切ったり、折ったり、ねじったり、書いたり、印刷できたり、なんでもできちゃうでしょ。そして薄い紙がいっぱい集まって、背骨ができると本になっちゃうんですよ。なんてミラクルなんでしょう! (編集部注:本の綴じられている方の側面を「背」といいます)
__『ぺぱぷんたす』を読んでくれてる人、これから手に取る人へのメッセージをお願いします。
「紙も本も永遠でなく変わっていく、というのも『ぺぱぷんたす』のテーマなんですよ。紙って育つんだよね。“大事にする”=“未来の役に立つかな?”って、そういう考え方じゃなくて、“今”をめいっぱい楽しむための本にしたかった。
だから消費しちゃっていいの。使い切ってそれを、記憶の中、あるいは細胞の中に蓄えて(笑)。とにかく、濃厚に“紙”に関わって遊んでもらいたいな。
遊び方も一応は書いてあったりはするけれど、どう遊んでもらってもいい。基本的に“絶対”や“正解”というのがなくて、『こうもできるかも?』という気持ちでつくっているから。やわらかい紙を破るときの感触だったり、紙そのものも味わってください。
みなさんが、どうやって『ぺぱぷんたす』を楽しんでくれるか、がとっても大事です。 一歩踏み入って、紙と仲良く、正解のない旅に出ましょう~」
『ぺぱぷんたす 』のこと、少しわかっていただけましたでしょうか?
この本の対象年齢は、実は“4歳から100歳まで”。お子さんだけでなく、大人も楽しめるようにつくっています。年齢にも、性別にも、何にもとらわれず、自由に遊べる本なので、ぜひ手に取ってみてくださいね。
次号は、制作の裏側をお届けしたいと思います。
「ぺぱぷんたす」005 2,300円(小学館)
紙で遊びながら、想像力を膨らませ、工夫したり、創造する喜びを味わえる、そんな体験型ムックの第5弾。
自分の手で、めくったり、ちぎったり、切ったり、折ったり……。
「紙でできること、紙だからこそできること」をテーマに、毎号、豪華なアーティストが大集合。
19種類の手触りの違う紙、表紙や付録の特殊な加工や印刷、日本を代表するブックデザイナー、祖父江慎さんによるアートディレクションにも注目です!
『ぺぱぷんたす』編集長・笠井直子
息子ふたり、猫二匹、ウーパールーパーとのドタバタ暮らし。余裕のある生活に憧れるもゆっくりできない性分。20年ほど女性誌を編集した後、幼児誌の編集に携わり、2017年『ぺぱぷんたす』を立ち上げ。帰宅後10分でつくる料理のマンネリ化が、今最大の悩み。