その結果については「母親が家庭の『ジェンダー教育』でモヤモヤすること」で詳しくお届けしています。
今回は、子どものいる男性にアンケートを実施し「ジェンダー教育」についての現状や意見をうかがいました。
年齢差が大きい父親の「ジェンダー教育」への意識
null今回、アンケートにご協力いただいたのは、子どもがいる297人の男性(20~50代)。
家庭の中でどのような「ジェンダー(社会的・文化的に作られる性別)教育」を意識・実践しているかどうか質問したところ、54.2%がなんらかのジェンダー教育を実践していました。
一方で45.8%が「特に実践していない」「意識していない」「必要性を感じていない」と回答しています。
母親の場合には8割超が何らかのジェンダー教育を意識・実践していることを踏まえると、男女間で大きな差が見られたほか、男性からはジェンダー教育に対して否定的な意見も見られました。
父親が担っている“ジェンダー教育”の具体的な内容としては以下のような内容がありました。
(1)「女(の子)だから」「男(の子)だから」と言わない
「男だから女だからという言葉を使わない」(44歳・ 総務・人事・事務/子16歳女・9歳女)
「子どもには女だからとか男だからとか関係なく、1人の人権を持った人間として育てています。そして『たまたま日本に産まれただけであって、地球人なんだよ』と教育しています」(49歳・その他/子10歳女)
(2)家族で家事をする
「料理をできるだけみんなで作るようにしている」(42歳・その他/子8歳女・6歳男・4歳男)
「働き方の関係で、妻よりも私のほうが家事を担当することが多く、それを毎日のように子どもたちは目にしている。日常的に自然に私たち夫婦の姿を見ていれば、自ずとジェンダーを意識することなく、日常生活を営んでいけると思っている」(59歳・その他/子11歳女・10歳男)
「家事など一緒になって行っている」(44歳・技術職/子13歳女)
「『これは女性の仕事』とか『男性の仕事』とか分けないようにしている。炊事、洗濯など手が空いてる人がやればいいと教えている」(52歳・その他/子13歳男)
(3)言動に留意している
「子どもの前で性差別と受け取れる発言をしない。また、息子にも料理や家事など将来役にたちそうな手伝いをさせている」(41歳・公務員/子13歳女・10歳男)
「子どもには、昭和にありがちな男女の価値観などを話しながら『こういうのは今からは、改めていこう』と話している。家事、育児、働き方等全般を見直そうと話している」(48歳・公務員/子16歳男)
生まれつきの性別によって生じる差を認識しつつ、男女の担う役割についての固定概念を植え付けないよう、配慮しているとの声が聞かれました。
中には「ジェンダー教育」に否定的な声も…
一方、「家庭内でジェンダー教育をしているか」という質問に対し、少数ではあるものの、否定的な意見も寄せられました。
「男尊女卑も間違いではないと教えている」(52歳・ 総務・人事・事務/子13歳女・10歳男)
「男は男らしく、女は女らしくあることも必要だと伝えている」(59歳・研究・開発/子21歳女・18歳男)
「女の子らしく料理を覚えるようにお母さんの手伝いをしてもらっている」(54歳・金融関係/子16歳女・13歳女)
「LGBTなどが話題になっているが理解できない。女の子らしく育って欲しい」(34歳・総務・人事・事務/子11歳女)
性の違いを認めて分ける“区別”と、性別・性的指向ごとに差をつけて取り扱う“差別”は異なります。
国際社会では皆が決して平等ではないという認識したうえで「ジェンダーニュートラル」という価値観が生まれています。しかし、(今回のアンケートでは)おもに50代以上の男性の男性からは、そうした認識に欠ける回答も見受けられました。
また、“ジェンダー”という言葉を、“自分ごと”と切り離して“性的マイノリティ”という狭義の意味でとらえているケースも複数見られました。
家庭内の「ジェンダー教育」で腑に落ちないこと
null続いて、子どものいる男性がジェンダー教育を試みるうえで、腑に落ちなかったりモヤモヤすることについてうかがいました。
(1)自分の感覚や知識に自信がない
「時代の変化が早く、数年前まで常識だったことが、非常識になることも多々あるので、自信を持って子どもに教えることができない」(49歳・その他/子16歳男・14歳女)
「自らがそういった教育をきちんと受けてきていないこともあり、そこまで理解と実践ができていない」(50歳・営業・販売/子18歳女・14歳男)
「子どもに教えているが、自分が子どもの時には意識していなかったので『おかしくないか』と思ってしまう」(44歳・営業・販売/子11歳男・9歳男)
「ジェンダーという本質をあまり理解できていないことが、自身において問題だと思っています」(39歳・営業・販売/子3歳男)
(2)自分の中のバイアスに気づいたとき
「長男と長女では接し方が変わってきてしまう」(40歳・総務・人事・事務/子7歳男・4歳女)
「次男が長女のスカートを履きたがるのをやめさせた。スカートを履きたがるのを無理に止めていいのかと思う」(41歳・営業・販売/子14歳男・11歳女・5歳男)
「まだ、個人的にはBLドラマを受け入れられない」(54歳・営業・販売/子17歳女)
(3)「教えていること」と「現実」は異なる
「男が仕事で稼いでいる事実」(59歳・研究・開発/子21歳女・18歳男)
「家庭内でジェンダー教育をしても学校で男女差別的な影響を受けている」(41歳・公務員/子13歳女・10歳男)
「男女平等だと建前では思うが、実際は違うこと」(50歳・その他/子18歳女)
(4)家庭内の役割分担に偏りがある
「自分は家事ができないので、何も言えない」(57歳・その他/子31歳女)
「自分の家庭では妻が家事をすることが多い」(31歳・金融関係/子6歳男・3歳女)
「妻が専業主婦なのだが、炊事が自分担当なこと」(53歳・コンピュータ関連技術職/子8歳男・6歳男・0歳女)
家庭内で夫婦の役割分担が固定されていることを自覚しながらも、現状を変えることの難しさを感じている人は少なくないようです。
妻と夫で「ジェンダー教育」の悩みは異なる
null父母へのアンケート内容を比較すると、母親サイドからは、家庭内の自分の役割が固定されていること、父母・義父母との価値観のズレ、家事・育児負担への夫の無理解などに苦しむ声が聞かれたました。
一方、父親からの声はジェンダー教育をどう行ったらいいのかわからない、という迷いの声が先立っているように感じました。また、家庭内のジェンダー教育に否定的な声や、時代の変化を憂う声も寄せられています。「家庭内では妻のほうが強いから、男女格差なんてない」「夫のほうが稼いでいるから、家事をしたらフェアじゃない」「夫の実績は自分の価値だと思っている妻だっている」そういった声も聞こえてきます。
家庭ごとに夫婦の関係は異なりますが、家庭の外では、仕事をするには“家事”や“育児”を抱えていない“身軽な社員”が評価されやすい傾向があることは否めません。
そうした構図の中で、例えば、前途有望な娘が家事や育児を理由にやりたいことをあきらめたり、夫の経済力に依存したり、その逆に息子が結婚相手に夢をあきらめさせたり、男なのに稼がないからと責め立てられたり……と、どのカップルでも起こり得る1つ1つのことは、育ってきた家庭や社会を通じて個々が身に着けてきた“ジェンダー観”に根づいているケースもあります。
「男だから~すべき」「女なのに~だ」という声に違和感を覚えながらも「そういうものだ」としぶしぶ受け入れてきた人たちが抱えた葛藤は、次の世代にも大きな影響を与えています。
家庭でできることもあるけれど、家庭でできることは限られています。職場、政治、教育現場、子ども向けコンテンツなど、さまざまな方向から、子どもたちの将来の選択肢を増やす試みをしていきたいものです。