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知っておきたい!「累積する子どもの睡眠不足」成長に成績…気になる影響は

子どもの睡眠に関して、悩みを持つ親は多いですよね。今回は、睡眠不足が重なる“睡眠負債”が子どもたちにどう影響するのかを見ていきたいと思います。お話を聞いたのは前回同様、明治薬科大学リベラルアーツ准教授(心理学)の駒田陽子さんです。

うまく三角形が描けなかった子どもの生活習慣とは…

「うちの子…また夜更かし!専門家に聞く“子どもの睡眠時間”年齢別の目安は?」の記事では、子どもの就寝時刻が遅くなる理由などについてお伝えしました。その影響はというと、やはり大人と同様、生活の中に出てくるようです。

保育士の間で、「うまく三角形を模写できない5歳児がいる」と話題になったことがあったそうです。個人差や働きかけ、練習なども影響しますが、だいたい3、4歳で描けるようになり、5歳児にもなると大半の子どもが描けるといいます。

「保育士さんは、三角形を描けないお子さんについて、何が関連しているのかを調べました。お母さんからもいろいろ話を聞いたそうです。すると生活のリズムが不規則で、しばしば睡眠不足になっていることが分かりました。きちんと寝ているか、寝ていないかの違いで、差が出ていたようなのです。

三角形を上手に描けないということは、ひらがなや数字も書きにくいということに繋がります。睡眠は脳の発育にも影響があるのです」(以下「」内、駒田さん)

それを裏付けるかのような調査結果もあります。都内の5歳の幼稚園児・保育園児を対象とした調査によると、図形の模写テストで三角形が描けなかった子どもは17.1%。さらに分析した結果、生活リズムが不規則であると、模写ができない危険率は、5.9倍にのぼりました。

幼児期の睡眠習慣は小学校4年生くらいまで続く

駒田さんによれば、ヒトは夜の時間帯や睡眠中にさまざまなホルモンが分泌されます。骨や筋肉を作る成長ホルモン、眠りを促すメラトニン、ストレスに対抗するコルチゾールなどです。しかし、明るい照明の下や睡眠をとらないでいるとホルモンがきちんと分泌されず、弊害が出てくるそうです。

睡眠はただ単に休息している状態ではなく、体や脳のメンテナンスが行われているので、非常に重要な時間なのです。昼間に体験したことや覚えたことは睡眠中に整理されて記憶として固定されるといいます。

また、幼児期に早く寝る習慣をつけて、よく眠っておかないと、小学校の4年生頃まで影響が続くともいわれているそうです。

「寝かそうと思っても寝ない、という状態を就学前から放置していると、小学校に入って朝の起きにくさ、登校したくないという気持ちや体調の悪さを訴えるようになります。

就学前に夜ふかしをする習慣がついてしまうと、小学校に上がってからも、夜なかなか眠れない、朝起きづらいという状態が続いてしまうことが明らかになっているのです。

江戸川大学の福田一彦教授らの研究によると、保育園卒園のお子さんと幼稚園卒園のお子さんを比較した際、保育園卒園のお子さんのほうが、小学校4年生ごろまで夜眠る時刻が遅くなっています。そうなると、どうしても学校に行きたくない、体調が悪い、といった訴えが多くなることが考えられます。

小学校高学年になると、両者の差はなくなりますが、4年間もその習慣をひきずることを考えると、小さい頃から睡眠の習慣を整えてあげることの重要性が分かると思います」

「四当五落」は今や逆!十分な睡眠確保が成績にも影響

今や睡眠と成績の関係もさかんに研究されています。ノルウェーの高校生を対象にした大規模調査では、睡眠時間が7-9時間で、平日の就寝時間が22-23時と早く、平日と休日の就寝時間のズレがない高校生のほうが学力が高かったという結果が出たそうです。

「成績が良い学生ほど、質の良い睡眠を8時間確保していました。逆に寝る時刻が遅くなるほど、成績は振るいませんでした」

かつて「四当五落(しとうごらく)」という言葉がさかんに言われました。睡眠時間が4時間の人は、必死に勉強するので受験に合格するけれども、5時間眠った人は受験に失敗するという俗語です。しかし今や、逆です。早く寝て十分な睡眠を確保し、学習するほうが、効果的だということが、わかってきています。

よく眠らない子どもの方が抑うつ感が強い

睡眠外来には、成人に混ざって中高校生の患者さんもやってくるそうです。彼らの相談は「朝起きられずに学校にいけない」というもの。夜眠る時間帯にスマホで、SNSをやっていて、就寝時間がずれ、そのため眠れなかったりする子どもも……。

「不登校のきっかけとしては、多くのお子さんが生活リズムの乱れやメールやゲームの影響をあげています。睡眠不足で学業成績が下がるというのも懸念されることですが、いちばん怖いのは、よく眠らない子のほうが、抑うつ感が強いということです。

眠れないことでイライラし、気分がふさぎ、死にたいという気持ちまで抱くとしたら、恐ろしいことです。精神の安定も睡眠から得られていることを忘れないでください」

また学校から「落ち着きがない!」と注意されている子どもも、睡眠を中心とした生活習慣を整えるだけで、改善がみられるという報告もあり、問題行動も減っていくそうです。

毎日同じ時間にベッドへ!親の継続が大事

ではどうしたら、眠らない子を早く就寝させられるのでしょうか。

駒田さんは、まず、毎日決まった時刻にベッドや布団に行くことが大事だと話します。午後9時就寝ならば、その30分前から「そろそろ寝る時間よ」と声をかけて、テレビを消して寝る体制にもっていく。

直前の入浴や食事、運動は体温が上がってしまい、眠りにくくなるのでNGです。カーテンを引いて、外からの光が入らないようにし、蛍光灯ではなく、暖色系の明かりにすると、眠りに入りやすくなります。

たとえ子どもが「眠れない」と訴えても、親も頑張って、1週間ぶれずに続ける。1週間続けたら、1カ月。習慣づけが何より大切です。

「眠らなくてもいいよ、では絶対にだめです。寝かせることもしつけの一つだと思いましょう」

そして、土日だからと夜更かし朝寝坊を許すと、簡単にリズムがくるってしまうので、平日と同じように休日前も早く寝るようにすること。もちろん、スマホやタブレットのベッドへの持ち込みは厳禁です。

塾に通う子どもはどうする?体内時計の夜型化を防ぐには…

小学校高学年になると、塾に行っている子も多いと思います。そうなると帰宅も遅いため、寝る寸前に食事をすることもあるでしょう。しかし就寝前の多量の食事は避けたほうが好ましいそうです。塾の前に主たる食事をし、帰ってからは軽い夜食程度にして、分食にすることで体内時計の夜型化を防ぐことができます。

「仕事を終えてバタバタと食事の支度や家事と、母親は大変です。でも省略できるところは省略してもいいのです。簡単な食事でもいいじゃないですか。手作りしなきゃ、読み聞かせもしなきゃと、がちがちに考えるよりも、子どもの睡眠を優先させる仕組みを考えてください。

子どもという木を育てるためにも、眠りという土台がぐらぐらしないようにすることが大事です。子どもとの眠りの時間を楽しんでください」

 

決まった時間に寝て、十分な睡眠をとり、決まった時刻に起こして登園、登校させること。簡単なようでいて、忙しい親には難しいことでもありますよね。とはいえ、子どもの健康と将来のために、いまいちど子どもの眠る時間について、できることから始めてみてはいかがでしょうか。

 

 


【取材協力】

駒田陽子・・・明治薬科大学リベラルアーツ准教授(心理学)。日本学術振興会特別研究員、国立精神・神経医療研究センター特別研究員、東京医科大学睡眠学講座准教授を経て現職。

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