親知らずって何で生えてくるの?親知らずが生えない人もいる?
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親知らずは、前から数えて8番目にある永久歯。正式名称は「第三大臼歯」で「智歯(ちし)」とも呼ばれています。永久歯は通常15歳前後で生え揃いますが、親知らずは10代後半〜20代前半に生えてくることが多く、親に知られることなく生えてくる歯であることが、その名前の由来だともいわれています。
「最近、稀に親知らずの種すらない人もいますが、昔は8番目の歯も咀嚼に使っていましたし、今でも8番目の歯が普通に機能して、しっかり生えている方もいます」と話すのは歯科医の山本伸彦先生。
「ただ、人間の進化の過程で火を使うようになり、食事が変化してきて、骨や筋肉もそれほど発達しなくてよくなったので、正常に機能する生え方をするための十分なスペースが足りなくなってしまったんですね」(以下「」内、山本先生)
行き場がなくなった8番目の歯は、傾斜して生えたり、歯肉に埋まったまま埋伏したりすることも。半分だけ表に出てきているなど、歯の一部が見えている親知らずは「半埋伏(はんまいふく)智歯」、骨の中に完全に埋まって、レントゲンを撮らなければその存在がわからない親知らずは「完全埋伏智歯」、横向きになって埋まっている親知らずは「水平埋伏智歯」と呼ばれています。
親知らずは抜くべき?抜かないリスクは?
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奥歯のさらに奥にあって磨きにくいうえ、不規則な生え方をすることが多い親知らずは、汚れがたまって不潔になりがち。親知らずを抜かず放置しておくと、デメリットもあるようです。
「親知らずだけでなく、その手前の歯(第二大臼歯)まで虫歯が進行したり、歯周病を起こしたりして、痛みが出てしまうことが多いですね。また、これは上の親知らずにありがちなのですが、下に噛み合わせる相手がいないと、歯がどんどん伸びてきて下の顎に突き刺さり、痛みが出てしまうこともあります」
特に歯並びを気にしている方や矯正を考えている方は要注意! 親知らずが生えてくると、歯を移動させてしまうリスクがあるため、早めに処置した方がいいようです。
「親知らずがきちんと機能していて使えているのであれば、慌てて抜く必要はもちろんないです。その代わり、自己メンテナンスも医師による定期的なチェックも必要ですし、やはり環境が悪いというのは何らかのリスクを抱えているので、いつかは抜かなくてはいけない。それならば、時間に余裕があるときや就職前など、計画的に整備しておいた方がいいよねということです」
親知らずが横向きに生えているといわれたけど、手術してでも抜くべき?
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親知らずのなかでも抜歯の難度が比較的高いといわれるのが「水平埋伏智歯」。歯は自分が向いている方向へ生えようとする性質があるため、水平埋伏智歯があると手前にある歯を圧迫し、歯の根っこを溶かしてしまう「歯根吸収」が起きてしまう可能性も。抜歯の際は、歯茎を切開し、場合によっては骨を削る、歯を分割して取り出すなどの外科手術が必要になることがあります。
「親知らずが顎の骨の中にある下顎管の近くに生えている場合も大変です。下顎管というトンネルの中には下顎神経が走行しており、抜歯時にこれを傷つけてしまうと、麻痺やしびれなどの症状が出てしまう可能性もあるため、CT検査や口腔外科での処置が必要になることがあります」
これらの場合、手術しても親知らずを抜くべきなのでしょうか?
「医師からそういう指示が出ているのであれば、将来的に問題が出るものに関しては、あらかじめ抜いておいた方がいいでしょう。ただ、麻痺やしびれが出る可能性もあるので、医師の説明はよく聞いていただきたいかなと思います」
親知らずを抜くときの注意点は?すごく痛いって本当?
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「親知らずを抜くときに注意することは、スケジュールの管理ですね」と山本先生。
留学や長期の海外赴任など、危ない親知らずを放置していくと、現地での治療費が大変なことに。女性の場合、薬を選ぶ必要のある産前産後や、出血傾向の強い生理中は避けるなど、抜くタイミングは熟考した方がいいようです。
「抜いた日と次の日くらいは、あまり過密なスケジュールにしない方がいいです。抜歯後に血流の大きな変化が起きるような激しい運動や入浴、ジムに行く、温泉へ行くなども避けた方がいいでしょう」
親知らずに痛みや炎症などの症状があるときも、基本的に抜くのはNG。抗生剤等により、感染症に伴う症状を落ち着かせてから抜かないと、予後が悪くなるそう。
「これは私自身が経験したのですが、親知らずが痛いときに『今すぐ抜いてください!』とお願いして抜いてもらったら、熱も出たし、本当に痛くて。症状のないときに、きちんと段取りをして抜くことが大切だと痛感しました」
とはいえ、親知らずを抜くのは痛そうで、なかなか歯医者に行けない……という方も多いのではないでしょうか?
「親知らずを抜くときは、麻酔をするため痛みは感じません。もちろん、麻酔が切れたら痛みを感じますが、痛み止めでコントロールできないほどではないです。
それよりも親知らずを放置して、痛みが出たときには何もできなくなって、もっとひどいことになることもあります。とくに下の親知らずで蜂窩織炎(ほうかしきえん)という重篤な感染症が起きると、首の下が腫れて最悪、敗血症を起こして亡くなる可能性もあるので、早めの受診と充分な注意が必要になると思います」
たかが親知らずと高をくくるのは危険です。親知らずは放置せず、信頼できる歯科医を見つけて相談してみましょう。
取材・文/清瀧流美

やまもと歯科 院長/デンタルネットワーク株式会社代表取締役/歯科医
都立目黒高校卒業後、レストラン勤務を経て、明海大学歯学部入学。1995年、同大学卒業。歯科医師免許を取得。南青山友歯会ユーデンタルクリニック勤務を経て、1999年、やまもと歯科(東京都)開設。2018年、デンタルネットワーク株式会社設立。歯科専門情報サイト「Smile Teeth」を立ち上げ、多くの人に歯科医療に関する正確な情報を提供している。