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【40代の緑内障】20人に1人がなる!近視の人ほど要注意の理由は…

眼科医の窪田良先生に、最新の近視事情について教えてもらう短期連載企画。前回までは子どもの近視についてお話をうかがってきましたが、注意したいのは子どもたちだけではないそうです。

今回は、40代以降のママパパ世代こそ気をつけるべき目の疾患について、教えてもらいました。

40代の20人に1人は「緑内障」!

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40代のママパパ世代は、目の不調など自覚症状がない限り、なかなか目の詳しい検査にはいかない、というのが現状です……。

「自覚症状はないことが多いのですが、40代で増えてくるのが、緑内障や白内障。特に緑内障は、日本人の失明原因の第一位です。緑内障は気づかないまま進行してしまい、診断がついたときには失明一歩手前ということもあるので、早い段階で検査で見つけて、治療をすることが大切なんです。現役子育て世代の人にこそ、このことを知っていただきたい」

2022年日本緑内障学会発表の資料によると、なんと40代の20人に1人が緑内障だそう。想像以上の数です! 緑内障とは具体的にはどんな疾患なんでしょうか。

緑内障は、目の圧力(眼圧)が高まることで、網膜から脳につながる神経がひとつ一つ死んでいってしまう病気です。細胞が死んでいくプロセスで、独特の視野狭窄(ところどころ見えない部分が増えていく)が起こります。

緑内障のタイプにもよりますが、多くの緑内障はじわじわゆっくり進み、10〜20年かけて、少しずつ視野が狭くなっていきます。早く発見して適切な治療を始めさえすれば、現代では失明することなく過ごせます。遺伝的要因も強い疾患なので、親族に緑内障の人がいる場合は特に注意が必要です。

また、強い近視の人は緑内障になりやすい傾向もあります。近視が強い人は、通常より眼球の前後の長さが長くなっている場合が多い。これは、眼球が前後に常に引っ張られた状態ということで、視神経や網膜にも負荷がかかっているので、緑内障になるリスクも高いのです」

そういうリスクがあるからこそ、検査が必要なんですね。緑内障に治療法はあるのでしょうか?

「今のところ治すことはできません。ただ眼圧を下げる目薬をさし続けることで、進行を抑えることはできます。自覚症状がないからといって薬をやめてしまうと進行が進み、場合によっては失明してしまうことも。

ただ、逆にいうと、きちんと目薬をさし続けてさえいれば、視力を維持することはできます」

症状が悪化する前に早い段階で気付いて、早く治療を始めることが大事なのですね。自覚症状がないということでしたが、自分でチェックできる方法はありますか?

「残念ながら緑内障は自分で気付くことは難しく、見えなくなったり転倒するようになったりしてから異変を感じるケースがほとんどです。

早期診断のためには、40歳を過ぎてからは年に1回は眼科で検査を受けていただきたい。眼圧、眼底、視力の3つを調べることでチェックできます

通常の健診で視力は検査をしても、眼圧・眼底の検査までは受けない人も多いと思うので、意識しておきたいところです。

白内障は手術で治療可能です

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緑内障と同じように40代から増えてくるという白内障。どんな疾患でしょうか?

「白内障は、目の中でレンズの役割をしている“水晶体”が、加齢とともに少しずつ硬く濁っていく病気です。それによって、視野が少しずつぼやけて、見えにくくなっていきます。ただしこちらは緑内障と違い、現在では手術による治療が可能です」

白内障の手術は50年ほど前から行われており、今では手術技術の進歩によって10分ほどでできるそう。

「濁った水晶体を超音波で吸引して、そこに小さなレンズを入れるという方法で、レンズを丸ごと交換する、というイメージです。手術を受けた患者さんの満足度はとても高くて、“世の中はこんなにきれいだったのか”と感動する人も多いんですよ」

緑内障も、白内障も、近視だと、よりなりやすい疾病です。これまでの記事でも紹介したように、近視の子どもがかなり増加していることを考えると、彼らが40代になる頃には、こうした疾患になる人の割合が急増するかもしれないと窪田先生はいいます。

大人になってから緑内障や白内障などになる確率を下げるためにも、子どもが近視にならないよう注意しておくことが重要なのですね。

最新の近視治療「ICL(眼内レンズ)」って、安全ですか?

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大人の視力矯正といえば、メガネやコンタクトレンズだけでなく、レーシック手術を受けた人もいるのではないでしょうか。レーシックが治療法として一般的になってきた一方で、最近ではICLという手術法も新たな注目を集めています。それぞれどんな治療法なのか教えてください。

出典『近視は病気です』(東洋経済新報社)より

「レーシックは角膜の表面にレーザー照射をして角膜の屈折を治す、という近視の治療手術。20年ほど前に始まり、今では技術も大変進歩して、手術後の視力回復のクオリティもかなり高くなっています」

たしかに、周りにもレーシックで視力が回復したという友人も多くいます。最近の近視治療では、ICL(眼内レンズ)を勧められることも多いと聞きますが……。

「最近の近視治療で主流になってきているのが、ICL=有水晶体眼内レンズです。ICLは、自分の水晶体を取り除き、代わりにソフトコンタクトレンズを目の中に埋め込む手術、と考えるといいと思います」

レンズを入れ替える! そんなことが可能なんですね。眼科医から見て、安全性はどうなのでしょうか?

「ICLのように目に何かを埋め込む手術というのは、やはりリスクは高いと考えています。レーシックとICLの違いをたとえるならば、頭の頭皮を手術するのがレーシックで、頭蓋骨を開けて脳の中に手を入れる手術がICL。ICLはそれだけ侵襲が大きいのです。

もし私だったら、正直自分の家族には勧めません。ですが、治療を受けることを検討しているのであれば、ICLをやっていない眼科医にもセカンドオピニオンで意見を聞くとよいと思います。メリット、デメリットを知った上で、慎重に判断してください」

ICLは効果が認められた治療法ではあるものの、一般化してからまだ10年ほどしか経っていないため、長期的なエビデンスは分かっていないのが現状とのこと。周りの誰かがやったから、と気軽に受けるのではなく、治療を受ける前にはしっかりリスクも確認しておきたいところです。ちなみに、ICLもレーシック治療も受けられるのは18歳以上と決められています。

眼科医の多くはメガネで視力矯正をしていて、レーシックやICLはしていません。それは目が精巧な機能を持った臓器なこと、そこにメスを入れる怖さを誰よりも知っているからです」

目の機能の素晴らしさを知っているからこそのこの言葉は、ズシンと響きました。

私たちの生活の質を大きく左右するのが「目」の健康です。子どもの近視の予防や治療から、子育て世代の私たちのこれからの目との付き合い方まで、この企画でご紹介したいろいろを、今後の自分と家族の健やかな生活のためにいかしていきたいものです。

撮影/横田紋子


 

窪田 良(クボタ リョウ)

医師、医学博士、窪田製薬ホールディングスCEO

1966年生まれ。慶應義塾大学医学部卒業、慶應義塾大学医学部客員教授、米NASA HRP研究代表者、米シンクタンクNBR理事などを歴任。虎の門病院勤務を経て米シアトルのワシントン大学助教授に就任。

2016年窪田製薬ホールディングスを設立し、本社を日本に移転。在宅・遠隔医療分野では、NASAと共同で、クラウドを使った在宅医療モニタリングデバイスや、ウェアラブル近視デバイスの研究開発を行っている。


 

『近視は病気です』(窪田 良/著 東洋経済新報社  1,650円・税込)

「メガネとコンタクトどちらがいい?」「メガネをかけても近視が進む理由」「スマホの画面は暗くした方がいいの?」など、私たちが日頃から気になっている「眼に関する疑問」に、明快に答えをくれる一冊。

近視は失明のリスクを高める病気!と警鐘を鳴らす著者が、世界基準の「最新の眼の常識」を教えてくれます。

安藤梢
安藤梢

フリーランスのライター。専門分野は医療。
出版社での営業職を経て、「人の話を聞く仕事がしたい」という思いでライターに転身。病院や医師の取材を中心に、医療系の雑誌、Web、広報誌、企業のオウンドメディアなどでインタビュー&ライティングをしています。夫と猫との2人+1匹暮らし。ライフワークは医師の人生についての聞き書き。

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