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【子どもの近視】1日2時間の「外遊び」が効果あり!ゲームも読書も屋外で!?

40年前と比べて、近視になる子どもの割合はどんどん増加し、今では小学生の約3割が近視になる時代です。なぜそこまで増えてしまったのか。その原因は、遺伝的なものではなく、環境によるものだそう。

近視について眼科医の窪田良先生に教えてもらう短期連載企画。今回は、子どもが近視にならないために、そして近視を悪化させないために、暮らしのなかでできる工夫についてお聞きしました。

目が成長する6~12歳までの過ごし方が重要!

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前回は、子どもの近視がここ数十年で急増しているという話をうかがいました。

ただ、子どもの近視は、日本ではまだまだ「病気」として扱われないことが多いのが現状です。

実際には、子どもの近視は、将来失明につながる病気、たとえば緑内障や白内障、網膜剥離といった疾患になる確率がかなり上がってしまうことがわかっていて、「病気」として扱うべき症状です。ただ、我々親世代には、まだそこまでの認識が浸透していないように思います。

近視への対策は、とにかく子どものうちからの生活習慣が重要だと窪田先生はいいます。

「生まれたばかりの赤ちゃんは強い遠視で、ぼんやりとしか見えていませんが、成長とともに徐々にピントが調整されていき、焦点が合っていく。その成長段階でピントがずれてしまうと、近視になってしまいます。

目が成長する時期はおよそ6~12歳頃まで。その時期にどんな環境で過ごしたかが、目の成長に大きく関わってくるのです」(「」内、窪田先生。以下同)

ということは、近視になるかどうかは、子ども時代に決まるのですね。

「最近では20歳を過ぎてから近視になる人もいますが、多くは子どものうちに近視になります。近視になる年齢が早いほど、将来、近視が強くなるといわれているため、近視になるのをいかに遅らせるかが大事です」

ゲームや読書で目が悪くなる理由

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よくゲームや読書によって目が悪くなると言われることがありますが、どんな環境が近視に影響するのでしょうか?

「本来であれば、12歳頃まではさまざまにピント調整をしながら目が成長していく時期。でも、スマートフォンを見たり、ゲームや読書をしたりといった、近くのものを見る『近見作業』ばかりを長時間続けていると、そこにピントを合わせようと、目や脳が無理をして調整してしまう。

その結果、目のカタチそのものが変わっていってしまい、遠くは見づらいカタチの目になります。それが近視、ですね」

では、近くのものを見る時間を減らせば、近視にならないのでしょうか?

「そうですね、近見作業は近視の大きな要因のひとつです。ただ、それ以上に今の子どもの近視の進行に関わるのが“屋内で過ごす時間が長いこと”なんです。

屋内で過ごすと、どうしても遠くを見る機会がないですよね。家の中で遠くを見るといっても、せいぜい5mくらいでしょうか。

たとえば、数m先のTVを見るとします。そのときに、TV画面以外にも、周囲にあるものすべてが、ピントのぼやけた状態で、たくさん目に映っているんです。

テーブルや椅子、リモコンやゲーム機などなど……。それらのものをすべて、目が感知して、反応しているんです。その状態が、目にはとてもよくない」

TVのように、本来ピントを合わせて見たいものより手前に、ゴチャゴチャとたくさんのものがある環境が目には良くない、ということなんですね。

1日2時間以上、屋外で過ごすことが効果的

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では、子どもが近視にならないようにするには、日頃からどんなことができるでしょう。

1日2時間以上屋外で過ごすと、近視の進行を抑えられることが分かっています。この“2時間”は連続ではなく、途切れ途切れの合計でも大丈夫。

実は台湾ではすでに、小学生を対象に、学校で1日2時間程度は屋外活動をすることが義務づけられています。その取り組みによって、子どもの近視も実際に減り始めているんですよ」

屋外で過ごすだけで効果があるのは驚きです。“屋外”が目に良いのはどうしてでしょう。

「理由は2つあります。1つは、屋外で過ごすことで、遊びや運動の中で自然と“遠くを見る”状態になること。

遠くを見ることで、目のピントを調整できるのと同時に、“屋外で遠くを見る”ということも重要です。屋外であれば、遠くを見たときに、屋内のように周辺のごちゃごちゃとしたものが目に写りこむことも少ないですから。

遠くを見るために、わざわざ山に行ったり、星を見に行ったりする必要はありません。近視にならないようにするには、公園や学校の校庭などで遊ぶだけで十分なんです」

遠くを見るのが目に良いことは知られていると思いますが、その理由のひとつは“手前にものが写りこまないから”なんですね。窪田先生によると、屋内であっても半径5m以内に何もない空間にいることができれば、目には悪影響がないとのこと。

ただ、それは現実的にはなかなか難しいので、やはり外に出るのがよさそうです。

屋外が近視にいいもう1つの理由は、太陽光を浴びることです。はっきりとしたメカニズムは現在研究中ですが、太陽光には近視になるシグナルを抑える効果があることがわかっています。

必ずしも直射日光を浴びる必要はなく、屋外であれば日陰でもOK。ただし、太陽光の波長をそのまま浴びることが重要で、ガラスを通してしまうとフィルターがかかってしまい、効果はありません」

つまり、室内で窓ガラス越しに太陽光を浴びても近視を抑える効果はない、ということなんですね。

「はい。極端かもしれませんが、私の知り合いの眼科医は、お子さんがゲームをするときに必ずベランダでさせていたそうです。

効果のほどは分かりませんが、中学生になっても近視になっていないそうなので、少なくとも室内でゲームをするよりは目には良いのではないでしょうか」

どうせゲームをするなら、せめて屋外で……という眼科医の親ならではのエピソードですね! 近視を抑えるためには日陰でも効果があるとのこと。夏の間は熱中症にも注意しながら、日陰で工夫して過ごしたいところ。

2024年に文部科学省から発表された『児童生徒の近視実態調査』でも、90〜120分の毎日の屋外活動が、子どもの近視に実際に効果があることが記されています。

ただ現実的には、今の日本の子どもたちが、毎日屋外で2時間過ごすというのは、なかなかに難しい環境ですよね……。学校の休み時間に外に出る習慣をつけるほか、サッカーや野球など、屋外で過ごす競技のチームに入って、定期的に外で過ごす予定を入れる、というのも一つの方法かもしれません。

文部科学省「令和4年度 児童生徒の近視実態調査」より

紫外線から目を守るために、子どもにもサングラスは必要?

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屋外がよいとはいっても、暑い時期には、子どもの紫外線対策も気になるところです。外に出るときには、サングラスをかけたほうがよいですか?

「紫外線によるメリット、デメリットで比較してみると、紫外線による目への悪影響よりも、近視を抑制する効果のほうが、はるかに大きいといえます。

もちろん冬場のスキー場のように、雪面に反射した強い紫外線があるなど、サングラスをかけたほうがよい場面もありますが、日常生活を送るうえでは、特に必要ありません」

子ども時代の生活習慣が、近視につながり、ひいては将来の失明リスクを増やすことにも! 子どもの近視を軽くみることなく、今からすぐできる工夫をしていきたいものですね。

次回は、子育て世代に注意が必要な、自覚症状がない目の疾患についてお聞きします。

撮影/横田紋子


 

窪田 良(クボタ リョウ)

医師、医学博士、窪田製薬ホールディングスCEO

1966年生まれ。慶應義塾大学医学部卒業、慶應義塾大学医学部客員教授、米NASA HRP研究代表者、米シンクタンクNBR理事などを歴任。虎の門病院勤務を経て米シアトルのワシントン大学助教授に就任。

2016年窪田製薬ホールディングスを設立し、本社を日本に移転。在宅・遠隔医療分野では、NASAと共同で、クラウドを使った在宅医療モニタリングデバイスや、ウェアラブル近視デバイスの研究開発を行っている。


 

『近視は病気です』(窪田 良/著 東洋経済新報社  1,650円・税込)

「メガネとコンタクトどちらがいい?」「メガネをかけても近視が進む理由」「スマホの画面は暗くした方がいいの?」など、私たちが日頃から気になっている「眼に関する疑問」に、明快に答えをくれる一冊。

近視は失明のリスクを高める病気!と警鐘を鳴らす著者が、世界基準の「最新の眼の常識」を教えてくれます。

安藤梢
安藤梢

フリーランスのライター。専門分野は医療。
出版社での営業職を経て、「人の話を聞く仕事がしたい」という思いでライターに転身。病院や医師の取材を中心に、医療系の雑誌、Web、広報誌、企業のオウンドメディアなどでインタビュー&ライティングをしています。夫と猫との2人+1匹暮らし。ライフワークは医師の人生についての聞き書き。

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