小学生の4人に1人が近視に。将来、目の疾患になる可能性も。
null窪田先生によると、日本で近視になる子どもの割合は、数十年前と比べて明らかに増加しているのだそう。一体、どのくらい増えているのでしょうか。
「2022年の統計データでは、視力が1.0未満の子どもの割合は過去最高になりました。小学生の37.9%は近視で、中学生、高校生になるとそれよりもさらに増えます。しかも、その数字は統計を取り始めてから45年以上、ずっと増え続けている。
いまや小学生の4人に1人は近視になる時代なのです」(「」内、窪田先生。以下同)
まさかそんなに増え続けているなんて。なんとなくメガネの子どもが増えている、という感覚はありましたが、そこまで悪化しているとは衝撃です。急激に悪化しているのはなぜですか?
「数十年という短い期間で近視になる子どもが増えたということは、遺伝子の変化によるものではなく、明らかに環境の変化によるものです。
外で遊ぶ時間が減ったことや、ゲームや読書などで近くのものばかり見ていることで引き起こされたと考えられます」
昔に比べて、子どもの生活環境が変わったことが原因なのですね。
「そうですね。ただそれに加えて、ここまで近視の子どもが増加した背景には、近視が単に“見えづらい現象”として軽く見られてきたことが影響しているように思います。近視と言われたら、メガネやコンタクトレンズで“とりあえず見える”ように調整すればいいですよね、と思ってる人がまだまだ多い。
でも今では、近視がひどくなると、将来的には緑内障や白内障、網膜剥離といった失明につながる疾患になる可能性が高まることが分かっています。
まずは親世代が“近視は病気”ということを理解して、子どもの近視を軽く考えず、予防や治療と真剣に取り組んでいくことが、なにより重要です」
子どもの近視は治療できる!
null子どもの近視が、将来の失明の可能性を広げてしまう病気だとは……、知りませんでした。メガネやコンタクトレンズで矯正して、見えるようにすればよい、というものではないのですね。
“病気”ということは、治療もできるのでしょうか?
「はい。現在日本では、子どもの近視のメジャーな治療法は、大きく2つあります。
睡眠中にハードコンタクトレンズをつけて視力矯正するオルソケラトロジーと、瞳孔を広げるアトロピン点眼薬です。どちらも、近視の進行を遅くできることが分かっています」
それぞれにメリットデメリットがあるため、それを知った上で治療法を選択してほしいと窪田先生は話します。
「オルソケラトロジーは、寝てる間に専用のコンタクトレンズを付けておくことで角膜を圧迫して、角膜の形を変える、という治療法です。ただし、角膜を長く圧迫する、ということから将来的に乱視になる可能性を指摘する先生もいらっしゃいます。
また、アトロピン点眼薬は、長期にわたって薬剤を目に入れ続けるので、小さいお子さんへの処方に抵抗がある人もいるかもしれません」
どちらも、厚生労働省の認可を受けている治療ですが、現在のところ保険診療の適応ではないため、近視抑制のための自由診療という扱いになります。
費用はクリニックによって幅がありますが、オルソケラトロジーは初年度に15~30万円程度、2年目以降は3~6万円程度。アトロピン点眼薬は1カ月で2,500~4,000円程度が目安だそう。
「近視の治療法には、それ以外にも、子ども用の遠近両用メガネのようなものでの矯正方法や、レッドライトという光を使った治療法などが世界中で研究中です。
また、私自身も『クボタグラス』という、治療用メガネの開発に力を入れています。このメガネは、光の力で“矯正的に遠くを見ている状態”を作るというもの。オーダーメイドということもありまだかなり価格が高いので、今後は低価格化が課題です」
新しい治療法がどんどん研究されているのですね。いずれは近視を治療することが常識になっていきそうです。
弱めの度数にするのは注意!メガネやコンタクトレンズの作り方
nullところで、子どもの近視が進んでしまった場合は、メガネやコンタクトレンズで矯正をしますが、選ぶ基準などはありますか?
「どちらを選んでも近視の進行に違いはありません。ただ、眼科医はメガネを勧めています。……というのも、コンタクトレンズを装着するときに汚れた手で触ってしまうと、目が傷ついたり、細菌に感染したりするリスクがあるからです。子どものうちは、やはりメガネのほうが安全だといえます。
ただ、激しいスポーツをしているなど、お子さんのライフスタイルによってはコンタクトレンズを勧める場合もあります」
メガネでもコンタクトレンズでも近視の進行には影響がなく、どちらを選ぶかは、子どもの生活上での安全性から考えたほうがよいとのこと。
「ただし、どちらを選ぶにしても、大事なのはぴったり合った度数で作ることです」
ぴったり合った度数とはどういうことでしょうか。これまでメガネを作ったときに、「少し弱めの度数にしますか?」と聞かれることがあったような……。少し弱めにしておくほうが、視力が悪くならないと思っていました!
「一時期は、度数が弱いメガネをかけたほうが、目が疲れないので良いとされていたことがあるのですが、それは間違いです。最近の研究では、度数が合っていないと近視の進行スピードがさらに速くなることが分かっています」
弱い度数だと、メガネをかけてもピントが合わないので、ピントを合わせようとしてさらに眼が無理をしてしまう、という仕組みだそう。度数を弱めたメガネが眼によくないとは、驚きです。では、実際に眼科でメガネを作るときに、ぴったり合った度数にするためにはどうすればよいでしょう?
「メガネを作る際には、眼科医に“完全矯正をしてください”と伝えてください。そうすれば、弱めの度数で作られることはありません」
近視が病気だということを知った上で、しっかり治療をしたり、度数の合ったメガネやコンタクトレンズで矯正したりすることが重要なのですね。
次回は、子どもが近視にならないようにするための予防法、暮らしのなかでできることをお聞きします。
撮影/横田紋子(人物・クボタメガネ/小学館)
窪田 良(クボタ リョウ)
医師、医学博士、窪田製薬ホールディングスCEO
1966年生まれ。慶應義塾大学医学部卒業、慶應義塾大学医学部客員教授、米NASA HRP研究代表者、米シンクタンクNBR理事などを歴任。虎の門病院勤務を経て米シアトルのワシントン大学助教授に就任。
2016年窪田製薬ホールディングスを設立し、本社を日本に移転。在宅・遠隔医療分野では、NASAと共同で、クラウドを使った在宅医療モニタリングデバイスや、ウェアラブル近視デバイスの研究開発を行っている。
フリーランスのライター。専門分野は医療。
出版社での営業職を経て、「人の話を聞く仕事がしたい」という思いでライターに転身。病院や医師の取材を中心に、医療系の雑誌、Web、広報誌、企業のオウンドメディアなどでインタビュー&ライティングをしています。夫と猫との2人+1匹暮らし。ライフワークは医師の人生についての聞き書き。