体温が過度に上がると危ない
null長谷川教授によると、熱中症で倒れたり救急搬送されたりする場合の深部体温は、40度以上にもなっているそうです。体温が過度に上がった状態が続くと、体はダメージを受け、場合によっては命にも危険が及びます。
「人の“深部体温”と呼ばれる臓器に近い部分の体温は、通常37度くらいです。38〜38.5度くらいだとスポーツのパフォーマンスとしてはよいのですが、もっと上がって39度や40度になると危ない。足がつる、頭痛、体がだるいなど、熱中症の症状が見られます。
また、お子さんが暑い日に顔を真っ赤にするのも、体が火照っているサインです。思春期に入る前のお子さんは、まだ汗がうまくかけません。それにより体温調整ができず、熱中症になる場合があるのです」(以下「」、すべて長谷川 博教授)
大切なのは、こうした症状が出る前から、こまめに木陰や涼しい場所で休むこと。運動する前のウォーミングアップもよいそうです。
「体がうまく動き、脳が活性化するだけでなく、体温の急上昇を防ぐことができますよ」
「身体冷却」を取り入れよう
null休息やウォーミングアップなど、気をつけていても、夏場は体温が上がりがち。そんなときに有効なのは、「体を内側と外側から冷やす『身体冷却』。これにより、過度に体温が上がることを防ぐことができます」。
すぐに取り入れられる方法やアイテムを教えていただきました。
1.首元や脇に「氷のう」をあてる
熱は、必ず高温から低温に伝わるという性質があります。それを利用したのが、氷のうや凍らせたペットボトルなどを活用した「熱放射」。近ごろ、首にくるっと巻きつけるタイプも増えているので、実践している方も多いはず。
「冷たいものを首や脇などにあてたり、手でぎゅっと握ったりすることで、体温を下げることができます」
2.手と腕を「アイスバス(氷風呂)」に浸す
「アイスバス(氷風呂)」は、プロアスリートも運動後の回復に使う方法。長谷川教授のおすすめは、15度くらいの冷水を満たしたバケツに、手のひらと前腕を浸すやり方です。
「手のひらには、動脈と静脈があわさる特殊な血管があります。これは普段は閉じていますが、暑さなどでいったん血管が拡張すると、大量の血液が循環します。手のひらを冷却することで、冷やされた血液が静脈を通じて全身を冷やしてくれるのです」
静脈をめぐって心臓に戻った血液は、今度は心臓から動脈を通り全身に送り込まれます。だから手のひらの血管を冷やすことが有効なのだそう。
3.「アイススラリー」を飲む
体の内側から冷やすなら「アイススラリー」を飲むのがおすすめ。「アイススラリー」は、液体に微細な氷の粒がまざった飲みもので、2010年ごろから海外で注目されはじめたそうです。
「スポーツ飲料のように糖質や電解質が氷に含まれていて、少しドロッとしています。水分・糖質・電解質が補給でき、冷たい水よりも効率的に体を冷やせるという実験結果もあります」
また、揉みながら飲むことで、アイスバスのように手の血管を冷やしてくれるというメリットも。
注意すべきは、溶けて液体になると冷却効果は期待できないという点です。
「通常よりも結晶が微細な氷入りの飲みものだから、体の内部を効率よく短時間で冷却できるといわれています。だから溶けてはだめ。長時間持ち歩く場合は、機能性の高い魔法瓶を活用するのがおすすめです」
さらに、国立スポーツ科学センターが推奨するには、アイススラリーの摂取量は、体重1kgあたりで約7g程度。実際には成人でも一度に100g前後が現実的な量とのこと。
「一度にたくさん摂ると胃腸に負担がかかり、深部体温も下がりすぎるので、運動前や休憩中に、少しずつこまめに摂取してください」
熱中症予防や熱中症対策として、経口補水液を飲む方もいます。アイススラリーの代わりに経口補水液を摂るのは正しいのでしょうか?
「経口補水液は、スポーツドリンクの3倍ほど塩分濃度が高い。ひどく脱水したり、あまり水分が摂れないゲリのような場合に飲む、点滴のようなものです。これから活動する人が脱水予防のため飲んだり、スポーツドリンク代わりにゴクゴク飲むのは避けましょう。ひどい脱水が起こっていないと、しょっぱいと感じるはず。かえって喉が渇いてしまいますよ。
喉を潤す場合は真水でOK。運動の時間が長い、体重が減るなどの脱水症状が見られたら、糖分と電解質も補えるスポーツドリンクを飲み、身体冷却をする場合はアイススラリーが有効です」
【つくり方】自家製アイススラリー
ウェブサイトなどでも購入できますが、自宅にミキサーがあれば「アイスラリー」に近いものをつくることもできるそうです。
「製氷容器で凍らせたスポーツ飲料の氷と、スポーツ飲料を、3対1の割合でミキサーにかけてください。氷だけだとしゃりしゃり感が強いので、スポーツ飲料をまぜましょう」
4.風をおくる「ファン付きウェア」も有効
屋外で仕事をする方をはじめ、近年では外出時やスポーツ、登山などアウトドアアクティビティーをするときにも愛用者がいる「ファン付きウェア」。薄手のベストやジャケットに、バッテリーで動くモーター式の扇風機がついたアイテムです。
「熱中症の原因の一つが、湿度の高さや無風状態。ファン付きウェアで体の表面に風を起こすことは、外側からの身体冷却につながる。ハンディファンも含めて、取り入れるのはよいと思いますよ。
部屋の中なら、うちわであおいだり、扇風機をまわすだけでも随分変わります」
万が一、熱中症にかかったら?
nullどれだけ気をつけていても、またふだん元気と思っている人でも、油断は禁物。環境や体調などの条件で、誰もが熱中症になる可能性があります。
「まずは重症化しないよう、自分の体の変化に早く気が付くことが大切です。
そして、同じ経験を繰り返さないためにも、熱中症から回復したら分析しましょう。気温や湿度などの環境条件をはじめ、暑さに慣れていたか、肥満、高齢などの個人の要因、運動していたかなどを振り返ります。そして、起きたときと同じような環境に自分を置かないことです」
さらに、熱中症から回復して間もなくは、まだ体が弱っている状態。無理はせず、少しずつ日常を取り戻すことも熱中症を繰り返さないポイントとのこと。
恐れすぎず、でも軽く見ない。できる対策はどんどん取り入れて、何が自分に最適かを知る。全てのことに当てはまるかもしれませんが、熱中症もまたその一つ。長谷川教授からのアドバイスをもとに、どうぞ素敵な夏を!
【教えてくださった方】
長谷川 博教授
広島大学大学院人間社会科学研究科教授。1971年東京都生まれ。横浜国立大学大学院教育学研究科修了(体育学修士)。東京都立大学大学院理学研究科修了(理学博士)。運動生理学を専門とし、運動および環境ストレス時における生体反応や身体の適応反応について、生理学的手法を用いて分析。研究のキーワードは、熱中症予防、暑さ対策、身体冷却、体温調節、スポーツパフォーマンス。日本スポーツ協会「スポーツ医科学専門委員会スポーツ活動中の熱中症事故予防に関する研究プロジェクト」班員、国立スポーツ科学センター「東京オリンピック特別プロジェクト」研究員などを務める。
朝ランが日課の編集者・ライター、女児の母。目標は「走れるおばあちゃん」。料理・暮らし・アウトドアなどの企画を編集・執筆しています。インスタグラム→@yuknote