人気の夏の飲み物といえば麦茶。熱中症予防の効果は…?
nullこんにちは。管理栄養士のFUKAです。
今年も本格的に暑くなってきましたね。夏の飲み物といったら皆さんは何を思い浮かべますか? 麦茶を思い浮かべた方も多いのではないでしょうか。『kufura』で以前実施したアンケートでも、「夏の外出時の飲み物」として、大人・子どもともに最もよく飲まれているのが麦茶でした。夏と言えば麦茶のイメージがありますが、熱中症対策としてはどうなのか、気になりますよね?
そこで今回は、様々なメディアで熱中症対策について発信している十河剛先生に、麦茶の熱中症対策効果について教えていただきます。
早速ですが十河先生、夏の飲み物として麦茶を選ぶのは、適しているのでしょうか?
「結論から言うと、麦茶だけを飲み続けた場合、水分補給としての効果はありますが、外出時や運動時の熱中症対策としての役割はほとんど期待できません。なぜなら麦茶には通常、熱中症の対策に有効なミネラルであるナトリウム(塩)やカリウムは、わずかな量しか含まれていないんです」(以下「」内、十河先生)
効果がほとんど期待できない……! 冒頭から衝撃的な事実です。
「とはいっても麦茶がNGなわけではなく、梅干しなどと一緒に摂取して足りない塩分を補給することで、熱中症予防の効果が得られます。
また、涼しい室内など汗をかかない環境での水分補給であれば、無理に塩分を摂る必要はないので、カフェインや糖分の含まれていない麦茶はおすすめの飲み物です」
なるほど。麦茶の特性を理解して、飲み方を工夫することが大切なんですね。
夏の外出時や運動時は、麦茶と一緒に塩分補給を忘れずに
null麦茶の場合、梅干しなどと一緒に飲むことで、塩分を摂取する必要があるとのこと。それはなぜでしょうか?
「ミネラルのなかでも、熱中症対策を考えた時に特に大切なのがナトリウム(塩)です。ナトリウムは体に水分を保持してくれる役割があります。しかし汗をかくとその大切なナトリウムが体の外に出て行ってしまうので、失った分をしっかりと補給する必要があります」
汗がしょっぱいのはナトリウムが体から出てしまっているからなのですね。でも、麦茶にナトリウムはほとんど含まれていない、と。
「熱中症対策としては水分とナトリウムを同時に摂取することが基本。経口補水液やスポーツドリンクであれば、その両方が含まれています。
とはいえ、お子さんをはじめ“麦茶の方が飲みやすい”という人も多いでしょう。その場合は梅干しなど、別の方法で失われたナトリウムを補うことで、熱中症を予防することができます。
なお、血液中のナトリウムが足りていない状態で激しい運動をし、急激に水分だけを大量に摂取するのはおすすめできません。さらに血液中のナトリウム量が薄まり、逆効果になってしまう場合もあるので、運動前や運動中の塩分摂取をしっかりして、血液中に十分なナトリウムがある状態を保ちましょう」
水分と塩分を一緒に摂るのがポイントだということ、よくわかりました。では、実際に水分と塩分はどのくらいの量を摂るのが適切なのでしょうか。
「私が以前行った調査では、6月後半の気温の高くない曇りの日であっても、小学生が体育1コマ(45分)運動した場合、約300mlの汗をかき、食塩約1.3g相当、だいたい梅干し1個分のナトリウムが失われたという計測結果が出ました。
曇りでこの結果なので、夏場に1時間運動する場合は、最低でもペットボトル1本(500ml)くらいの水分摂取が欠かせません。2時間なら、その倍の1Lを目安にしましょう。また、これは小学生の場合なので、体が大きい大人であれば、さらに多くの水分が必要になります」
そう考えると子供の水筒は小さいですね……。
「そうなんです。多めに水分を摂り、梅干しや経口補水液、もしくはお昼ごはんの味噌汁などで、しっかり塩分を摂取するようにしてください」
塩分については、食材ごとの食塩相当量が
- 梅干し(大)1個・・・1.52g
(調味漬け/可食部20gとして計算) - 味噌汁1杯・・・1.35g
(塩分濃度0.9%で150ml摂取) - 経口補水液500ml・・・1.46g
(『大塚製薬』「OS1」)
ほどなので、だいたい梅干し1個分、味噌汁1杯、経口補水液1本が目安になりますね。スポーツドリンクや塩あめなどはいかがでしょうか?
「スポーツドリンクは経口補水液よりも糖分が多く、塩分が少なめです。また、塩あめも同様に、必要な塩分を摂ろうとすると1個では足りず、何個もなめる必要があります。どちらも塩分摂取という意味で効果はあるのですが、糖分の過剰摂取につながる恐れがあるので注意が必要です」
塩分タブレットやお菓子類など、他にも塩分の摂取ができるものはありますが、十分な塩分を摂取しようと思うといくつも食べる必要があったり、逆に塩気が強すぎて食べづらかったりする場合も……。それぞれの成分をよく確認して、適度な塩分量を無理なく摂取するようにしましょう。
暑くなりはじめのシーズンが危険!特に子供は要注意
nullその他、熱中症に関して注意すべきことはありますか?
「まだ体が暑さに慣れていない梅雨明け直後~7月末は、特に注意が必要です。“暑さに慣れる前”の汗のナトリウム濃度は、“暑さに慣れてきた状態”のナトリウム濃度よりも高いので、より多くのナトリウムを失ってしまいます。
暑さに慣れるのには大人でも約2週間かかります。体の小さい子供の場合、さらに時間がかかるのでご注意ください」
大人が暑さに慣れてきても、子供は必ずしもそうではないということですね。暑さに慣れるといった点で何かできることはあるのでしょうか。
「ずっと冷房がよく効いた部屋にいると、なかなか体が暑さに慣れません。なので健康な大人であれば、冷房の設定温度を少しだけ高めに設定することで、暑さに体を慣らしていくことも効果的です。ただ、お年寄りや子供の場合、冷房を控えることで体調を崩す危険性が高いため、けして無理はせず、しっかり冷房を使うようにしてください」
夏場は冷房が効きすぎていて逆に寒いような場所もありますよね。そういった所に長時間いると、体が暑さに慣れにくいというのも納得がいきます。
室内での日常生活には、麦茶はおすすめ。塩分は食事からの摂取も重要!
nullデスクワークなどで汗をかかない場合でも、麦茶と合わせて塩分を補給したほうがいいでしょうか?
「汗をかいていなければ、無理に塩分を摂る必要はないので、麦茶だけで問題ありません。
普段の食事からも、十分な塩分量を摂取することができるので、1日3食をしっかり食べることが熱中症対策にもなります。また、旬の食材などを意識的に食べるのも効果的です。夏の食材には水分やカリウムが摂れるものも多く、夏野菜やスイカなどに塩をふって食べればナトリウムも摂取できます」
確かに、夏野菜はみずみずしくて水分がたくさん含まれていますね! 旬のものを取り入れることで、美味しく手軽に熱中症対策ができそうです。
緑茶や紅茶などと比較した場合、麦茶で水分補給するメリットやデメリットはありますか?
「緑茶や紅茶はたくさん飲むとカフェインの過剰摂取が心配されますが、1日にペットボトル1~2本程度でしたら問題ないかと思います。麦茶であればノンカフェインなので、妊娠中の方や、体質的にカフェインを避けている方でも気にせず飲むことができますね。
また、糖分も含まれていないため、清涼飲料水などと違って、糖分を摂りすぎる心配もありません。
“外出時や運動時には、麦茶だけでなく塩分も摂取する”という点にだけ注意すれば、夏の水分補給源として、麦茶はとても適していると思います。美味しく飲んで、暑い夏を乗り越えていきましょう」
十河先生、ありがとうございました! 熱中症対策には水分と塩分が大切ということがよくわかりました。汗をかいたら塩分補給!と覚えておきます。
次回は、「熱中症対策のベストな飲み物」がテーマ。水やスポーツドリンク、経口補水液などそれぞれについて、飲むのにおすすめのタイミングを詳しくうかがいます。お楽しみに!
【参考文献】
・文部科学省「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」
・「大塚製薬 OS-1」栄養表示
https://www.os-1.jp/products/os1/petbottle/#nutrition-facts
(最終参照日:2023/07/19)
十河 剛(そごう つよし)
済生会横浜市東部病院 小児肝臓消化器科 部長。肝臓、消化器、スポーツ医学を専門とする。「Best Doctors in Japan 2022-2023」に選出、日本スポーツ協会公認スポーツドクター。
幼少時より武道の修行を続けており、躰道七段教士、合気道二段、剣道二段の資格を持つ。高校生と大学生、2人のお子さんのパパ。
家族が笑顔になれる 【幸せおうちごはん】のレシピを紹介する管理栄養士/料理家。簡単だけど、美味しくてちょっとおしゃれなレシピが大人気。
公式Instagram:【管理栄養士】FUKAの褒められおうちごはん @morifu_popo