膀胱炎の原因と主な症状は?
null泌尿器系のお悩みで「尿もれ(尿失禁)」「頻尿(ひんにょう)」と並んで多いのが、膀胱炎です。女性には身近な疾患なので、経験したことがある方もいるのでは? かくいう私も、膀胱炎になったことがあります。あまりの痛みに悶絶したのはつい最近のこと。周りにも経験者が多いので、「いつでも、誰でもなりうる疾患」なのだと実感しました。
乾先生、膀胱炎になる原因は何でしょうか。
「膀胱炎は、疲れやストレスがあって免疫力が低下したり、排尿を長時間我慢した結果として起こりがちです。特に仕事や育児などで、すぐにはトイレに行けない環境にいると、日常的に排尿を我慢することになり、膀胱炎になりやすい傾向があります」(「」内、乾先生。以下同)
忙しくてトイレに行くのを我慢していると、気付いたときには膀胱炎になっていた……。なんていうことも。そもそも膀胱炎とはどんな疾患ですか?
「膀胱炎は感染症のひとつです。尿は腎臓で作られて、尿管を通って膀胱に運ばれ、最終的に尿道を通じて体外に排出されます。尿道から細菌が侵入することが膀胱炎を引き起こします。
膀胱の中に尿がたまっている状態が長く続くと、細菌は繁殖しやすくなります。排尿を我慢していると膀胱炎になりやすいのはそのためです」
なるほど。ということは、こまめに水分補給をして排尿をしていれば、膀胱炎になりにくいのでしょうか。
「こまめな排尿は、膀胱と尿道に侵入した細菌を洗い流すのに役立ちますが、これだけで膀胱炎のリスクが完全になくなるわけではありません。
そもそも女性は男性に比べて尿道が短く肛門に近いため、雑菌が入りやすく、膀胱炎になりやすい特性があります。また、生理中などに下着の中が蒸れて菌が繁殖しやすい環境になったり、という場合も」
女性のほうが圧倒的に膀胱炎になりやすいのは、体の構造によるものなんですね。では、どんな症状があったら“膀胱炎かも?”と疑ったらいいんでしょう。
「主な症状としては、トイレの回数が増える、排尿時に痛みがある、尿を出し終わっても残尿感がある、尿が濁る、血尿が出るなどがあります。ちょっとくらいなら、と我慢すると悪化してしまう可能性もあるので、早めに治療をスタートすることが肝心です」
抗生物質の服用を途中でやめるのは要注意!
null膀胱炎になった場合には、どんな治療をするのでしょうか。
「治療には抗生物質の内服が一般的です。症状の重さによっては、数日で改善することもありますが、1週間程度がかかる場合もあります。感染した細菌の種類によっては治りにくいものもありますので、皆さんが同じ経過をたどるわけではありません。
また、薬での治療と併せて、水分をしっかり摂ることも大切です。こまめな排尿で細菌を洗い流して、症状を改善させます」
抗生物質が効くと聞いて安心しました。
「抗生物質での治療で大事なのは、処方された薬を最後まで飲み切ること。これは耐性菌といって、抗生物質が効きにくい細菌が発生するのを抑えるためです。膀胱炎では5日~1週間分の薬を処方しますが、症状が治まったからといって薬を飲むのをやめてしまわずに、必ず最後まで飲み切ってください」
症状がなくなると、ついつい“薬はもういいかな?”と思ってしまいそうですが、自分の判断でやめるのは要注意。症状の有無にかかわらず、処方された薬は全部服用するようにしましょう。
「膀胱炎にならないようにすることも大事ですが、同じくらい大事なのが、膀胱炎になってから我慢をしないことなんです。膀胱炎をほうっておくと、細菌が尿道を逆行して腎臓にまで到達してしまうことも。それを『逆行性感染』といいます。
腎臓が感染すると腎盂腎炎(じんうじんえん)という疾患になり、重症化すると入院治療が必要になるケースもあります。膀胱炎になったら、まずは我慢せずに泌尿器科を受診しましょう」
「膀胱炎は何度もくり返す」は本当?
null膀胱炎になった人は、その後、何度もくり返すと聞いたことがあります。一度、膀胱炎になると、またなりやすいのでしょうか?
「そう思っている人は多いですよね。でも、膀胱炎になった人が、皆さんくり返しなるわけではありません。もしくり返すとしたら、いくつか原因が考えられます。
一つは抗生物質での治療が適切にできていなかったケース。泌尿器科では最初に尿の培養検査を実施して細菌の種類を特定しますが、結果が出るには1週間ほどかかります。それをもとに、処方した抗生物質が適切だったかどうかを判断します」
検査の結果によって必要があれば、他の薬を処方することもあるといいます。また、市販薬などで“とりあえず”症状を抑えた場合、きちんと菌を抑えきれていないままになっているケースも。
「膀胱炎をくり返す、もう一つの原因は、泌尿器系の基礎疾患があるケースです。例えば、残尿がある場合、つまり排尿障害が存在する場合は、膀胱炎になりやすくなります。膀胱炎の尿が完全に排出されないことで、細菌が繁殖しやすい環境が作られ、膀胱炎のリスクが高まります。
他にも更年期の女性は膀胱炎になりやすいとされています。これは女性ホルモンの減少により、膣や会陰部の保護的な細菌叢(フローラ)のバランスが変化するためです。その結果、感染しやすくなる可能性が高まります。
そういった患者さんの中には、婦人科で女性ホルモンの補充療法を行うことで、これらの症状が改善されることもあります」
更年期が膀胱炎に影響するとは知りませんでした。一概に、膀胱炎になると何度もくり返すといえるのではなく、それぞれ理由があって、適切に対処することが大切なのですね。
体の状態を知るために、“尿を見る”習慣を
null毎日の生活の中で、泌尿器科医として伝えておきたい、“注意をしておくといいこと”はありますか?
「血尿が見られた場合は特に注意が必要です。一般的に『疲れていると血尿が出る』と誤解されがちですが、基本的に疲れだけで血尿が出ることはありません。腎臓や膀胱の悪性腫瘍、尿路結石など、泌尿器系の疾患が隠れている可能性があるので、もし血尿が出たときには、検査のために泌尿器科を受診してください」
血尿を放置しているうちに、隠れた疾患が進行してしまうこともあるとのこと。また、女性の場合は生理による出血もあるので、血尿に気付きにくいかもしれません。
「そうですね。そもそも女性は男性に比べて、排尿のたびに尿を見る習慣がない人がほとんどだと思います。なので、普段から、自分の尿の色を確認する習慣を身に付けておくのがおすすめです。明らかに尿の色が赤いと感じたり、濁っていたりと変化を感じたら、そのサインを見逃さないようにしましょう」
たしかに、普段から尿を見るようにしておけば、ちょっとした異変にも気付けそうです。尿を見るだけなら一瞬のこと、自分の体の状態を知るためにも、日々の習慣にしたいです。
排尿に関する症状は、泌尿器科でOK
null排尿の悩みには女性特有のものもあるので、婦人科を受診すればよいのか、泌尿器科を受診すればよいのか、と迷うことがあります。泌尿器科を受診したほうがよいのは、どのようなときですか?
「尿もれ、頻尿、膀胱炎などの排尿に関連する症状は、泌尿器科で診断・治療することが可能です。女性にとって泌尿器科はあまりなじみがないかもしれませんが、排尿の悩みは誰にでも起こりうる身近なものですので、ぜひ気軽に受診してほしいです」
排尿に関することなら、何でも泌尿器科で相談できるんですね。
泌尿器科というと、なんとなく「よく分からなくてハードルが高い……?」ようなイメージがありましたが、私たちにとって身近な排尿の悩みを相談できる診療科。困ったときは、気軽に駆け込みたいですね。
【取材協力】
乾将吾(いぬい しょうご)先生。
いぬいクリニック院長、日本泌尿器科学会認定泌尿器科専門医・指導医。
2009年、京都府立医科大学卒。卒業後、同泌尿器科に入局。京都府立医大病院のほか京都市内の複数の病院で勤務後、在宅医療にも従事し、より広範な医療現場を経験する。
2022年「いぬいクリニック」を京都の烏丸御池・二条城エリアに開院。
クリニックを診療の場としてだけでなく、人々が集うコミュニティへと発展させるべく、フラットスペース「いぬいのいこい」をクリニック2階に設けワークショップなどを開催。
フリーランスのライター。専門分野は医療。
出版社での営業職を経て、「人の話を聞く仕事がしたい」という思いでライターに転身。病院や医師の取材を中心に、医療系の雑誌、Web、広報誌、企業のオウンドメディアなどでインタビュー&ライティングをしています。夫と猫との2人+1匹暮らし。ライフワークは医師の人生についての聞き書き。