子育て世代の「暮らしのくふう」を支えるWEBメディア

【泌尿器科医が解説】「尿もれ」の原因4つとその仕組みは?鍛えるべき「骨盤底筋の場所」はこの方法で確認を!

「排尿や泌尿器疾患について正しく知ろう」というこの連載、第3回のテーマは「尿もれ」。なかなか人には言いづらいお悩みですが、実は40歳以上の女性の4割以上は尿もれを経験したことがあるのだそう。

オトナ女性にとって身近な尿もれについて、泌尿器科医である乾将吾先生に、その原因や治療法を教えていただきました。

日本人女性の4割は尿もれを経験

null

子育て中のkufuraの読者世代、泌尿器系のお悩みで多いのが「尿もれ」に関するものです。「年齢とともに尿もれが気になるようになってきた」「出産してから、時々、尿もれすることがある」と、人知れず尿もれに悩んでいる人は少なくありません。

日本泌尿器科学会によると、40歳以上の女性の4割以上が尿もれを経験しているそう。そんなに多いとは、知りませんでした!

「尿もれに悩んでいても、泌尿器科を受診する方はごく一部です。そう考えると、実際に悩んでいる人の数はもっと多いのではないでしょうか。別の症状で受診した患者さんに、よくよく話を聞いてみると『実は、尿もれがあって……』と打ち明けてくださる方もいらっしゃいます」(「」内、乾先生。以下同)

データの数字以上に、尿もれの悩みを抱えている人は多いと考えられます。それだけ、誰にでも起こりうる、ごく一般的な症状なのだということ。乾先生は、尿もれがあっても“年のせいだから”と諦めてしまっている人もいるのではないか、と指摘します。

尿もれ(尿失禁)の原因には4つのタイプがある

null

“尿もれ=加齢によるもの”のイメージもありますが、そもそも尿もれはなぜ起こるのでしょうか?

「まず、尿もれの正式名称は『尿失禁』。自分の意思に反して尿が排出される状態を言います。尿失禁の原因は大きく4つあります。

1つ目は、腹圧性尿失禁。これは、重い荷物を持ち上げたり、くしゃみをしたり、お腹に力が入ったりしたときに尿がもれてしまうものです。一般的に尿もれでイメージされるのは、この腹圧性尿失禁ですね。

2つ目は、切迫性尿失禁。これは過活動膀胱の症状によるものです。過活動膀胱とは、膀胱に尿が十分にたまっていなくても、意思とは関係なく膀胱が勝手に収縮してしまう疾患です。尿意を感じてからトイレに急いでも間に合わず、尿もれということに。急な尿意を『尿意切迫感』と言います」

急に尿意を感じて、トイレに着く前に尿がもれてしまう……。電車に乗っているときや、会社での会議や商談中など、すぐにはトイレに行けない状況で、お困りの方もいるのではないでしょうか。

「3つ目は溢流性(いつりゅうせい)尿失禁。自分では尿を出したいのに出せない、でも少しずつもれ出てしまう状態です。排尿の機能が悪く、尿を出しきれていないと、膀胱から尿があふれてしまうのです。

そして4つ目は、機能性尿失禁。これは排尿の機能に問題があるわけではなく、足腰が衰えてトイレに行くのに時間がかかってしまったり、認知機能が落ちることで気付かないうちに排尿してしまったりといった、身体運動機能の低下や認知症によって起こるものです」

私たちが一口に“尿もれ”と言っている症状には、さまざまな原因があるんですね。加齢によって起こるものだけではないので「年だから仕方ない」と諦めずに、まずは何が原因なのかを知ることが大切なのだと分かりました。

加齢や出産で起こりやすい腹圧性尿失禁

null

4つのタイプの尿失禁のうち、出産した女性に多いといわれる腹圧性尿失禁について詳しく教えてください。

 

膀胱を支える位置にある、骨盤底筋群

腹圧性尿失禁には、骨盤底筋群が関係しています。お腹周りにある、腰骨に覆われた部分を骨盤と言いますが、その下側には骨盤底筋群という筋肉の層があり、子宮や膀胱など、骨盤の中にある臓器を下から支える役割をしています。

骨盤底筋群が衰えたり緩んでくると、排尿のコントロールがうまくできなくなり、腹圧性尿失禁を引き起こすのです

骨盤底筋群が緩んだことで、重い荷物を持つなどお腹に力がかかったときに、グッと締めておけずに尿がもれてしまうのですね。

骨盤底筋群が衰えるのは、何が原因ですか?

「女性の場合は、加齢や妊娠、出産が影響しています。筋肉は加齢によって衰えますが、骨盤底筋群も例外ではなく、年とともに弾力性などが衰えます。

特に自然分娩を経験した女性は、出産時に骨盤底筋群が伸びるため、腹圧性尿失禁を発症しやすくなります。また帝王切開を経験した女性でも、妊娠自体が骨盤底筋群にストレスをかけるため、尿失禁のリスクは増加します。ただ自然分娩に比べると、そのリスクは低いとされています。

もちろん、子どもを出産した方が全員、腹圧性尿失禁になるわけではなく、個人差があります。

また出産経験の有無にかかわらず、肥満や便秘症の方も、腹圧性尿失禁になりやすい傾向があるので、注意していただきたいです

出産をきっかけに尿もれをするようになった、という話はよく聞きます。具体的には骨盤底筋群が伸びたことが理由だったのですね。

尿もれを改善する骨盤底筋体操

null

一度、緩んだり、衰えたりした骨盤底筋群は、元に戻るのでしょうか?

「骨盤底筋群は筋肉なので、筋トレのように骨盤底筋体操をすることで鍛えることが可能です。インターネットで多くの骨盤底筋体操が紹介されているので、自分の生活リズムに合ったものを見つけてみてください。

大切なのは、どの体操をするにしても、骨盤底筋群がどこにあるのかをしっかり意識すること。そのためにいい方法があります。排尿中に、1回グッと尿を止めてみてください。そのときに使った筋肉が、骨盤底筋群です。

筋肉を鍛える際には、どこを動かしているのかしっかり意識しながら刺激を与えることで、はるかに効果が高まります」

なるほど! 排尿を止めるときに使っているのが、骨盤底筋群なんですね。今まで、漠然と下腹部のあたりをイメージしていましたが、具体的に筋肉の動きを確認できると意識しやすいです。排尿のときに自分で試してみるのがポイントですね。

「骨盤底筋群を使う感覚がつかめたら、毎日の生活の中にトレーニングを取り入れることが大切です。少しずつでいいので、継続することを目指しましょう。そのためには、自分が無理なくできる方法を選ぶのがおすすめ。

例えば、立ち仕事をしている方は立ったままできるトレーニングを、デスクワークが多い方は座った状態でできるトレーニングだと、気が付いたときに動かせるので継続しやすいと思います」

仕事やライフスタイルに合わせて、自分が取り入れやすいトレーニング法を選ぶことがポイントですね。泌尿器科のクリニックなどでは、骨盤底筋体操を教えているところもありますので、直接方法を知りたい方は問い合わせてみてください。

「また、腹圧性尿失禁は骨盤底筋群の衰えだけでなく、体重や排便状態なども関わっているため、ダイエットや便秘の解消など、生活習慣の改善が効果的です」

ただその上で、乾先生は「自分の判断で、尿失禁のタイプを決めつけてしまうのは要注意」だと言います。

「例えば、腹圧性尿失禁と切迫性尿失禁の両方が当てはまる人もいます。切迫性尿失禁は薬での治療が必要なので、骨盤底筋体操だけでは症状は改善しません。

泌尿器科では、尿もれの原因が4つのタイプのどれなのかを診断した上で、適切な治療を行います。尿もれの症状にお困りの方は多く、決して恥ずかしいものではありませんので、まずは気軽に受診していただきたいです」

原因を自己判断したり症状を諦めたりせず、まずは受診して原因をつきとめることが、尿もれ改善の第一歩。なかなか人には言いづらい尿もれのお悩みですが、薬やトレーニングによって改善できると知って安心しました。

次回は、「膀胱炎」と「泌尿器科受診のコツ」について話をお聞きします。

【取材協力】

乾将吾(いぬい しょうご)先生。
いぬいクリニック院長、日本泌尿器科学会認定泌尿器科専門医・指導医。
2009年、京都府立医科大学卒。卒業後、同泌尿器科に入局。京都府立医大病院のほか京都市内の複数の病院で勤務後、在宅医療にも従事し、より広範な医療現場を経験する。
2022年「いぬいクリニック」を京都の烏丸御池・二条城エリアに開院。

クリニックを診療の場としてだけでなく、人々が集うコミュニティへと発展させるべく、フラットスペース「いぬいのいこい」をクリニック2階に設けワークショップなどを開催。

いぬいクリニックwebサイトはこちら。

安藤梢
安藤梢

フリーランスのライター。専門分野は医療。
出版社での営業職を経て、「人の話を聞く仕事がしたい」という思いでライターに転身。病院や医師の取材を中心に、医療系の雑誌、Web、広報誌、企業のオウンドメディアなどでインタビュー&ライティングをしています。夫と猫との2人+1匹暮らし。ライフワークは医師の人生についての聞き書き。

pin はてなブックマーク facebook Twitter LINE
大特集・連載
大特集・連載