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【泌尿器科医が解説】トイレに行く回数。1日に何回が正常?頻尿(ひんにょう)は薬やトレーニングで改善可能です

年齢とともに気になってくる排尿の悩み……ですが身近な人にはなかなか相談しにくいもの。「排尿や泌尿器疾患について正しく知ろう」というこの連載、第2回はずばり「頻尿(ひんにょう)=尿の回数が多いこと」についてです。

泌尿器科医である乾将吾先生に、なぜ頻尿になるのか、泌尿器科ではどんな検査や治療を行うのかを、教えていただきました。

「頻尿」は疾患ではなく、尿の回数が多い症状のこと

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年齢を重ねるにつれて「1日に何度もトイレに行ってしまう」「トイレに行ったばかりなのに残尿感がある」と、排尿の悩みを抱える人は少なくありません。日常生活にも影響するため、実は深刻ですよね。

乾先生によると、泌尿器科を受診する多くの人が、「頻尿」に関する悩みをもっているそうです。

「トイレに行く回数が増え、それが仕事や日常生活に支障をきたすことで泌尿器科を受診される方が多いです。昼間だけ排尿の回数が増えることもあれば、夜間だけ、あるいは昼夜問わずに増えることも。

1日に8回以上の排尿が頻尿の目安とされていますが、一概に回数だけで判断することはできません」(「」内、乾先生。以下同)

1日7回までであればOKというわけではないんですね。

「頻尿とは疾患の名称ではなく、『尿が近い、尿の回数が多い』という排尿の症状のことを指します。たとえ1日7回以下であっても、本人が『トイレに行く回数が多いな』と感じているのであれば頻尿といえます。日常生活に支障をきたすなど、お困りでしたらまずは泌尿器科を受診してみてください。

一方で、水をたくさん飲む人は、当然トイレに行く回数も増えますよね。それでも特にお困りでなければ、頻尿ととらえる必要はないんです」

頻尿という言葉は一般的にも知られていますが、疾患名ではなく、症状のことなんですね。トイレに行く回数が多いことで生活に支障をきたしていたり、困っていたりするのかが、頻尿の基準になることも分かりました。

頻尿の原因は、疾患やケガ、精神的なものまでさまざま

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では、どうして頻尿になるのでしょうか?

「頻尿には様々な原因があります。例えば、過活動膀胱という状態では、自分の意志に反して頻繁に尿意を感じるため、トイレに行く回数が増えます。膀胱にためられる尿の量が少ないため、脳への信号が過敏に送られてしまうのです。

また、糖尿病で水分の摂取量が増えると、頻尿になることも。ほかには、腰を骨折した人が頻尿になる傾向もあります。これは膀胱に尿がたまったことを脳に知らせる信号が、腰の辺りを通っていくためです。一般にはあまり知られていませんが、ご年配の方にはよく見られますね」

疾患やケガなどによって頻尿になることがあるのですね。一見関係がないように見える腰の状態が、排尿の症状に影響しているとは驚きです。

「男性の場合は前立腺肥大症といって、膀胱の隣にある前立腺が大きくなることで、膀胱を刺激して排尿の回数が増えることがあります。

加えて、尿意は心理的な影響も大きく受けます。さっきトイレに行ったばかりなのに、出かける前にまた行きたくなったり、寝る前に心配になって何度も行ったり。『この場所に来るといつもトイレに行きたくなる』など、特定の場所と尿意がひもづけられている人もいます」

言われてみれば、思い当たることがあります。気にし始めるとトイレに行きたくなるような……。尿意が心理的な影響を受けるというのも納得です。
よく“年をとってトイレが近くなった”という話も聞くのですが、加齢と頻尿には関係があるのでしょうか。

「膀胱は筋肉などによって伸び縮みしているので、足腰の筋肉と同じように年とともに働きは衰えていきます。そのため、加齢によって膀胱が尿をためにくくなる、尿を出しにくくなる影響もあるでしょう。ただ、全員が膀胱の機能が衰えていくのかというと、そうではありません」

若い頃に比べてトイレの回数が増えたなと思っても、日常生活に問題がなければ気にしすぎる必要はないということ。過剰に心配しなくてもよいのですね、安心しました。

排尿と蓄尿、どちらに問題があるのかを知ることが大事

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頻尿が排尿の症状の一つだということは分かりました。では、頻尿の症状を抑える方法はあるのでしょうか?

「排尿には、膀胱に尿をためる“蓄尿期”と尿を出す“排尿期”がありますが、どちらに問題があるのかが分かれば、それに応じて症状を抑えることもできます。そのために大事になるのが検査です」

乾先生によると、クリニックを受診した際には、まずは膀胱炎かどうかを調べる尿検査を行うとのこと。気付かないうちに膀胱炎になっている人が少なくないそうで、それをチェックするのが目的です。

その上で、蓄尿期と排尿期、それぞれに障害があるかどうかを調べるための検査法があるといいます。

「まず、排尿期の『尿を出す機能』を調べるために超音波検査を行います。尿検査で尿を出し切った後の膀胱の中を見て、尿がほとんどなければ問題はありません。しかし、もし残尿が多ければ、尿を出す力が落ちているということ。尿を出し切れていないために、膀胱に尿が早くたまり、頻繁に尿意が起こっているのです」

しっかり尿を出し切れていないと、その分、膀胱に尿がたまるスピードが早くなる。それで頻尿になるのですね。排尿の機能に問題がなければ、次はどんな検査を?

排尿の記録をつける「排尿日誌」のセット。

蓄尿期の『尿をためる機能』を調べるために “排尿日誌”をつけてもらいます。メモリの付いた計量カップを使い、排尿と水分摂取をした時間と量を書きこんでいきます。記録の目安は3日分です。

排尿日誌をつけることで、1日の排尿量を量ることができます。また、摂取している水分も計測してもらうことで、もし明らかに多いようであれば、摂取量を調整することで頻尿を改善できます」

なるほど。頻尿の原因が水分を摂取しすぎていたから、ということもありそうです。普段、自分がどのタイミングでどのぐらいの量を排尿しているのか、意識することはありませんでしたが、排尿日誌をつければ排尿の状態も蓄尿できているかも把握できますね。

頻尿は、薬やトレーニングで改善が可能

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検査で排尿と蓄尿の機能を調べたら、その後は、どんな治療をするのでしょうか?

「排尿と蓄尿、それぞれの問題に合わせて薬で症状を抑えることができます。例えば、排尿に問題があれば、残尿を減らす薬を処方します。両方に問題がある場合もあるので、治療はバランスを見ながら行います」

頻尿の悩みは、薬によって改善することができるんですね。

「過活動膀胱であれば、膀胱にためられる尿の量を増やしていく“膀胱訓練”も有効です。尿意を感じても少し我慢する。それを続けることで、膀胱にためられる尿の量が増えていきます。皆さんに効果があるわけではありませんが、膀胱訓練によって機能が回復する人もいます。

ただ、排尿に問題のある人が我慢をすると、逆効果になりますので自己判断には注意が必要です」

膀胱訓練ができるかどうかを知るためにも、排尿と蓄尿、どちらに問題があるのかを調べることが大事なのですね。頻尿で困っていれば、悩まずに泌尿器科を受診したほうがよさそうです。

「“泌尿器科=恥ずかしい”と思われている方もいるようですが、泌尿器科で行う検査は、尿検査や超音波検査くらいで、治療も服薬がほとんど。実は、皆さんが思っているよりも、受診しやすい診療科なのです。排尿は毎日のことですので、我慢せずに相談してください」

確かになんとなく「泌尿器科は未知な場所。受診するのが恥ずかしい、ハードルが高い……」という思い込みがあったかもしれません。

オトナ女子にとって、なかなか人に言えない排尿の悩みですが、これからは気軽に泌尿器科を受診して相談したいものです。

次回は気になる「尿もれ」について教えていただきます。

【取材協力】

乾将吾(いぬい しょうご)先生。
いぬいクリニック院長、日本泌尿器科学会認定泌尿器科専門医・指導医。
2009年、京都府立医科大学卒。卒業後、同泌尿器科に入局。京都府立医大病院のほか京都市内の複数の病院で勤務後、在宅医療にも従事し、より広範な医療現場を経験する。
2022年「いぬいクリニック」を京都の烏丸御池・二条城エリアに開院。

クリニックを診療の場としてだけでなく、人々が集うコミュニティへと発展させるべく、フラットスペース「いぬいのいこい」をクリニック2階に設けワークショップなどを開催。

いぬいクリニックwebサイトはこちら。

安藤梢
安藤梢

フリーランスのライター。専門分野は医療。
出版社での営業職を経て、「人の話を聞く仕事がしたい」という思いでライターに転身。病院や医師の取材を中心に、医療系の雑誌、Web、広報誌、企業のオウンドメディアなどでインタビュー&ライティングをしています。夫と猫との2人+1匹暮らし。ライフワークは医師の人生についての聞き書き。

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