価値観をくつがえした大事故
外資系人材派遣会社に勤めていた頃のこと。ある日私は首都高速道路で玉突き事故に巻き込まれてしまいました。後から車が前方不注意で追突してきまして、車は一瞬で炎上して火だるまになりました。当時新聞にも乗ったほどの大事故でした。
私は大変な火傷をおって生死の境をさまよいました。幸い一命はとりとめましたが、顔も手も火傷で腫れ上がって、ひどい状態となり、しばらく入院生活を送ることになりました。
結局、私はこの事故で仕事を辞めることになったのですが、同時に今までの生き方や仕事観を問い直す、大きな転機となりました。夫婦のこと、仕事のこと、そしてこれまでの生き方そのものを、見つめることができました。今まで仕事が忙しいという理由で、分かろうとしなかった人の優しさやありがたみに気づかされ、そして本当の豊かさ、幸せって何だろう、と深く考えました。一方で、自分さえ頑張れば報われる、頑張れば順風満帆に行くのが当然、と考えていた自分の傲慢さにも気づきました。
その後、フリーランスのコンサルタントとして独立し、仕事に復帰しましたが、事故に遭ったことで、それまでの自分の仕事観、もっと言えば人生観までが大きく転換していました。事故にあったことは不幸でしたけれど、そのおかげでしっかり立ち止まる機会を得られたのです。
“自分のボート”を自分で漕ぐ喜びを
私は、仕事においてビジョンを成し遂げるために必要なのは、“自分のボートは自分で漕ぐ”ということ、その喜びを知ることだと考えています。大事なのは、何のために漕ぐのか、どこに向かうのかを考え抜いて、行動することです。そして待つのではなく、自分から始める構えを持つこと、失敗も歓迎することです。
相手の笑顔が自分の笑顔に、それが周囲の笑顔につながって、一気に世界を変えることができると信じられる楽観性も必要です。笑顔にあふれたプロセスは成長を生み、その成長は確かな結果を創り、継続的成長に貢献し続けます。
私は遅咲きで、40歳を超えてから会社を立ち上げたのですが、多様性を念頭におき、自分とは違う性別・年代・バックグラウンドを持った、自分とは異なる人と組もう、多様性を活かせるチームで仕事をして、もっと世界を広げようと決めていました。そうすることが、組織を柔軟にし、課題の多い自分の修行にもきっとなると、漠然と考えていたのです。
また、戦いのようなビジネススタイルや、勝負の二者択一ではなくて、どちらも調和させることでよりハッピーになるようなワークスタイルを作って行こう、という考え方にシフトしていました。それはまさに、女性だからこそ実現できる新しいビジネススタイルです。この考えをひとりでも多くの方に伝えたいとの思いから、後に女性限定のビジネススクールを立ち上げることにもなりました。
つくづく思うのは、“人生は、自分の物語を書いているようなもの”ということです。あなたという物語の筆者はあなた自身です。しかし、自分では何ともならない理不尽なことは必ず存在します。そんな時でも、“面白がる力”こそが成功のカギになります。
大事なことは、“口角を上げて笑顔で考えてみる”こと。壁にぶち当たったり、行先が見えなくても、笑顔を忘れなければきっと大丈夫。世の中というのは、案外悪くありません。
深刻にならず真剣に、そして笑顔で希望を持てる人にこそ、希望はやってきます。
【筆者】河北隆子(かわきた・たかこ)
日本女子経営大学院代表理事、学長。イノベーションアソシエイツ株式会社代表取締役Co-CEO。1960年東京生まれ。総合オフィスサプライヤー企業、外資系人材派遣企業を経て、コンサルタントとして独立し大手自動車会社の販売チャンネル変革プロジェクトのプログラム開発展開のコアパートナーとして活躍。その後、人と組織の持続的な学習成長イノベーションと定着化を得意とするイノベーションアソシエイツ社を創業。2015年1月、働きながら学ぶ女性限定ビジネススクール日本女子経営大学院を開学、現在に至る。生涯学習開発財団認定コーチ、ジョージワシントン大学大学院コース修了GIAL認定シニアアクションラーニングコーチ、日本メンタルヘルス協会心理カウンセラー基礎認定、文科省学校力向上検討委員。企業、教育、自治体他多様な産業において、人と組織に関するリーダーシップ開発、問題解決支援、女性活躍などに従事。人と社会が循環して起こす幸福で共創的な日常のイノベーション創出のために、自由で多様性のあるビジネスに挑戦している。
2015/4/23 BizLady掲載