悪意と戦えるのは“ユーモア”しかない
——夢眠さんのTwitterは、約24万7000人のフォロワーがいます(2016年12月7日現在)。前編でも「心ない言葉をかけてくる人がいる」とおっしゃっていましたが、夢眠さんはそういう意見に、うまく対応されていると感じます。「嫌だな」と思うことは当然あるかと思いますが、そんな気持ちをどうやって濾過していますか?
夢眠:悪意に対抗するうえで、最も強いのは、ユーモアだと思っているんです。人を傷つけるようなコメントって“しょうもない”から、相手を“滑っている”とみなして、どう笑いにもっていけるかという、大喜利みたいな感じで返すことを心がけています。
芸人さんとかと仕事をしていて“笑いに変えるという気遣い”があるんだなと知れたんです。おちゃらけているふりをして場を回していけるのって、大人だなって。
まともに反論したら、もっともっとひどいことを言われるかもしれないけれど、ぐっとこらえて冗談で返したら相手は何も言えなくなるし、周りも「あ、素敵だな」って思ってもらえるかもしれないじゃないですか。
——たしかに「大人だな、余裕があるな」と感じますね。
夢眠:私が尊敬している人って、たとえば私が失敗しても、デーンとかまえていたり、ニコニコ接してくれたりするんです。厳しい状況でも笑顔で対応してくれることで、みんなが先に進みやすくなる。“笑い”って次の場を作るために耕す行為になるなと考えています。
アイドルに「ブス」というのは、電車で見知らぬ女性に暴言を吐くのと同じ
――『まろやかな狂気』ではインターネットの上の心ない発言に対して、「アイドルを人間として見てない発言が、世の中に溢れすぎてる」と問題提起されていますが、夢眠さんがは実際にどのように対応されているんですか?
夢眠:アイドルと言うと、どんなときでもニコニコ笑って愛想をふりまいて……というイメージがあるかもしれませんが、私はファンと喧嘩をすることもあるんです。たとえば、ひどいことを言われたら、「普通、好きな女の子にそんなこと言わないでしょ」って。
ネット上では、よくアイドルや女性芸能人に対して「ブス」と言う人がいますよね。それって、電車の中で見知らぬ女性に「ブス」っていうのと同じなんですよ。インターネットは架空の空間だと思っているかもしれないけど、その先には人間がいる。すごく当たり前のことなんですけど、ネットは顔が直接見えないから、感覚が麻痺しちゃっている、想像力のない人も中にはいると感じます。
――「相手は人間なんだよ」と、好きな人に語りかけてもらわないと気づけない人もいるから、この本の役割は大きいですね。どこかの偉い人に言われても「ふーん」で終わってしまうかもしれないけど、夢眠さんだから「そうだよな」と思える読者がいる。
夢眠:そうだといいなあ。『まろやかな狂気』は、ありがたいことにたくさんの方に手にとっていただいて。感想の中でとくに印象的だったのは、中高生が「今の時期に読めてよかった」と言ってくれること。私も多感な時期に本を読んで刺激を受けたから、この本もそうなれたらうれしいなって。“自分”が残る本になったと思っています。
――夢眠さんの考え方の変遷もわかりますね。夢眠さんの語りがメインの本ですが、2014年のものと最近のインタビューとでは、考え方が少し違ってきたのかなと思う部分があります。
夢眠:そうですね。変化はあると思います。この本の中でも、矛盾を悪いものとしていなくて。「矛盾するのはダメ」という人は多いけど、私はすごくいいことだと思うんですよ。成長している、ということだから。
何でも調べられるネット上だからこそ“想像力”が大事
――本の最初に掲載されている「平等とかを掲げてくる人たちに、怯える事なく不平等に」という一文が印象的でした。
夢眠:不平等も、悪いことではないと思っているんです。たとえば、ライブ映像の前半部分だけを無料動画配信サイトで流したとしますよね。「なぜ後半は観られないの?」「音質が悪い」などの不満コメントが出てくるわけですけど、「なぜ、お金を払ってライブ会場に来てくれたひとと同じ扱いを受けられると思うの?」って感じるんです。でも、今はそれがまかり通っている。
もちろん、中高生とかで、どうしてもライブに来られない人はいると思うんです。でもだからって、文句を言うのが当たり前という学びを、インターネットで得ないでほしい。“対人間”として考えてほしいんです。ライブをやるのはお金がかかるんだよ、と。
——先ほどの“想像力”の話と繋がってきますね。
夢眠:そうですね。インターネットができて、いろんなことが知れるようになったのだから、裏にあることまで考えが及ぶように進化すればいいのに、今は考えないように進化しているのがすごく嫌だなと感じます。
「幸せそうに思われたい」はいいことだと思う
――SNSで自分の意見を発信する上で、「これを呟いたら幸せアピールだと思われるんじゃないか」という恐れと、「幸せそうに見られたいなあ」という欲を抱えて、どう呟いたらいいものか悩む、なんて人もいると思います。
夢眠:「幸せって思われたい」って、超いいと思います! ツイートで「しんどい」とかネガティブなことを書いていると、かまってちゃんっぽいじゃないですか。じつは、私も昔はそうだったんですよ。「こんなにがんばった!」みたいなことを言ってしまっていた。
私の好きな言葉で、「ファンはアイドルの鏡」というのがあるんですけど、フォロワーや友だちも一緒だと思います。幸せアピールして離れていくような器の小さい人と仲良くする必要はないですよ。
例えばおしゃれなカフェごはんをアップしたときに、「アピールかよ」なんて思わずに、素直に「へえ、おいしそう!」と言ってくれる人と仲良くしたいじゃないですか。ひがんでいる人と一緒にいてもプラスにならないし、可愛い子にはかわいいと言える自分であったほうがいいですよね。
ひがみは“30歳超えたら顔に出る”というから、そういう意味でも気をつけたほうがいいですよね。
実体験として、「気づき」で軌道修正はきくと思うんです。私は暗かったし、かまってほしかった。仲間に、応援よりも、「つらいね、大変だったね」と言ってほしかった。それが“味方”だと思っていたんです。でもそれは違うなと、今は思うようになりました。全員でずるずる共倒れしちゃうから。
また、いつも笑顔を心がけると、本当につらいときに助けてもらえるという利点もありますよ。
人の変化に気づくための訓練をしよう
――夢眠さんは、入れ替わりが激しいアイドル業界の中で、唯一無二の存在感があると思います。自分を印象づけるためにしていることはありますか?
夢眠:握手会とかだと、一度手を握ったらそれ以降はもう会わないかもしれないから、誠意を尽くすようにしています。単純な話ですが、クリームを塗って手の触り心地をよくしておくとか。ガサガサだったら「ガサガサだったな」という印象ばっかり残るじゃないですか。
握り方も人によって変えています。相手を見た一瞬で、自分ができることを精一杯するようにしています。
――長期的・短期的にできることがあるんですね。
夢眠:一辺倒でいくと、“その人にとっては”いい印象ではないかもしれないので、相手にあわせて変えるように気をつけています。
——相手を観察する目は、どのようにして養われたのでしょう?
夢眠:中高が女子校で、そのときの経験がすごくよかったと思ってるんです。みんな、細かいところをすごく褒めるんです。無理やりいいところを探すんじゃなくて、ふとしたときに「唇の色がきれいで羨ましい」なんて言ってくれるタイプの人と過ごしていて。その影響で、私も人の何かが変わったら気づく訓練ができているかもしれません。握手会で「さっきと服が違うじゃん!」と気づいたり。
SNSも、自分が褒められるためにやるんじゃなくて、「この人はあんぱんを食べていて、いつもつぶあんだな」と覚えておく。で、ちょっとしたお土産を買うときに「つぶあんですよね」とプレゼントして喜んでもらう―—というような使い方をしたほうが、ハッピーな気がしますね。
2016/12/11 BizLady掲載