「矢先」の意味は?
「矢先」の意味は?“矢先”には3つの意味があります
- 矢の先端
- 狙うめあて
- 物事が始まろうとするするちょうどそのとき
現代日本語では、おもに「3」の「ちょうどそのとき」の意味で使われています。
矢を由来とした言葉で「これから矢を放とうと弓を構え、その矢の先が向かうところ」から転じて「ちょうどそのとき」の意で使われるようになったと言われています。
「出かけようとした矢先に電話が鳴った」というような形で用います。
「矢先」の使い方の注意点は?よく見かける間違った使い方
「矢先」の使い方の注意点は?よく見かける間違った使い方“矢先”の注意点は2つあります。
(1)「矢先」は「直前」「直後」の意味ではない
“矢先“は、「ちょうどそのとき」の意。ところが、“直前””直後”という意味で使っている誤用が見受けられます。よくある誤用例をご紹介します。
【よくある間違い例】
◆後輩に注意をする矢先に、既にミスをしていた。
→“矢先”を“直前”の意味で使うのは誤り。
◆レジでの会計が終わった矢先に、買い忘れた物があることを思い出した。
→“直後”の意味で使うのは、誤り。
繰り返しますが“矢先”の意味は、「ちょうどそのとき」。
「Aをしようとした矢先にBが起こった」と言ったとき、Aが始まろうとしたタイミングでBが起こることを表します。そのため「Aの直前にBが起こる」「Aの直後にBが起こる」の文脈で“矢先”を使うのは、誤りです。
(2)「矢先」を単独では使わない
“~の矢先”“~しようとした矢先”といった連体修飾語を受けて使うのが一般的です。単独で“矢先”が使われることはありません。
【よくある間違い例】
会社を出た。矢先、雨が降ってきた。
→“矢先”を単独で使わない。この場合は「会社を出ようとした矢先に雨が降ってきた」など。
「矢先」の例文は?
「矢先」の例文は?“矢先”を用いた例文をご紹介します。
・仕事を切り上げようとした矢先に電話がかかってきた。
・電車を降りようとした矢先にドアが閉まった。
・迷子になりかけた矢先に案内表示をみつけた。
・退職を検討し始めた。そんな矢先に新しいプロジェクトが舞い込んできた。
また、“矢の先”という意味では以下のように使われることもあります。
・敵陣では、弓を持った武士たちが矢先をそろえて構えていた。
「矢先」を言い換えると?類語は?
「矢先」を言い換えると?類語は?“矢先”と類似の意味を持つ言葉をご紹介します。
(1)「出端」
“出端” (読み方:ではな・でばな)は、“出ようとしたとき”“物事を始めてすぐ”の意。“矢先”と異なるのは単独で使うことができる点です。
【例文】
・出端に来客があった。
・出端に雨が降ってきた。
(2)「途端」
“途端”(読み方:とたん)は、“ちょうどそのとき”“同時”“直後”の意。“矢先”とは異なるのは、“直後”の意でも使われている点です。
【例文】
・ソファに座った途端に眠くなった。
・父親がその赤ちゃんをあやすと、とたんに泣き止んだ。
(3)「~やいなや」
“~やいなや”は“~するとすぐに”“~すると同時に”の意。“矢先”と異なるのは、“同時”だけでなく“直後”の意味でも使われる点です。
【例文】
・彼は、昼食を食べ終えるやいなや、スマートフォンを取り出した。
(4)「折も折」
“折も折”(読み方:おりもおり)は、“ちょうどそのとき”の意。“折しも”、“折りから”とも言います。
【例文】
・慌てて外に出ようとした折も折、にわか雨が降ってきた。
以上、今回は国語講師の吉田裕子さんに“矢先”の意味や使い方、注意点について解説していただきました。
“直後”や“直前”ではなく、“ちょうどそのとき”の意味ですので、注意して使いましょう。
取材・文/北川和子
国語講師。「大学受験Gnoble」やカルチャースクール、企業研修などで教えるほか、「三鷹古典サロン裕泉堂」を運営。10万部突破の著著『大人の語彙力が使える順できちんと身につく本』(かんき出版)など、言葉や敬語、文章術、古典に関する発信も多い。近著に『大人に必要な読解力が正しく身につく本』(だいわ文庫)、『見るだけ・聴くだけで語彙力アップ デキる大人の話し方』(主婦の友インフォス)。東京大学卒業。